第2話『最強ってなんだよ(哲学)』


「……最強とは何か、ですか」


「うんうん。俺ってさぁ、なんやよう分からんけど、魔王倒したら皆からそう呼ばれるようになったやん? でもさぁ……」


「実感が湧かない、ですか?」


「そ。大体さぁ、魔王倒したんも、お前や他の仲間の助けがあったからやし……それに、まさか魔王がグーパン一発で倒れるなんて思うてもみんかったわ」


「強化魔法込みとしても、あれは流石に驚かざるを得ないというか」


「アイツってさ、大陸でめっさ強いねんやろ?」


「まぁ、そうですね。誰も太刀打ちできないからこそ、勇者を求めたわけですし」


「パワーバランスとかおかしない?」


「ぱわーばらんす、ですか?」


「あー……つまり、強さが偏り過ぎというか、インフレ……どんどん皆強なっていってるとか」


「まさか。あの時の戦いを見てた私達からすれば、貴方が異常に強過ぎたようにしか見えませんでしたよ、ええ」


「ホンマかぁ~? ……にしたっておかしない?」


「何がです?」


「君らが言うように俺が異常に強過ぎたとして……なんで俺、まだここにおるん?」


「それがどういう……ああ、さっきの、ぱわーばらんす、の事ですか」


「せやせや。俺ってさ、今んところはこの辺りの連中の中でも一番いっちゃん強いらしいやん? でもさぁ。今でこそなんや俺を持ち上げてあれやこれやって皆考えとるみたいやけど、俺みたいなんって普通、平和になったらいらんっつって排除ポイされるもんちゃうん? 小説とかでそういうのようあったけど」


「……まぁ、貴方の場合は規格外にも程があるといいますか。普通、たった一人が強者を超える事はあっても、数の暴力の前にはどうにもならないというのが定説の筈なのですがね。どこの誰が、魔物の混成軍を拳一つで全て殴り殺し、更には魔王が根城にしていた神殿をいとも簡単に崩壊させるような人間を相手にしたいと思います?」


「なんや凄い棘ある言い方に聞こえるんやけども」


「気のせいですよ。貴方の強さには寧ろ敬意を抱いている程で。ええ。最初に貴方と出会った頃から分かっておりましたとも。ええ」


「……もしかして、目の前でゴブリンをパァン! ってさせたん、まだ根に持っとる?」


「いやいやまさか。おぞましい腐れ……もといゴブリン共が、醜い悲鳴と共に肉片一つ残さず血飛沫になったのを、爽快感が溢れておりましたとも。鎧や顔についた汚らしい血なんて、アレに比べれば――」


「ごめんてホンマ。……まー、ともかく。そんなこんだで俺が最強って話になっとるけども……実際のところ、ホンマにそうなんか?」


「と、いいますと?」


「俺が知らんだけで――あるいは皆が知らんだけで――俺以上に強い奴がおるんちゃうんかって話や」


「いや、それは……」


「だってそうやろ? 確かに俺は魔王のアホンダラと取り巻きの……なんやったっけ、四天王? そいつらも纏めて全員いてもうたけどよ。そいつらは俺より弱かったとして、味方の連中には俺より強い奴とかおったんとちゃうん? 魔物の群れ程の数ちゃうけど、兵士とか騎士とかもいっぱいおったやん。もっと言えば、えーと……ボランティアの人らとか!」


「ギルドですねそれ。別に見返り無く戦ってたわけじゃないですからね彼ら。……というか、兵の頭数を揃えても苦戦を強いられる魔物の群れを、何の苦も無く蹴散らす貴方が言いますかソレ」


「いやいやいや。諦めたらあかんやんか。普通やったらさ、この世界の人が勇者になって、そいつが魔王を倒すんがあるべき形やん? それを、何故か俺が代わりにやらされる羽目になったけども、でもありえん話ちゃうやろ? それこそ、兵士じゃない人らも含めたら、何千、何万とおるやんか! そん中に、俺を越えられる奴がおらんて言い切れんやろ?」


「……ふむ。言われてみれば。貴方があまりにも圧倒的強者過ぎて、我々の実力が霞んで見えてましたが。なるほど。確かに、この国の人間全員が貴方と戦ったわけではありませんしね。いや、もし今負けたとしても、将来的には貴方を越えうる存在が現れるやも……」


「ていうか、ちゃっかり自分も俺より下や思うてるみたいやけど、君も大概や思うで俺。魔王とは別に暴れ取った幽霊のアイツ……猛牛もうぎゅうの王、やったっけ?」


妄執もうしゅうの王ですね」


「そうそう、それそれ。肉体のないアイツ倒せたんも、お前が聖騎士になって聖なる力でなんかこう……よう分からんけど、なんかしたおかげなんやで?」


「…………」


「あら? どないしたん? 顔背けて」


「……いえ、別に。少し、その、貴方の顔を直視できないといいますか」


「なんやなんや? もしかして照れてんの?」


「そういうずけずけと突っ込んでいくの、良くないと思います」


「ハハハ、悪い悪い。……あ」


「どうかしましたか? また私を辱めるような事はあまり……」


「ちゃうがな。……いやな。ふと思ったんやけどな。俺、これまでめっちゃ魔物倒してきたやん?」


「……? ええ、そうですね」


「それってつまり、俺、魔物めっちゃ殺してるって事やん?」


「まぁ、そうですね」


「でもって、俺のおったところって、基本的に殺し殺されとか無いし――まぁ血ぃ吸うてくる蚊を潰したりとかはするけど――犬とか猫とか、そういうのを殺すのとかもっと無いし」


「そうなんですか」


「そういう事ってな、こっちやったらすごい罪悪感半端ない事でさ。今は割り切ったけど、ちょっと前は牛とか豚とか食べるんも、命を奪ってるって考えたりして悩んでな。でもって、道徳とかの授業でもそういう話したりもするんよ」


「はぁ」





「でもさ……魔物とか魔王殺しても罪悪感無いの、なんでやろな? なんで俺、平気で命奪って、平然とおれるんやろ? ちょっと都合良過ぎひん?」





「……………」


 深く考えてはいけないような、そんな気がしてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

他称・最強の勇者はハーレムがお嫌い Mr.K @niwaka_king

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