第11話 案外、少女二人を気に入っているわけで

 道中、ヒタチがいろいろ忙しそうだったので、@は自分で歩くことにした。フィアットが「私が抱っこしてあげる」と言ってきたが、


「いや、今のところが充分ですから」


 と丁重にお断りした。彼女の抱かれ心地はヒタチのそれと較べると、ふかふかのお布団と土砂降りのアスファルトくらいの差がある。そんな辺境で抱え歩きされてしまったら、間違いなく酔う。


 フィアットは頬を膨らませていたが、彼女には@専用寝台という重大な役目があるのだし、@も「夜、またご一緒してくれれば」とさりげなくフォローした。まさか人間に気を使うことになるとは思っても見なかったことだ。


 今日は@の気まぐれ道歩きではない。街を出てしばらく、ヒタチを先頭にした一行は往来の多い街道を外れ、寂れた道を進んでいく。だんだんと木が生い茂っていく。時折、道端には異形の怪生物の骸が転がっている。息のあるモノはヒタチが拳で息の根を絶つ。中には、以前、フィアットとヒタチが屠ったモノと似たモノもいた。しかし、カラスの死骸なら@もたまに見かけたことがあるが、こんなに死骸とかってあるものかしらん? と@は首をかしげていたが、なるほど、事態は掴めてきた。


 昨夜、酒場で見かけた人間達もまた倒れ、或いは命を落としていたからだ。怪物のそれは、連中とのあれだ。なんか大きな包丁みたいなのや弓? や槍? やフィアットのに似た杖を持っているし。


 ヒタチは怪我を負った者には血が止まる草を与え、息絶えた者には屈んで、その耳に何かを囁く。


 @は不思議に思って、フィアットを見上げる。


「そうよ、ヒタチならその力で、あいつらを癒すことも生き返らせることもできるわ。だけど、私達はこれから黒き魔女をやっつけなきゃいけない。ヤツは預言書にも刻まれているような魔神よ。できるだけ魔力や聖唱力マジック・ポイントは残しておきたい。だから、今は負傷者にはああやって薬草を渡し、死者が彷徨亡者アンデッドにならないよう神の導きを示してあげてるの」


「あ、そう」無論、よくわかってない。


 ヒタチも振り返る。


「奇跡をもって傷つき苦しむ皆様を救うことこそが、神の使いたる本来の私の務めなのでしょうが、@様も軽蔑なされたでしょう。どうか神よ、お赦しください。それでも、大善を前に、不善をなす。この世界に蒔かれた悪の種、その元なる魔神を封さねばならないのです。……すべては弱輩なる私の責です」


「うん、それでいいと思う」


 わからないが、ヒタチの哀しそうな顔ぐらいはわかる。@とてそういうのは好きじゃない。美咲がそうだったときはよく寄り添ってやった。でも、この世界なら言葉で支えられる。


「ありがとうございます」


 それでも辛そうだった。フィアットまでも。


 進むにつれ、化け物の死骸、そして昨晩、同じ一時を過ごした者達のそれも増えていく。


「皆様には感謝せねばなりませんわ。……本当に心から」


「ええ、こんな数を相手してたら、こんな高位存在強モンスターがいるんだったら、私達じゃ黒き魔女まで辿り着けなかったかも。……それにしても黒き魔女はどれだけ魔瘴気を放ってるていうの!? あそこに見えるのはゴーレムじゃない。何それ、バッカじゃない!」


 山を越えた先にその渓谷はあった。そしてその呪われた神殿が。


 遠目が利くエルフのフィアットはすでに捉えていた。猫である@はもちろん、見えてもいないし、理解もしていない。


 でも、なんとなくはわかる。二人がここまで歩いてきた目的が。二人が旅を続けてきた理由が。


 まあ、@には全然関係のないことなんだけどね。

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