訪れ(蚊、団子、雨)

 雨が降っている。朝から今までずっと。おかげで夕方になった今でもまだ外に出ていない。


 窓にあたる雨粒を見ながら、今日は満月が見れるはずだったのになぁと考えている。


 この時期晴れてさえいれば、まだ明るいはずだが、曇った空がそれをよしとしない。


 と、まぁこんな風にほぼ何も考えず過ごしているが、そろそろ買い物に出なくてはならない。タンクトップにショートパンツ、湿気でうねった前髪。どうにかしなくてはと思いながらも、なんだかやる気がでない。


 ただ、テレビの中のお姉さんは「この後、雨がさらに強まります」なんて言っていた。今行かなきゃいつ行くか。急に行く気が高まり、鍵と財布を手に持ち家を出る。鍵をかける前に傘を忘れたことに気付く。なぜこんな雨で傘を忘れるのか分からない。


 傘にあたる雨粒の音を聴きながら、足元を濡らし目的地に着いた。


 作る気なんてないわけで、お総菜コーナーをうろうろする。揚げ物こそ至高とばかりに並んでいる。それに乗っかり、とんかつをカゴに入れる。天ぷらもいいな。よし、かぼちゃの天ぷらも買ってしまおう。


 あとは飲み物。適当に麦茶でいいか。お会計を……と思ったところで、レジ近くの和菓子コーナーが視界に入る。大福、団子、わらびもち。うーん、食べすぎはいけない。でも、食べたい欲は止まらない。満月だ、お月見だ、団子だ。みたらし団子をカゴへ。


 無事にお会計を済ませ、土砂降りの中帰路に就く。先程より強くなった雨音を聴きながら、靴の中の水流はどれほどかと考える。


 家に着くとすぐ、靴を脱ぎ、靴下を洗濯機に放り込む。とんかつと天ぷらをレンジの前に用意。団子はテーブルへ。ご飯炊かなきゃいけない面倒さを捨てて、炊飯用意。


 給水と炊飯の間、激しくなっていく雨を見ながらつい団子に手が伸びる。


 丸一個食べてしまった。こうなっては一本食べても同じこと。一本食べてしまっては三本食べても同じだ。


 一個を残してあるところで、炊飯器が残り三分と表示した。そろそろだと思ったところで、足に違和感が。


 おや? 赤くなっている。


 ブーンと遠くから聞こえてくる。


 もしや、蚊が攻めてきた? こんな雨に日にまで生活を脅かしてくるか。


 痒い。


 ポリポリと掻きながら残りの団子を食べ、外の雨粒を見ながら、夏だなぁと考えていた。


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