第34話 捕虜
昔々、東の果てに、悪い妖精の導きでこの世界にやってきた一人のウィッチガールがおりました。
イブリス・ルキファという名前を妖精から授けられた女の子は、高笑いしながら大の男を踏みつけにしたり、薄笑いを浮かべながら血も凍るような一言を口にしたり、しばりつけた相手を無邪気に攻め嬲る技の巧みさで、瞬く間に人気
ところがある日、女の子の名付け親となった妖精がいた国は黒い服を着た騎士たちによって滅ぼされてしまいます。妖精達のしでかす悪さの規模が大きくなりすぎた為、騎士たちの怒りを買ったのです。そして、この日を境にイブリス・ルキファの名で活動していた女の子もメディアにぱったり姿を現さなくなり、行方知れずになってしまいます。残されたのは彼女が出演した番組の映像だけです。
幻のように消え去ったイブリス・ルキファの痕跡を前に、ウィッチガールファンは大人しく黙っていられたでしょうか?
ご想像の通り、皆は蜂の巣を突いたように騒ぎだしました。おりしも彼女が行方知れずになる直前に公開されたばかりの映像では、今まで彼女が倒してきた光の陣営のウィッチガールに敗北し、慈愛にみちたウィッチガールとして洗脳される展開が示唆され、ファンの間で物議を醸しだしていたばかりでしたから。
人々は彼女の失踪について、口々に噂しあいました。あの子は番組撮影中の事故で亡くなった、なんらかのトラブル妖精にお払い箱にされた、タチの悪いファンに捕まった──。噂の中には、妖精の国の非道な経営実態この世界における乱暴狼藉、ウィッチガールたちの劣悪な労働条件、この世界で悪さをする妖精たちに鉄槌を下す黒い服の騎士たち等、根も葉もないとは言えない話もまざっていましたが、消えた女の子を前にしてはそのような話はただの添え物でしかありません。
イブリス・ルキファは何故消えた? そして彼女は今どこに?
何年経とうと、ウィッチガールファンは思い出したように彼女のことを噂し、彼女の出演していた番組を再生すると、彼女が宿敵を攻め嬲る手腕の巧さをほめそやしました。映像は消されることは無く、再生される度に彼女はあたらしいファンを獲得し続けました。
おかげで極東地域では、彼女は今でも強い人気を誇っています。
イブリス・ルキファは今でも「悪い魔法少女」のアイコンとして語り継がれているのです。
――一本調子で舌ったらず、おまけに言葉のセンスに特有の癖がある。犬耳のウィッチガールの説明を私なりに語りなおすと、このようになった。
すべてを飲みこんだあと、私は思わず感心してしまう。
「道理で意地悪がお上手なはずだわ」
「全部サクラさんからの受け売りです。あたしが知ってるのはこれだけです、はい」
シスター・ガブリエルからの差し入れ――お弁当用に余ったマフィン――を、もしゃもしゃと食べながら犬耳のウィッチガールは言った。
壁にもたれ、スカートのすそから膝小僧を出ているのにもかまわずに胡座で食事をするというお行儀の悪さ。だけど、野山を駆け回って育った女の子のような元気の良さを感じさせるだけで、不思議と下卑た印象にならない。あどけない見た目のせいかしら。
そんな子の隣に座って、私は彼女の話を聞いている。
せっかく使えるようになった魔法がつかえない地下室に監禁中、異世界の危険な兵器である私はいつ処刑されてもおかしくない。
そんな私がいてこそ身の安全が保障される仲間たちとは離れ離れ。連絡だってとれない。
危険を冒して攫いにきた女の子は、情に流され罪悪感に縛られ、私と一緒になれないの一点張り。
状況はまったく芳しくない。それどころか完全な八方塞がり。気を抜けば笑ってしまいそうなくらい最悪だ。
まったく我ながら心底バカなことをしたものだ。でも、やりたいことをやっているせいか気分だけは晴れ晴れしている。魔法は使えない地下室にいても、峡谷で変身したときに感じた万能感は私の胸にまだ残っている。
これさえあればまだ平気、まだ動ける。
私がしなければならないことは、私の魔法を信じること。マリア・ガーネットを地下室から解き放つこと。そしてそのためのチャンスを見失わないこと。
おしゃべりは大切だ。情報の交換は大切だし、なんといっても気晴らしになるもの。
シスター・ガブリエルが差し入れたお盆の上にあるのは、マフィンの小さな山とボトルに入った飲み物がある。さっきまでは、封筒に入ったお金の束まであったのだけれど、犬耳の子が中身を確認してブレザーの内側にしまった。
そして何故か、お盆の上には煙草とマッチと灰皿のセットが添えられている。なんなのかしら、これ?
私が赤と白の煙草を見つめているのとは反対に、犬耳の子は差し入れられた時から半分の高さになったマフィンの山を見つめている。じいっと、穴が開きそうなくらい。
彼女は私に話をしながら、自分の分のマフィンを全て平らげている。つまり、残ったマフィンは私の分だ。でも、今の私はお腹なんて減っていない。ほんの少し前に夕食を終えたばかりだもの。
そんなことを知らない犬耳の子が、私へ視線を移す。黒目勝ちなせいか幼い印象を与える目で訊ねる。
「食わないんですか?」
「食事は少し前に済ませたの」
「食えるうちに食うべきですよ。次の食事はあの尼さんの気分次第ですから」
そう言うのに、彼女はまばたきもせず、私のマフィンを見つめ続ける。
あどけなくて活発そうな雰囲気に反して表情の変化に乏しい、そんな犬耳の子は、まだお腹が十分に満たされていないことを全身で訴える。
隣でそんな態度をとられてはたまらない。どうぞ、と手で勧めた所、彼女はピクンと犬耳を動かした。でもすぐに、ぶんぶんと頭を左右に振る。
「いえ、辞退します。ユスティナが食った方がいいです。食うべきです」
「いいわよ。今は食べたい気分じゃないの」
「あたしはすきっ腹での作戦行動に慣れてますが、ユスティナはそうじゃないでしょう?」
「今初めてお喋りしているあなたに、どうして私のことがわかるのよ?」
「そりゃあ、あたしは──」
犬耳の子は何かを伝えようとしたけれど、その言葉をおかしな音が遮った。彼女のお腹の虫が鳴き声だ。あんなに食べていたのにまだ食べたりないなんて、一体どれだけお腹を減らしていたのかしら。
彼女もついに観念したみたい。上目で私の顔を真剣にのぞき込む。
「さっき飯を食ったばかりで腹は減ってない。先の報告に虚偽はありませんか?」
「もう、いい加減にしなさいったら! 人をいやしん坊みたいに言わないで下さる!?」
「──後悔しませんね? 本当に後悔しませんね?」
くどいほど念を押してから、ようやく犬耳の子はマフィンを手に取った。
「なら頂きます、はい」
言うなり、彼女ははぐはぐとマフィンにかぶりつく。その表情はあいかわらず乏しいままだけれど、犬耳だけでなく尻尾も生えていたら、めちゃくちゃに振り回していたはず。
本物の子犬みたいな彼女のしぐさと、七年前にこの地下室で起きたことの差と言ったら。私は思わず零してしまう。
「あなたは知らないでしょうけれど、この部屋はね、昔、可哀想な女の子十一人と男性一人が殺された場所なのよ?」
「死亡者総数十二人? あり得ません。ここでぶち殺されたかバラされた人間の数はもう少し多いはずです。でなけりこの鼻が痛くなりそうな
「……」
こんな言葉が返ってくるなんて、想像もしていなかった。
もしゃもしゃとマフィンにかぶりつきながら犬耳の子は話を続ける。
「さっきの尼さん、キレイ好きじゃないですか?」
「そうね。お料理やお掃除がお得意な方よ、それは確かね」
「ならアタリです。水洗いできるようになってる床、異常な濃度の
「──さっきからあなたが口にしている≪クリーナー≫って何かしら?」
「掃除用魔法薬ですよ! そこいらじゅうで売ってるじゃないですか!」
「文明圏からやってきたあなたはご存知じゃないみたいだけど、この世界ではまだ魔法がそこまで生活になじんでいないの。おまけにここはちょっと変わった町だったんですからね」
犬耳の子の驚きが大げさに思えて、私は少しだけむくれてみせた。マフィンをほおばりながら、彼女は数回まばたきをする。私が何も知らないのも仕方がないと納得してくれたみたい。口の中のものをボトルの水で流し込んでから、独特の口調で淡々と説明してくれた。
「なんでも溶かしちまうんで、掃除の時にあると便利な魔法薬です。一般家庭じゃあ油汚れや配管の詰まりなんかを消す為に使われてます。濃度を調節すれば血や肉も跡形もなく消してくれますんで、軍隊でも服のシミけしなんかで使います。メーカーが推奨しない使い方をすれば骨も魂もすっかり消してくれるんでヤクザもんも愛用してます、はい」
胸が悪くなるようなことを顔色も変えずに告げた後、ふう、と小さく彼女はため息を吐いた。
「なんにも知らないユスティナになんて、初めて逢いました、はい」
「――ごめんなさい。なにしろこの世界より外のことなんてしらないものだから」
形だけ私は謝ってみせた。血なまぐさい話が嫌いなくせに悪趣味な振る舞いに出るものではなかった。知らなくていいことまで知ってしまったんだもの。……お掃除も得意だったシスター・ガブリエル……。
よく考えれば、シスター・ガブリエルは神父様の提示した条件に従って生き残った女の子だ。神父様の言いつけに従ったのは七年前の一度きりだった訳ではなかった、のかもしれない。
大体あの神父様が、並外れた生き延びる力と殺傷能力を持つウィッチガールに、女の子達の世話だけ任せておくものかしら。せっかくの拾い物はうんと使ってやれと考えるものじゃないかしら。
例えば敵を始末させるとか。
「……」
そもそもどうして、カテドラルの騎士に捕まって魔法の力を奪われたはずなのに、シスター・ガブリエルは魔法が使えるのかしら。
黙り込んでいると、頭の中が恐ろしい考え一色に染まってしまい、すうっと肌寒くなる。
益もない考えを頭から振り払ったところで、シュッという短い音と共に、嗅ぎ慣れた匂いがふっと漂った。マッチを擦った時の匂い。
音と匂いに釣られて隣を見ると、口元を手で覆っている所だった。彼女の片手には火のついたマッチがあるけど、すぐに口から遠ざけて上下に振り、火を消した。
煙草を一本、彼女は咥えていた。火口から白い煙が一筋たちのぼる。
食後の一服、そんな言葉が思い浮かんだ。おかげで一旦、頭の中から怖い考えを振り払えたけれど。
見た目は十三歳くらい、野山を駆け回るのが似合いそうな、素朴であどけない見た目の女の子が、壁にもたれて煙草を吸っている。あまりに違和感が大きくて、私はついつい二度見三度見してしまう。
彼女本人はリラックスしているようだけど、どちらかといえば幼くあどけない外見の女の子が、煙草をくわえて紫煙をくゆらせているのはあまりに不似合いなものだった。見てはいけないものを見たような気さえする。
不躾な私の目に気づき、犬耳の子は煙草を人差し指と親指でつまんで唇から離して訊いた。
「これは気が利きませんで。一本どうです?」
「結構よ。私煙草は嗜まないの」
「それはますます気が利きませんで――今更ですが、構いませんか?」
お好きにどうぞ、の意味もこめて手のひらで促した。私は必要としないけれど、お客様の中には各種嗜好品が手放せない方がいらっしゃったから、傍で煙を愉しまれても気にはならない。
ふーっ、と犬耳の子は部屋の中に煙を吐き出すと全身から力を抜いた。
「ありがたいです。新米なら小便もらしかねないこんな部屋で、おまけに魔法も使えない丸腰で、ユスティナと一緒にいるんですから。こうでもしなければ神経やられてます、はい」
「私ってそんなに怖い?」
「怖いです、はい」
灰皿にとんとん灰を落としながら、淡々と彼女は答えた(私はきょとんとした顔つきのままで、この部屋のことを見抜いた彼女がちょっと怖いのだけれど)。
抑揚ない声と変わりにくい表情のおかげで分かりづらいけれど、怖いというのは嘘ではないみたい。私と彼女の間を何気なく詰めようとすると、途端に全身に力がこもり、腰を浮かしてまた距離をあけた。
そしてまた、ふーっと煙を吐く。
「初めて放り込まれた小隊の先輩に習ったんです。これさえあったら場ももつし、神経がほぐれるからおっかなくなったら咥えとけって。その先輩、第一回目のユスティナ掃討作戦で粉々になっちまいましたが。いい先輩でした、はい」
あいかわらず舌ったらずなのに淡々とした口調で、犬耳の子はさらりと随分厳しそうなこれまでを匂わせた。
異世界のユスティナは、かなり恐ろしい存在だったみたい。なかなかぴんとは来ないけれど、役立ちそうな情報だから頭に留めることにする。自分自身のことでもあるのに、私ったらユスティナについて知らなさすぎるもの。
それにしても、過酷な異世界の戦場を渡り歩いてきたことを匂わせるこの子は、どんな風にして生きぬいて、どんな風にここへたどり着いたのだろう。
そういえばマリア・ガーネットも言っていたっけ、この子は相当キツイ体験をしてるんじゃないかって。
犬耳の彼女は煙草をつまんで唇からはなし、またふーっと煙をふく。紫煙がたなびくけれど、薄暗い夜の地下室にすぐ溶けてしまう。さっきまでペンキの匂いだと信じていた匂いが煙草の匂いに上書きされる。
「……どんな世界に行っても煙草の味は大差ないですね。安心します、はい」
胡坐はやめて足を前に投げ出すという、やっぱりちょっとお行儀の悪い姿勢をとった彼女はやっと、くつろいだ声を出す。あどけない黒い瞳は、採光用の横長の窓に据えられていた。
私が魔法でつくりあげた鉄の巨人が破壊された時の爆風が、採光用の窓ガラスも吹き飛ばしていたらしい。床の上にはガラスの破片が飛び散って、きらめいている。
ギザギザに縁取られた横長の窓からは外の景色の一部が覗けたけれど、見張りに立っている騎士の足が見えるだけだ。ここには危険なウィッチガールが二人もいるんですものね、見張りは大切。
お喋りで時間をつぶそうにも他愛無い雑談でとどめた方がよさそう。
「
「!」
さっき驚かされたことへの軽い仕返しの意味も込めてからかってみると、彼女はびくんと身をすくめた。三角の形をした耳をしゅんと垂れさせる。
「今回だけです。どうか内密に」
「それはかまわないけれど、あのピンク色の子の言いつけなんて、よく守る気にはなるわね」
「内規破ったのが露見すると肉食わせてもらえなくなりますから。あんな人だけど、仕事終わりにはいつも美味い肉を食わせてくれるんです。タコが好きなことを除けば存外いい先輩です。はい」
その口ぶりから彼女なりにあのピンク色の子を慕ってはいることが察せられもするけれど、要はこの子は先輩からに餌付けされているのだ。呆れるべきか、あんな下品で悪辣な女の子がたとえ下心ありきでも後輩の面倒をみていることに感心するべきかちょっと迷ってしまう(でもなぜ急にタコについて云々するのかしら、この子)。
喫煙について黙っていることを受けあったためか、彼女は体から緊張をやや解いて煙を吸い、そして吐く。大きな丸い目が少し細くなる。
「煙草の味はどこの世界でも大体似てますが、ああいった連中もまたどこの世界にもいるもんですね」
彼女の視線は、見張りの騎士が履いているブーツに据えられている。この部屋には他に見るものなんてないもの。
小さな呟きはこの地下室の中でひどく詩的に聞こえた。見た目は幼くあどけないけれど、彼女は異世界で怖ろしい兵器では名の知れ渡ったユスティナ達と、何度も戦って、そして生き抜いてきた子だ。私なんかに想像できない半生を歩んでいることを意識させられる。
彼女は私達よりずっと経験豊富なのだ。人格も記憶も壊されて、強制的にリセットをかけられた私なんかとはレベルが違うのだ。
そんな思いからふと呟く。
「マリア・ガーネットがね、あなたは相当キツイ体験したんじゃないかって気にかけていたわ。初めてのショーの時、闘っていて怖かったんですって」
「どうですかね。今まで知り合った連中は大体似たような経歴持ちでしたから。今、上にいる連中みたいなのがてめえの務めをきちんと果たさないせいで、住処を焼かれた挙句に親兄弟が殺されたり、売り飛ばされたようなのばっかりで。あたし一人特別悲惨って訳でもないと思います、はい」
「やっぱりあの子の言った通りじゃない」
彼女がまたなんでもなさそうに淡々と語る内容が、マリア・ガーネットの予想が当たっていたことを証明していたのがなんだかおかしくて、私はつい笑ってしまう。自分の体験を特別視しないところも好ましい。
私が何故笑うのか分かっていなさそうな犬耳の子は、不思議そうにこちらを見つめた後に尋ねる。
「そのナントカって人、あたしが今日のショーで対戦する予定だったウィッチガールスレイヤーのことですよね?」
「そうよ」
私が答えると、あの子はふーっと煙を吐き出した。
「あの人もそれなりにしんどい目に遭ってきたんじゃないですか? ショーの開始早々あんたらのボスをぶち殺した時の表情が尋常じゃなかったですし」
さもなんでもないことのように彼女が言うものだから、私は危うく聞き逃しかけた。
「――あなた、今なんて?」
「? ウィッチガールスレイヤーの表情が尋常じゃなかったって?」
「その前、マリア・ガーネットが神父様を殺したって、本当!?」
私がぐいぐいと身を寄せたせいか、彼女は壁沿いにずいっと横へ移る。やっぱり私に詰め寄られるのは怖いみたいだ。
それでも淡々と当時の状況を説明してくれた。
「その神父様ってのがピーチバレーパラダイスボスと同じ妖精だってんなら、そうですよ。ショーの直前のセレモニーで挨拶が終わった途端、あの鉄の腕で心臓ひと突きでしたから。そのあと支社長どもを皆殺しにして、あたり一帯火の海にした途端、黒服どもがダーッとなだれ込んできて、まあ大変でしたね。なかなかの修羅場でした」
「……⁉」
抑揚少なく淡々と語られるわずかな言葉のなかに、聞き逃せない新情報がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
ちょっと待って、と言いたい私の気持ちとはうらはらに、犬耳ウィッチガールは遠い目をする。大きくて黒い瞳に、地上で燃えさかる炎が反射して煌めいている。
「修羅場だったけど――本当に見事なもんでしたよ。あんたたちのボスが小豚の死骸になった瞬間、あの鉄の腕で魔力の槍を雨みたいにドカドカ振らせて、闘技場の外にいた支社長連中皆串刺しの公開処刑でしたから。はい」
表情の変化や声の抑揚に乏しい彼女なのに、この瞬間だけは雰囲気が違った。初めてミュージカル観たの光景を頭の中で思い浮かべている小さな女の子のように、どこかうっとりとしている。
唇に戻すのを忘れたあの子の煙草が、親指と人差し指で摘ままれたままになっている。床に灰を落とさないために、私は彼女の手元に灰皿を添えた。その後、目つきと手つきで「続けて」と促す。
これは是非とも聞いておきたいお話だ。
遠くを見つめたまま犬耳ウィッチガールは煙を吸い込み吐き出して、ぽつりと言葉を漏らす。
「戦闘を見せもんにしてる段階で、ここの世界の連中はどいつもこいつもアホばっかだと思ってましたけど、あれを見て考えを改めました」
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