第13話

受付に着くと早速武甲への荷物を要求したが、手配に1〜2日はかかるとの事。前日に武甲への手紙が出でしまった後だったからだ。

潤伍にも生活がある。岐阜と長野をすっ飛ばしたので、切実なところだ。

思いもよらず出来た休日をどう過ごすか迷っていると、不意に声をかけられた。


「お〜!オバッちゃん!」


この呼び方も何だか懐かしい。


「本間、こんな所で何してるんだ?」

「いや〜、此処の隊長さんに被害者の女連れてくるように言われてな。今は聴取中だ」

「そうか…少しづつでも進んでるようで良かったな。良太や上野は元気か?」

「2人共元気だ。それより報告があるぞ」


本間は得意気に鼻を擦っている。


「俺と上野な、村内の爺さんの手伝いしてんだ」

「村内さんの?」

「あぁ、最近調子悪いみたいでなぁ。俺らもアソコはちょくちょく世話になってたから沖本さんに相談したんだ。カタギになるつもりもねぇが、爺さんが迎え入れてくれたもんで、自然にそうなっちまった」

「…随分な展開だな…大地はどうしてる?」

「自分が休憩所を継ぐって駄々こねてるが、爺さんが反対しててなぁ。今は冷戦中だ」


潤伍は顎の下に手を当てて少し考える。


「俺達が休憩所を乗っ取るんじゃないかって思ってるみたいだ」

「いい時期に来たかもしれないな…」

「あ?」

「いや…聴取はいつ迄だ?」

「そろそろ終わる頃だろうよ」

「そうか。3〜4日したら休憩所に寄る予定だ。宜しく言っといてくれ」

「おぅ、分かった」


丁度その頃、聴取を終えた女が警備隊屯所から出できた。華奢な女は長い髪を1つに纏めて、美人だがとても商売女とは思えない質素な格好をしていた。


「本間ちゃん、終わったよ。あ〜疲れた」

(ちゃん呼び…似合わん)

「アンちゃん、丁度良かった!コイツが例のオバッちゃんだ」

「オバッちゃん!ありがとう!アンタのおかげでアイツ等捕まったんだってね!本当にありがとう!」


アンと呼ばれた女は潤伍の手を握り締め、ブンブンと力強く握手を振った。


「いや…アンタの方が辛かっただろう。元気そうで何よりだ」

「あら、結構男前じゃないの!今度来てよ!たっぷりサービスするからさ!」

「…あ、あぁ…」


曖昧に返事はしたものの、潤伍にその気はなかった。

思い出すのは夏の冷えたつま先や柔らかい肌触り。その香りをまだ忘れられずにいた。

自分でもどうかと思うことがある。どんなに想っても彼女はもう居ない。

でも確かに居たのだ。そして潤伍の中にはまだ居る。

彼の中では夏との思い出がまだ思い出に出来ていなかった。


2人と別れてから宿泊所にハギを落ち着かせると、ぶらりと街へ繰り出した。

選挙ポスターの代わりのような、政策を刷った紙が街のあちこちに貼ってある。

池川の行動力には驚愕するばかりだ。

此処まで強行軍で来たので、暫しの休憩はハギには良かっかもしれない。猫は本来引っ越しがあまり好きではない。

この様な旅はハギには酷かもしれないと初めは思った。でも、潤伍はどうしてもハギを連れて行きたかった。

潤伍が送った3人の死に際に、彼は立ち会うことが出来なかった事が原因かも知れなかった。

突然に死を知らされ、その亡骸を確認する事しか出来なかったのである。

例えば潤伍1人で旅に出たとして、羽鳥に預けたとして、その間に互いに何かがあったらと考えると恐ろしくなった。

潤伍はかなりハギに依存してるのだろうか。それもまた恐ろしく思うのだった。

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