第47話万南無高校VS梵酢高校 1

坂と植木、大木の多い場所に突如切り開かれた様に鎮座する万南無高校のグラウンド。駆けつけた家族や友人はもちろん、運営関係者すらも息を飲む死闘が繰り広げられている。

準決勝においてホームグラウンドを引き当てた事は地形を知り尽くしている「彼ら」にとって大幅に有利になったはずであり、試合内容も「普段の対戦条件」

ならばどこをどう見ても問答無用で勝利できる一方的な物だった。


――だが



「はあっ・・・はあっ・・・」

「よぉく・・みて♪」


バニースーツにステッキと黒い帽子。マジシャンのコスプレで幻惑し


「うっ・・・くっ・・はあっ・・」

「・・・」


被っていた帽子をゆっくりと相手に差し出す


「ほぅら・・おまめさんですよ~♪」

「うっ・・ふっ・・」


焼豆(やきまめ) 目良美(めらみ) 


「・・・!!!」

「んん!うんめぇぇぇ!!!」


対戦相手の 梵酢高校(ぼんずこうこう)、葱沼(ねぎぬま) 俊介(しゅんすけ)がまたも術中にはまり、豆をむさぼる。


「俊介(しゅんすけ)!!!」

「しっかりしろ!!」

「ぐっ・・!!この!!この!!!」


相方の 茄子乃(なすの) 甘美(あまみ)が指示を出すも、しごき続けているTENGOからは一向にオーラが射出しない。彼女は焦っているあまり

少し乱雑にやりすぎていたのだ


「うっ・・・ふっ・・」


焼豆(やきまめ) 目良美(めらみ)のパートナーである 小屋鳩(こやばと) 大脱走(だいだっそう)は背後から襲い掛かる快感に耐え続けている


「はぁっ・・・はあっ・・」


だが一方的に試合をリードしている筈の 焼豆(やきまめ) 目良美(めらみ)は体力に限界が来ていた。ふんばろうとはするものの、膝が笑い出し次第に内股に

なって行く


「・・・・!!」

「うっ・・・」

「げぇぇぇっ!!げぇぇぇっ!!」


「ドサドサドボドボ・・」


その一瞬の隙をついて 葱沼(ねぎぬま) 俊介(しゅんすけ)が胃の中から豆を地面にぶちまける。焼豆(やきまめ)の「豆が食べたくなる能力」は高い精神力を

必要としていた。体力の衰えはそのまま能力の低下に直結する。彼は暗示の緩くなった瞬間を見逃さなかった。


「おまえこの・・」

「うっ・・」


葱沼(ねぎぬま)がゲロを吐いている間に


「ほぉら・・・見て見て♪」


すかさず次なる攻撃を繰り出す。焼豆(やきまめ)は胸元を自らのステッキでぐいぐいとはだけさせた。するとどうか。そこにはびっしりと豆が仕込んであるではないか。


「う、うぉぉぉぉ!!!」


思わず飛びつく 葱沼(ねぎぬま)。


「ほ・・・」

「ホァァーッ!!」

「ホァァッ!!」

「べろん!!べろん!!」


自慢のモヒカンを振り乱し、一心不乱に吸い付く。


「あっ・・・くっ・・・はっ・・」


胸元に豆を仕込む。それだけでも強烈な攻撃なのだが、葱沼(ねぎぬま)は勢い余って 焼豆(やきまめ)の胸まで吸ってしまっていて「カウントされない反則ポイント」が入ってしまっている。

倍加されたポイントはすべて万南無高校側に入り、普通ならとっくに試合は決着している筈であったが、今回は事情が違う。なぜかというと

万南無高校は「中継ぎ」というルールを適用しているからである。これは、平たく言えば「選手交代」の事であり、「プロアプリ坊主」ならば、別段問題無い事なのだが、

「高校アプリ坊主」においては極めて稀なケースであり、その分ペナルティを設けてある。すなわち


「ポイントの入り方に補正が掛かる」


のだ。過去にアプリ坊主のルールを制定し、ついでに高校大会も取り決めた 珠須 雪次郎(たます ゆきじろう)であったが、自分で自分の作ったルールを変更するわけにもいかない。

身内だけに甘くするルールなど世間が認める筈もないし、彼も極力控えたい所だったのだ


「うっ・・・ふっ・・」


「ドサッ」


精神力を使いすぎてその場にへたり込む 焼豆(やきまめ)


