貴族の遊び(消しゴム、エレベーター、ワイングラス)


 授業中、隣の席の松本君は新品の消しゴムをカッターで正方形に切り始めた。


 一つを切り終わって、さぁ何をするんだと思ったら、机の中から新品の消しゴムを取り出しまた切り始めた。


 おいおい、どういうことだ? と思いながら授業に集中しなければと気合を入れる。だが、気になってしょうがない。僕の集中力は空の彼方へ飛んで行った。


 二つ目を切り終え、そろそろ何が始まるのかと期待に胸を膨らませる。


 しかし、机から出てきたのは新品の消しゴムである。


 僕はもう諦めた。きっと新品の消しゴムを切るだけの遊びなのだ。授業を聞かずに見るほどの価値はない。


 黒板を見る僕の隣で松本君はひたすら切る作業。かと思ったら、バッグをなにやらガサゴソと漁っている。


 はいはい、消しゴムね。


 そこから出したのはワイングラス。


 なんで!


 戸惑う僕には見向きもせず、取り出したワイングラスに切った消しゴムを入れていく。しっかり重なるように並べられている。


「ふふふ、チーズ」


 松本君はそう呟いた。


 チーズに見立てた消しゴムなのか。それにしてもグラスに入れる意味は。


 それからまたバッグを漁る。


 出てきたのはワイングラス。それもただのワイングラスではない。ワインが入っているように見える液体が入ったグラスだ。


「ふふふ、豪華」


 もはや晩酌。


 こうして僕の授業時間は終わった。


 どうしてあんな物を見てしまったのかと若干後悔しながらの教室移動。


 階段を上がって目の前にあるエレベーターが開いた。


 右手にチーズ(消しゴム)が入ったワイングラス、左手にワイン(見せかけ)が入ったワイングラスを持った松本君がキメポーズをとっていた。ルネッサンスとか言い出しそうである。


 先生に見つかった松本君は静かに扉を閉め下に行った。追いかけられたのは言うまでもない。


 一体松本君は何がしたかったのか、僕には分からないままである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る