あの日の真実(写真、嘘、ハンカチ)


 あの時のことはよく覚えている。


 いつも遊ぶ子達の中に双子の女の子がいた。僕はその片方のかなちゃんのことが好きだった。ピンクのハンカチを大切にしていて、双子の妹ななちゃんを可愛がっていた。お姉さんだからとしっかりした子だった。僕達にも気を配ってくれる、そんな子。


 ある日、かなちゃんは一人でいつもの遊び場に来た。


「ななちゃんは?」


 そう聞くと、笑顔でこう答えた。


「知らない」


 知らないのに何も心配していない様子なのが印象的だった。不思議に思ったが、もしかして本当は知っているのではないか。そう考えた。僕達には秘密にしておきたい楽しいことでもしているのかもしれない。この時の僕はそうとしか思わなかった。


「ねぇ、遊ぼうよ」


 かなちゃんにそう言われ、「そうだね」とすぐにななちゃんが来ないことを気にしなくなった。


 というのも、かなちゃんが「しよう」と言ってくるのが珍しく嬉しかったのだ。いつも「してあげて」とななちゃんと遊ぶことを優先していたかなちゃん。自らを優先する、これを甘えてくれていると感じた。妹の世話が無いとこんな風なのか。ただただ嬉しかった。手に触れてきたり、お菓子を半分こしたり、今日は初めて見るかなちゃんばかりだ。


 もうそろそろ暗くなり始めるぐらいに、一人が写真を撮ろうと言い出した。実は使い捨てカメラを持ってきていると。近くにいた大人に撮ってほしいとお願いし、みんな木の下に並んだ。ななちゃんがいないのが残念だ。


 そして、その写真を受け取る前にかなちゃんの家族は引っ越してしまった。突然のことに驚いたが、大人が「可哀想に」と言っているのを聞いて、僕は子供ながらに何かあったんだなと思った。それからは今まで一度も会ってはいない。元気にしているだろうか。


 せっかく思い出したんだ。あの写真を探してみよう。それは子供の頃のアルバムに挟まっていた。


 みんないい笑顔だ。思い出の中のかなちゃんと同じ顔で彼女は写っている。きっとななちゃんもここにいたら同じ笑顔をしているに違いない。


 かなちゃんのポケットから青色のハンカチが見えている。おかしいな、かなちゃんはいつもピンクのハンカチで青色はななちゃんのだったはず。これはもしかして、かなちゃんのフリをしたななちゃん? 確かにあの日、いつもと様子が違った。それは妹が一緒じゃないからだと思っていたが、そもそも妹本人だとしたら? じゃあどうしてかなちゃんだと嘘をついたのか。


 あの日、二人で来なかったことが関係しているのか。僕には何も分からないままだった。そして僕は二人が入れ替わっていることに気付かなかったことに酷く嫌悪した。


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