「おまえこの・・・」

「よくも・・」


葱沼(ねぎぬま)はポッケからTENGOを取り出すとすかさず装着し


「豆こんな食わせてくれやがって」

「なぁ!!」


「ズボァ!!」


焼豆(やきまめ)の口に挿入する。もちろん、反則だ


「ワーン!!」


「ツー!!」


審判から反則を勧告するカウントがかかる


「このっ・・!!」

「このっこのっ!」

「ふっ・・・ふっ・・!!」


髪の毛を掴んだまま腰をぐいぐいと動かし焼豆(やきまめ)の内頬を蹂躙する。


「ぐぼっ・・・」

「がぼがぼっ・・」

「かぽっ・・ずぼっ・・」


なすすべもなく受け入れる彼女の瞳にはうっすらと涙が浮かぶ


「セブーン!!」


「エイート!!」


審判のコールが静まり返ったグラウンドに響く。焼豆(やきまめ)の家族であろうか。「もう観ていられない」といった感じに顔をそむけ、抱き合っている


「おっと・・・」

「出るっ!」


すかさずTENGOを引き抜き、相方の 茄子乃(なすの) 甘美(あまみ)の所まで走って行き、


「オーラ、でりゅう!!」

「あ”っ・・途中ででりゅっ!!!」

「ん”~~~~~~!!!」

「とちゅうででりゅ~~~っ!!」


「ビシャアァァッ!!」


オーラをぶちまける葱沼(ねぎぬま)。辿り着くまで我慢できずに途中から漏れ出して半分程地面にこぼしてしまっているが、一応 茄子乃(なすの)にも命中する


「馬鹿っ!!」

「何やってんだ!うちら、負ける寸前じゃねえか!!」


小屋鳩(こやばと)を押さえながら端末のポイントをチェックしていた 茄子乃(なすの)はカンカンに怒っている


「うへへ・・すまんすまん」

「つい、気持ちよくってさあ・・」


照れた様子の葱沼(ねぎぬま)はTENGOのズレを直し


「でも大丈夫そうだぜ、あれを見てみな」


親指で後ろを差した


「・・・・・」


ぐったりとしたまま遠くを見つめる 焼豆(やきまめ) 目良美(めらみ)。視点定まらぬまま瞳は遠くを写し、今の行為によって先走った 葱沼(ねぎぬま)

のオーラと彼女の唾液はお互いに混ざり合い、口の端からだらしなく垂れている


「今のうちにとっとと (小屋鳩に)茄子突っ込むぞ」

「ん~。これがいいかな。」


葱沼(ねぎぬま)は肩に掛けたホルダーの中から一番太い茄子を選ぶと「ニヤリ」と笑って舌なめずりする


「ひっ・・・ひいっ・・!!」

「おい!!目良美(めらみ)っ!」

「しっかりしろ、目良美(めらみ)!!!」


後ろから羽交い絞めにされている 小屋鳩(こやばと) 大脱走(だいだっそう)が必死に呼びかける


「あっ・・うっ・・・くっ・・」

「ごめん・・大ちゃん・・」

「・・ごめん」


かろうじて反応する 焼豆(やきまめ)


「待っててね・・・今・・・」

「今行くから・・・っ」


体力を使い果たした 焼豆(やきまめ)は這うようにして進む事しかできない。太ももを震わせ、匍匐前進(ほふくぜんしん)する手の先には 小屋鳩(こやばと)

が居る。助けを待っている。ただ、このまま、体力の衰えたまま救出しに行く事は 茄子乃(なすの)に蹂躙される事を意味する。それが解っていても彼女にはどうする

事もできない。


「最愛のパートナーの少しでも近くに行って結末を迎えよう」


そう考えていたのかも知れない



静まり返る観客席。そこには意地と意地がぶつかり合う「スポーツ」としての何かがあった。もはや試合はこれまで、と思ったその時だった


「カーン!!」


ラウンド終了を告げるゴングが鳴り響く。間一髪、万南無高校は時間に救われたのだ。一斉にベンチから飛び出し2人の救助に向かう万南無陣営。

皆、短距離走のタイムでも競うかの如く全速力だ。次のラウンドまで、そう時間はない。


「先生・・・みんな・・」

「ごめん・・」


部員に抱きかかえられた 焼豆(やきまめ) 目良美(めらみ)が空中を見ながらつぶやく


「焼豆(やきまめ)!」

「焼豆(やきまめ)!」

「もういい・・おまえはよくやった・・」


「・・これ以上はもういい・・」

「・・・棄権しよう」


顧問の教師 ※(「試合会場に戻ってみる」 とは別人) がリタイアを提案する


「先生・・・」

「着替え・・・」 


「制服持ってきてくれますか・・?」


抱きかかえられたままの 焼豆(やきまめ)が顧問に懇願した


「お、おう!今持ってきてやるからな!!」


「(全く、一体全体どうしちまったんだ・・)」

「(ウォーミングアップも済ませていない生徒に・・こんな・・)」

「会長・・・」


早足で 焼豆(やきまめ)の荷物を掴み、てきぱきと運ぶジャージ姿の顧問




―2日前―



「はぁ????」

「目良美(めらみ)を?」

「今からですか?」


万南無高校職員室。今と同じジャージ姿の顧問が立ったまま電話でやりとりしている


「そんな急な事言われましても」

「犬馬はどうなるんですか?」

「彼女にだって立場が・・えっ?犬馬の方から・・?」

「あっ・・・はあ・・」

「それにしたって、ひどすぎますよ」

「下手すると命に関わる問題ですよ・・責任は」


「・・・はい・・・そうですか・・・わかりました」


受話器を戻し、ため息と共に机に大きく手を着く顧問




アプリ坊主の力。それは自らの持つ可能性を別の可能性に昇華する力。数億の願いを犠牲に本人の願いを叶える力。

空中に四散し、消えて行った二度と世に出て来れぬ子らは思う


「お父さんお母さんの願いが、どうか叶いますように」と



























 


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