第10話 貧乳が巨乳に看病されているわけで
「あたたたたた、頭痛ぁあああい! ねえ、何なのよ、これ、何とかしてよ、これ」
眼下ではフィアットが額を押さえながらわあわあ泣き喚いていた。@は、うるさいねえと前足を組み直す。久しぶりの屋根の下での睡眠、しかもベッドなのにも関わらず、フィアットはこの案配である。もちろん、専用のベッドを用意されたにも関わらず、@は彼女の胸の上で一夜を過ごし、正午過ぎの今に至る。彼は義理堅い。フィアットは胸堅い。心地いいの。
ヒタチから聞いたのだが、宿場町とはいうものは、このように酒場と宿屋が併設しているところが多いそうだ。食ったら二階で寝る。なるほど、合理的だ。これも人間のテクノロジーであろう。
「ああん、もう、最悪だわ、何でエルフの総領娘の私がこんな目に遭ってんのよ。痛い痛い痛い」
「それは貴方の自業自得ですわよ。久方ぶりの宿とはいえ、酩酊するほど暴飲するとは情けないです。神も@様も
いや、俺はそうでもないんですけど。と、@は思う。美咲もそうだしね。むしろ、あれだけのビールを飲んで、ケロリとしているヒタチの方がおかしい。
そんな彼女はフィアットの枕元に椅子を置いて、ニコニコしながら座っている。
「何よう、ヒタチ! だったら、さっさと神の祝福でも何でもいいから、治してよ! 二日酔いなんて回復魔法で一発でしょ! あ、薬草でも構わない!」
「それはお断りします。これは罰ですから、戒めですから。神もこうおっしゃっていますわ。『
「ええい、この神の手先の悪め! あんた、性格、最悪だわよ! @も言ってやってよ!」
「うん、俺はもう少しここでのんびりしたいです」
「ぎゃあ」
「ほぉら、@様も私の味方ですわ。……でも、まあ、水くらいなら飲ませてあげますわよ。私は神と@様に身を捧げし者、寛大ですから」
「うう、うう、ありがとう、ヒタチ。嬉しくないけど、優しくないけど、お水、美味しい」
フィアットの瞳から涙が流れる。この二人の関係は本当に奇妙だと思う。なんだかんだいって、善い具合に釣り合いが取れている。@は知っている。こういうのを腐れ縁と呼ぶことを。
@は、くかぁと欠伸をした。本当なら背伸びをして、爪をバリバリと立てたいところだが、フィアットの胸をこれ以上台無しにするわけにもいかないので、そこは我慢するいい男。
「でも、これはこれで、吉としましょう。善い風を感じますわ」
「……う、何よ、これ以上、なんか企んでるの?」
「フィアットの失態のおかげで、他の冒険者達はとっくに宿を出ましたわ。残っているのは私達だけです」
「ふぇえ?」
間抜けな声を上げたフィアットのデコ、ヒタチはぱちりと軽く叩く。
「軽めの回復魔法をかけてあげましたわ。私に感謝しなさい。一時間もあれば、貴方は全快します。……ちょうど冒険者達が道中の露払いをしてくれているはずでしょう。厄介な雑魚モンスターは彼らに任せて、私達は黒き魔女に専念しましょう」
「黒き魔女!?」
フィアットはがばりと身を起こす。@は咄嗟に爪を出した。彼女の寝巻きの肩先にぶら下がることで、ベッドからの落下は辛うじて免れた。おかげで惨めな胸は丸出しとなる。哀れであった。
「ちょっと、この体勢は困るんだけれども」
「ご、ごめん! 痛っ!」
「ほら、もうしばらく横になりなさい。@様にも失礼でしょう」
おずおずとベッドに横たわる。@も当然のごとく胸の上に乗る。
「で、ヒタチ、黒き魔女、ヤツが姿を現したの?」
「ええ、そうですわ。私達生ける者の恩讐の因縁、旧きの魔神どもの一柱とようやく遭いまみえることになるでしょう。ようやくその時が来たのです。……だからフィアット、今は身体を休めなさい。貴方はどうしようもなく短絡的な愚か者ですが、私の大事な友人で、心強い仲間です。闘うときこそ万全に」
もちろん、@は二人の会話の邪魔はしない。詮索は無粋だし、そもそも興味がない。眠たいしね。
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