第14話 魔女にいきなりやられたわけで

「@!! なんでここに!?」


「@様ぁ!! いけませんわ!!」


 そんなことより、マタタビだ。いいからマタタビ。とにかくマタタビ。脱兎のごとくマタタビなのだ。


 @はフィアットの身体を駆け登る。


「@!! 黒き魔女は私達の力を圧倒してる!! だから早く逃げて!!」


「マタタビ! くれ! マタタビ! 今!」


 ヒタチが悲痛な声を上げた。


「貴方様でも敵いません!! 私達のことは見捨て、早くこの場から……」


 違う。違うんだ!


「俺はマタタビを食いたいだけなんだ!!」


 まったく噛み合わない話。二人は、逃げろ逃げろと叫び、@は、マタタビマタタビと連呼する。冷静さの欠片もない。


 そこに横やりが入る。


「くは、かはははは、はははははは。新手が来たと思いや、なんと小さき者かや? いとおかしゅうなあ。汝も妾を楽しませてくれるんや? さあて、いかんせん?」


 酷薄にも関わらず甘ったるい声色だった。その声は興奮する@の耳にも届く。ひどく耳障りに。


「ああん?」


 苛立ちとともに振り返ったときだ。@の腹部を鋭い衝撃が襲った。


「「@」様!!」


 そのインパクトは凄まじく、フィアットの胸元にしがみついていたはずの@は、ヒタチの眼下まで吹き飛ばされた。その距離、およそ十メートル、高さにして五メートル。特技である受け身すらとれずに、その身は冷たい鉄の床に叩きつけられた。


「おや、もう終わりかえ? なんといぶせしことよ」


 こほっと咳が漏れでる。頭がくらくらして、眼の焦点が合わない。腹がじんじんする。痛ぇ。すげえ痛ぇ。脚がふらついてやがる。


 一体何が起こった?


 本能はマタタビ欲すらを上回る。己の危機が@に冷静さを呼び戻した。それは危に臨むとき、必ず状況を確認するということ。極めてシンプルな野生の思考。


「……これは一体、何ですか?」


 神殿内を覆い、埋め尽くすおどろおどろしい一切の黒い影。それは波打つのように鼓動していた。そして幾十にも織り込まれた影に身を固められ、高く十字に磔られたフィアットとヒタチ。


「あれ、あさましや。まだ生きてるとはのう」


 改めて、その声の主を見やる。ふらつく足に気合いを込めて。揺れる視界に力を入れて。雄々しくそのしっぽを大きくさせて。


「あんた、誰?」

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