第3話 重なる姿
前に買っておいた食材が、ほぼそのまま残っている。
……ちゃんと食べとけって言ったのに。
軽いめまいを覚えつつ、適当に食材意を取り出して、まな板の上へ。
猫用のご飯らしきものは見当たらないし、一緒に何かしといたほうがいいな。さりげなく猫がいるはずのリビングを見た。が、当の本人の姿はなく、足元に気配を感じ、下を向くとそこにいた。
こいつ、いつ間に台所へ侵入していたんだ。渋い顔して猫を見ると、こちらを射抜く金混じりの緑色の目と目が合う。
「人間とおんなじもん食わせていいんだっけ?」
ベースは人間(かも知れないが、)今は猫だ。
動物ごとに食べれない食べもんあったはずだし、一応調べておこう。
一通り調べ終わったスマフォを閉じて、まな板の上に並べた食材のうちのいくつかを冷蔵庫に戻す。
残った食材は、人参と鳥のミンチ、卵とほうれん草か。
やってやれないことはなさそうだ。
薄手とは言え、調理をするのに邪魔くさい長そでをたくし上げ、手を洗う。
俺用の白米は早炊きで、炊飯器にセット。
ミンチには一度軽く火を通す。ほうれん草と人参は俺用と猫用にそれぞれサイズを変えて、包丁で切っていく。
「お前、危ないから向こうで大人しくしとけ」
未だに足にじゃれつく猫に一応忠告をいれた。一瞬足への攻撃が止んだが、あくまでも俺の言葉を聞くつもりがないのか、猫はじゃれつくのをやめはしなかった。
――それ以上注意しても、無駄なのは分かり切っていた。
なので、俺は彼女に見られている気恥しさを隠す方向で話をすることにした。
『俺の料理してる姿なんかなんともねぇだろ』
『うん。見慣れてるからねぇ』
背中に気配だけを漂わせている彼女が、こちらをからかう声色で返事をした。身体を前に出してこないだけ、邪魔をしていないつもりらしい。
『でも、誰かにご飯作ってもらえるって幸せだなぁ。と思ってさ』
声を聞いただけで、猫みたいに目を細めて笑う彼女の顔が、頭に思い浮かぶ。
『……言ってろ』
こっちの気持ちをまるで知らないような口振りに、俺は僅かばかり機嫌を損ねて返した。それを意に介した風でもない彼女は、足音を立てないようそっと台所を離れる。
『どんな料理になるのか楽しみ』
そして俺の周りには、静かな時間が訪れた――
数日前にも繰り返した
猫なんて、たまたま付いて来ただけだろ。俺には分からんが、野菜の匂いを敏感に感じ取っただけで、きっと他意はないはずだ。
俺は確かに、未希帆の面影を猫に探していた。
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