眠りのおまじない(羊、鴨、階段)


 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……。眠れない僕を眠りにつかせるおまじない。


 しかし全く効かない。


 ただ羊を順に歩かせただけじゃ意味がないのか。そうだ、柵を飛んでもらおう。


 羊が一匹、羊が二匹、羊が――。


 僕の想像がちょっとおかしいみたいで、柵を飛んだ羊が後ろにまたついて、柵を飛んでと繰り返す。羊がだんだんと疲れていく。


 疲れた羊が気になって眠れない。


「寝れないの?」


 彼女がそんな僕に気付いて声をかけてくれた。


「そうなんだ。羊が仕事をしなくてね」

「羊も重労働だね」

「実際疲れてたよ」


 ほぉと返事をした彼女。


「羊以外にしてみたら? なんかこう団体で並んでる感じの」


 ほぉと返事をする僕。


 動物園を思い出し、あちこち歩きまわる。鹿? ちょっと違うな。サル? 団体だが並んではいないな。


「鴨とか」


 彼女からの援護。


「ちょっとそれでやってみるよ」


 一羽、二羽、三羽と歩かせてみる。可愛いだけではないだろうか。


 今度は柵を飛ばしてみる。いや、そもそも飛べないんじゃなかろうか。


「無理だよ」

「柵じゃ駄目じゃない?」

「階段とか?」

「良いじゃん、よしそれで寝れるね。おやすみ」


 どうやら眠れない僕に付き合う余裕はないらしい。十数秒で寝てしまった。


 階段ね、それでいこう。


 歩いてきた鴨が階段を目の前に少し困り気味である。短い足を精一杯伸ばして、ゆっくり上がる。一羽、二羽と段差を上がる様子はなんとも言えず。


 鴨、すごく、頑張っている。頑張れ! と応援する。


 僕はそのまま眠ってしまったらしい。


 目が覚めて「鴨の階段上り良かった」と彼女に報告する。


「君、夜中うなされてたよ」


 そう言われてしまった。どうやら僕は鴨の応援に力が入りすぎたらしい。そして疲れて眠ってしまったということだ。


 寝方に少々問題がある気がするが、僕はしばらくこの方法でいこうと思う。


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