第6話 ここにもマタタビがあったわけで!

 @の苦難というか、はた迷惑な旅は始まったのだが、すべてがすべて七面倒というわけではなかった。もちろん、仮にそうだとしたら、@はとうに二人、ヒタチと名乗る鈍重そうな人間とフィアットと名乗る尖り耳のエルフという多少身軽な人種を放っておいて、とっくに逃げ出している。


 そうしないのは@に格別な理由があった。


 それはフィアットが携帯している崇喜花モーニング・グローリィの木の実である。なんとうか、これが異常にキマるのである。およそマタタビの三倍くらい。とってもハイに酩酊できるのである。


「@、崇喜花モーニング・グローリィ聖唱力マジック・ポイントを回復するためのあんのよ? そんな目茶苦茶に食べたら魔力暴走オーバーヒートを起こすわよ。せめて一日一個にしなさい」


 というわけで、@は一日一個、フィアットから与えられる強力マタタビ玉を糧に生きている。大げさに言えば。そうでもないか。


 と言っても、昼間はヒタチに抱きかかえられ移動し、夜はフィアットの胸の上で眠るので、さして問題はない。ヒタチの胸は頗るふくよかなので、抱っこされる分にはとても都合が良いのだ。そしてフィアットの胸は頗る平らなので、その上で眠る分にはとても都合が良いのだ。あれだ、地面は汚れるしね。朝になると、フィアットから「寝苦しい!」と怒られるけどね。


 美咲と暮らしていたときと較べると落ち着かないが、これはこれで、それなりに快適だ。フィアットはエルフという人種? の問題で、魚肉は食べないが、かわりにヒタチがいろいろと@にあわせた食べ物を用意してくれる。当然、ヒタチの分も含めて。夕食後には、焚き火を囲んで、フィアットから強力マタタビ玉をぶんどる。キメる。善い感じ。


 二人はこうした生活に慣れているようで、一日一日がほとんど支障なく過ぎていく。山を越え、河を越え、草原を越えて。


 @は思う。


 随分とまあ、遠くに来たものだ。そもそも、どこから来たのか、わからないんだけども。


 でも、そんなに悪くない。


 たまに、なんか、猛獣?とか狂人?に襲われたりするが。

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