すりこみ(扇風機、たいやき、音楽)


 セミが鳴いている。それだけで暑苦しいったらありゃしない。


 待ちに待った休みであるのに、この暑さで何もしたくない。ただ汗をかくだけの時間を過ごしている。


 隣にある扇風機は存在感こそあれど、存在価値はない。動かないのに場所はとる。買おう買おうと思っていたのに気付けばこんな季節だ。


古いアパートの窓を開けて、風を求めるもこの要求は通らない。


 窓を開けたせいで何処かの家の物音も聞こえてくる。水を流す音、子供が騒ぐ声。テレビかラジオか音楽も聞こえてくる。


 今は一体いつの時代かというような古い曲ばかりだ。


 寝転がりながらそれを静かに聞く。何十年前のアイドルソングを、特に懐かしさもなく聴いている。


 何年前にヒットしたあの曲という声の後に流れてきたのは、おじさんとたいやきが喧嘩する曲だ。


 鉄板というワードで暑苦しさが増す。海で涼しさを感じるかと思えば、生温い海水を想像し、余計に汗を不快に感じた。


 家も外も暑いなら、さっさと扇風機を買いに行くのが良さそうである。


 びっしょり濡れたTシャツを替え、財布を持って家を出る。少し歩いたところで携帯を忘れたことに気付くが、もう戻りたくはない。


 近くの小さなホームセンターに着くも、出入り口に出店しているたいやき屋に心を奪われる。


 いやいや、暑いし、ちょっと歌聞いたぐらいで影響されはしない。


 店内に入り、お目当ての物を探す。イベントコーナーに所狭しと並べられていた。その中から安い物を選び、レジへ。


 無事に買えたと帰路につくが、こんな大きい物を持って帰るのかと嫌になった。しかも片手でたいやきを食べなければならない。


 そう、つい買ってしまったのである。


 家で食べるという選択をせず、歩きながら食べて帰ったのだった。


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