第7話 巨と虚、どちらも胸なわけで
そう、この地域? というか国? あるいは世界は、@がかつて暮らしていたモノとは段違いに治安が悪い。
美咲と観たテレビジョンのスラム街とかジャングルとかよりも物騒だ。ましてや、@の
それがここではまるで違う。猛獣、猛人、猛植物、いろんな生物から果ては非生物まで襲いかかってくる。しかも、山田のババアと同じく、ガチで。
これは大変なとこに来てしまったなあ。
と、@が木の隅っこで丸くなっていたのも始めだけ。今では、あくびをしながら、フィアットとヒタチの戦闘を眺めるまでになった。
「よくてよ、よくてよ、キまくってよ! 喰らえ、
普段はきいきいうるさい、けれども寝床としては抜群の低反発の胸部を持つフィアットは、電気のテクノロジーを使う。ちょうど今、パリパリと光を発しながら目の前の巨大豚人の焼き痺れさせたように。@は仔猫なりしとき、テレビジョンのケーブルをかじかじして、びりびりした経験がある。それと同じテクノロジーを彼女は駆使する。コンセントもなしに。いやはや、人間の技術も日進月歩である。たいしたものだ。こういうところは、猫も見習わねばならないと思う。はるか先の世代でいいから。
「あらあら、それでは……昇天しまっせい!」
そして、留めとばかりに巨大豚人間の脳天に、飛び上がったヒタチが思いきりこぶしを打ち付ける。メコォオ、と@には聞きなれない音とともに、豚の頭は半分以下までに押しつぶされる。ヒタチのことを鈍くさくて、ただ移動時に@のために快適な胸部を提供する、頭がお花畑の人間と思っていたことは隠しておこう。といつも思う。彼女は見かけ以上に俊敏で剛腕を持っている。テレビジョンでふくよかな人間の雄たちが押し合いへし合いしているのを観たことがあるが、その数倍の膂力をヒタチは持っている。以前、岩の塊のような生命体? と遭遇したときに、彼女はその拳でかち割っている。フィアットのようなテクノロジーではなく、純粋にその力でだ。こればかりは感嘆に値する。@もヒタチだけには舐めた口をきかないようにしている。でも、フィアットは
それはさておき、ヒタチにはその馬鹿力とは別に重要なテクノロジーを持っている。それは@のいた世界で言う、医者というテクノロジーだ。@も変な草を食べてお腹を下したときや、山田のババアの傘攻撃で負傷したときに、世話になった。身体を元に戻してくれたのである。もちろん、感謝はしていない。連中は乱暴だからね。
ヒタチのそれは、医者よりもよほど優れている。何も変な塊を無理やり飲ませたり、変な針を刺してきたりしない。何やらぶつぶつと呟くだけなのだ。
「いけませんわ、@様。フィアットの無茶苦茶な精霊術のせいで、凛々しいお髭が焦げてらっしゃいます……」
「うん、そう?」
「すぐに治しますね、このヒタチめが。……
ふっとヒタチが@に甘い吐息を吹きかけると、その髭が艶を取り戻す。すごいテクノロジーだと思う。今回はただの髭だったが、以前、額を割られ血を流すフィアットを瞬く間に全快させたことがあった。もしヒタチが@の家に来ることがあるとしたら、医者になるように勧めよう。フィアットは知らない。なんか、落ちてるモノでも食べてればいい。
うん。
二人があまりにも@の知る人間とはケタ違いなので、ちょっと聞いたことがある。あまり覚えてないけど。
それによると、
名前:フィアット
種族:
と、
名前:ヒタチ
種族:人間
らしい。
正直、どうかと思う。よくわからない。まあ、猫にわかるように説明しろとは言わなかったからね。
おっと、いけない。マタタビの時間だ。今日もありがとうございます! フィアットさん、善い胸してますね! 素敵っす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます