第13話 元の世界に戻ったのも気付かないわけで
「だからさー、そこに座るとさー、あたしが動けなくなるってのー」
「いえ、ここは俺の場所ですので」
「痛たたた、爪を出すなってのー! もー、腰ってデリケートなんだからねー」
「しょうがないじゃん、気持ちいいんだし」
「ってかさ、あんた、また山田のババアんとこ、行ったでしょー? もう止めてくんない? 謝んの、あたしなんだからさー」
「あれは不可抗力でして、いや、うん、ごめん」
「う〜ん、あたしはいいんだよ? でも、あのババア、頭いっちゃってんじゃん? だからね? 万が一があったらさー」
「ごめん。それは申し訳ない」
「あ、マタタビ玉食べるー? 今日はまだあげてないよねー?」
「マジで!?」
「あだだ、だから爪出すなってのー! 言うこと聞かなきゃあげないよー?」
「聞きます。すごく聞きます」
「ん? あんた、今日はホントよく鳴くねぇ? どしたー? ひょっとしてお前、あたしの言葉がわかってるのかー?」
美咲がそういうと眺めていたスマホを置き、身体を起こす。飼い主の腰をぶん捕っていたおうどんは彼女の身体どころかベッドからも転がり落ちる。
それより、むしろ。
「マタタビ! マタタビ! マタタビ!」
気がついたときは独匹、神殿の前に香箱座りをしていた。
日はすでに落ちていた。ただ@の周りを爽やかな蒼い風が包み、うっすらと輝いていた。
自分がどこにいるのか、どこにいたのか、何をしているのか、わからない。
だが、彼の身体をたった一つの欲求が突き抜ける。
それはマタタビ欲。夢か現の先でもらい損ねたマタタビ様。それが稲妻のごとく強烈に彼の脳天を打ち付け、駆け巡る。
「マタタビ! マタタビ! マタタビィイイィ!」
@は弾丸のように鉄扉の隙間に飛び込む。執拗なる己が身体の求めに応じて。
まあ、正直、今の彼は全然考えていないのだ。マタタビ以外のことはね。だって好きなんだもん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます