君と(ミルフィーユ、雪虫、鉛筆)

「新しい文房具が出たみたい」


 この秋の寒さを感じさせないはしゃぎっぷりだ。


「何が出るの?」

「鉛筆」


 ただの鉛筆でこんなに喜べるのはうらやましい。というか新しい鉛筆ってなんだ。色つきか? いや、色つきなんてのは前からあるし、それ色鉛筆だ。


「どんなの?」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔でこう答える。


「ミルフィーユ!」


 スイーツかな?


「鉛筆がミルフィーユなの? それはどんなことになってるのかな?」


 自分が開発者かのように君はこう答える。


「ミルフィーユみたいに色の層になってるんだよ。しかも縦に!」

「縦ってことは書いたら同時に違う色が出るってこと?」


 自慢げに「そう」と返事をした。


 縦、縦か、字を書くにはあまり向かなさそうな鉛筆だなぁ。


「字を書くっていうより、手紙とかのデコレーションにつかうんだよねー。あぁ、私も学生だったらなぁ。欲しいんだけど使い所がないんだよねぇ。あっ、そうだ。道夫君に手紙書けばいいんだ!」


 そうなるか。楽しそうなら良いのかなぁ。


 君は突然上を向いてこう言う。


「もうすぐ冬になって雪が降るね」

「どうして」


 僕がこう聞く。


「だってほら、雪虫」


 こうして僕と君は秋を越し、冬を過ごしていくのだろう。



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