第9話 美女達が酔っぱらったわけで
リストランとはこんなにも騒がしいものであったか。
大勢かつ多種の生物が入り乱れる酒場、こんなに密集した場所は初めてだった。人間、亜人種、獣人、それっぽい何か、それぞれがアルコールを飲み干し、食い物を噛みちぎる。
大勢といえば猫の集会くらいしか経験のない@は、所在なさ気にテーブルの隅で香箱座り。
とはいっても、
目の前では、ヒタチが豪快に麦酒をあおる。
「ぷはあー、これもかれも神と@様のお導きです! あ、お代わりお願いします」
口についた白い泡を拭う気もないらしい。もう片方の手で骨付き肉を頬張る。←これ、非常に美味。フィアット曰く、結構なゴルドン巻き上げられたわよ、私は食べれないのに。
そのフィアットはというと、葡萄酒を薄〜く氷水で割ったものを、ちろちろと嘗めている。顔を真っ赤にして。その辺に落ちてそうな木の実をかじりながら。
「な、なんだって、こんなに人がいるのよ、ただの宿場町なのに。どうして、この聖霊師のフィアットちゃんがいるってのに、誰も気付かないのよ。何よ、この扱い。ひどくない? お間抜け司祭のヒタチだっているのに。もう天誅をくれてやろうかしら、イヤ、天罰ね。焼き尽くしてやるわ」
「うう〜ん、最高ですわ! もう一杯!」
「御救い人が来てやってるのに、これだから田舎者はイヤなんだから。これじゃ@にもダセエってバカにされちゃう。ううん、私は何も悪くない。お母様とお父様、大いなる意思に従って生きている。間違っちゃいない」
「いやぁあん、生き返ります! 追加お願いします!」
「ああぁあん、何なのよ、一体全体。そうよ、悪いのはどうせ私よ。だってこんなに可愛いんだから。えぐ。うぐ。ひっく。びゃああん」
「んぷ、あら、いけない、@様の前で、はしたないところを。楽しんでますか?」
うん。まあ、程よくマタタビは効いております。けれども、笑顔で呑み食い続けるヒタチとテーブルに突っ伏して泣いているフィアットよりは醒めているかもね。
@は何となく美咲のことを思い出していた。給料日とやらの夜は、大量のビールを買い込んで、ヒタチのように飲み、そして最後はフィアットのように泣き眠る。そんな我が召使いを重ねて見てしまったが、美咲のことだ。たぶん、大丈夫だろう。
「それはそうとして、このリストラン? というところは随分と人がいるね。俺が前に住んでた場所よりはよっぽど小さいところなのに、どうしてこんなにいっぱいいるのかい?」
「うふふ、それは私も案じていたところですわ。街道沿いとて、さして名も無き宿場町。にしては、この酒場、あまりにも賑わっております。少し不釣り合いですわ」
「だ、だ、誰の胸が不釣り合いなのよ!」
俯いたまま、右こぶしをテーブルに打ち付けるフィアット。
「あ、大丈夫ですよ。きっとそれでも生きていけると思います」
@は流す。
「ご覧ください、@様。ここのお客様方のお姿を。……おわかりですか?」
「わかりません」
「もう@様ったら、おとぼけになられて、可愛い。にゅふふふ、@様もお飲みになります? あら、それじゃ私だけお代わりいただけますか? ええ、そこのエルフが全部支払いますので。……あ、何の話でしたっけ? そうそう。そうでしたわ。ここにいる皆様方の
「うん、全然わからない。なんか、いるの?」
「……そうですね、きっと」
そのときだ。カウンター席? というところで、竪琴? という楽器を持った軽薄そうでいて、尚且つ子供のような体格の人間っぽい男が歌い出した。
「すべてはすべては、歌のすべては、この場におられる英雄達に捧げよう。呪われし黒き魔女、目覚めしときに命を懸けるはその魂。歌い継がれる栄光に、死して尚生きよ、誇りのために、民のため、神のため。今宵、一会こそが伝説になる……」
酒場にいる全員が男の歌に聞き入った。@も何だか心地よかった。フィアットだけが聞き逃した。真、残念な娘である。
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