第4話 先輩とカブトムシ(3)
「おーい、こっちこっち!早く早く!!」
先輩が妙に僕を急かす。別に僕が早く行こうが行かまいが、おそらく先輩が手にしているであろうカブトムシが逃げるというわけではなかろうに。
そんなことを思いつつも、僕はいつもよりか若干の駆け足で先輩の元へ向かう。
なぜだろう。僅かばかりではあるが、自身の気持ちが高揚していくような気がする。別に僕は特段カブトムシが好きだといったわけではないのに。
――ではこの高揚感はいったい何なのだろうか
もしかしたら、これは非常に容易い問いなのかもしれない。ただ、僕にとっては極めて難解な問いであった。
そんなようなことを考えていたら、いつの間にか先輩の元へと着いていた。
「呼ばれたんで来ました。で、捕まえれたんですよね、カブトムシ」
「うん!捕まえたよ!見たい?」
「見せるために僕を呼んだんじゃないんですか。……まぁ見たいか見たくないかと言われれば見たいですけど」
「うんうん、素直でよろしい。それで良いんだよ」
随分と誇らしげである。
「それじゃあ見せるよ。はいっ!」
そう言って先輩が勢い良く手を開くと、両手で包み隠していた中から、黒光りの光沢を持つ生き物が出てきた。その黒光りした生き物は、先輩の右手をぐるぐると周回するように元気よく動き回っている。
ツノが見当たらないので雌であろうか?大きさもそんな感じである。しかし、果たしてカブトムシはこんな機敏に動き回っただろうか。
もう少しじっくりと見るために、僕は先輩の手へと顔を近づけた。
その黒光りする物体は、素早くちょこちょこと先輩の手を動き回り、頭の二本の触角を左右に大きく揺らしている。
――ん?どこかで見覚えが……
「うわあぁ!!!」
あまりの驚きに尻餅をついた。
家でヤツと出会ったときのあの感じ。ゾワっと身の毛がよだつあの感覚が僕を襲ったのだ。
「やったー、ドッキリ大成功ー!」
やられた。
先輩にしてやられたのだ。
「それにしても廣瀬くん、派手に驚きすぎだよ。面白すぎ」
そう言う先輩は、顔をくしゃくしゃにしながら大笑いをしている。
――そう笑う先輩を下から見上げていると、なんだか僕の心はドキドキせずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます