第46話日常風景

物事にはすべて原因と結果があり、秩序を重んじるわが国では先に火種を作った人間や不条理な行動をした人が悪いとされ、司法もそれに準じている筈だった。だが、いつしかそれは根底から覆され、世に混乱を生む原因となり果てた。

もし、あなたがここの日本に来る事があればよく覚えておいて欲しい。


――法律とはこういう物だと言う事を


千葉の街外れの裏路地。人通りも少なく、監視カメラも設置されていない。彼女らにとっては格好の狩場だ


「・・・あっ!!!」

「返せよ!!!」


リュックサックにアニメのポスター。眼鏡に少し太った体系。絵に描いた様なオタクが


「ほ~ら、ここでちゅよ~♪」

「きゃっはは♪」


女子高生に財布を奪われ、右往左往している。アニメショップを出てきた所から追尾されている事に彼は気付いていなかった。


「ふっ・・!ふっ・・!!」

「返せっていってんだろ!!」


オタクは奪われた財布を取り返そうとして必死だ


「オラ!飛んでみろよ豚!!!」


財布を頭上に掲げて左右にフェイントを要れる


「うへえ、肉すげえ揺れてる~」

「なにこいつ、超キモイんですけど~」

「カシャッ!」


少し離れた所でニヤニヤと様子を窺っている女子高生の連れが、携帯を操作する


「返せ・・!!」

「返せよ!!それが無いと、生きていけないんだ」

「僕の全財産なんです!!」


余程大金が入っていたのだろう。男性はがっくりと膝を着きうなだれる


「ああ~?なに~?」

「聴こえねーんですけど(笑)」


耳に手を当てて「聴こえない」のポーズを取る女子高生


「・・お願いです、返してください・・」

「・・・お願いします」

「なんでもしますから!!」


アスファルトに額を擦り付け必死に土下座する男性


「そーだなー・・」

「・・・あっ、超少ねえ」


男性の頭をぐりぐりと


「ナニコレ?」

「おまえこれ、全財産って言ってなかったか?」

「5万しか入って無いんだけど」


踏みつけていた女子高生がつぶやき


「今時、こんなんじゃ、どこにも行けねえよ」


男性に唾を吐きかける


「お願いです・・本当にお願いです」


ザラついたアスファルトに肌が食い込み


「僕にとっては大金なんです・・」


眼鏡のフレームがきしみ、形を変えていく


「あ”?」

「お前、調子こいてんなよ?」


男性を足蹴にしていた女子高生は


「今、おまえ、私の足の裏、(頭で)触ってんだぞ?」

「これっぽっちの金で済むと思うのか?」


逆ギレ気味にオタクに吐き捨てる


「糞豚が。手間掛けさせやがって!!」

「あー・・・ムカツク」

「おい、引き揚げっぞ」

「ぺっ!!」


奪った財布を胸の谷間にしまい込むと、男性に背を向ける女子高生


――その瞬間


「クソがぁぁぁ!!」


オタクは背後から襲い掛かり、財布を奪い返そうとする


「きゃっ!!」

「ちょっ・・・ちょっとやめて!!」

「あっ・・・あっ!!」


女子高生はなされるがまま、背後から鷲づかみにされ、抵抗できない。


「うぉぉぉぉ!!」

「この!!この!!」

「どこだ?どこだ!?」


奪われた財布が見つからず、背後からあちこちまさぐる男性。


「助けて!!」

「誰か助けて!!!」


急に大声を張り上げる女子高生。制服のボタンは飛び、ブラジャーがずれて肌を露出させている


「ひっ!!」


男性は我に返り、慌てふためき女性から離れたが時既に遅し。


「ピロリロリン♪」


動画を取り終えた女子高生の連れが、無言で「OK」のサインを出す。


「・・・ちょっと一緒に行こうか」


通行人を装って遠くから来た男性。女子高生の仲間だ。その男性が別の通りすがりの男性に声を掛けて共に来た事で「第三者証言」が得られる


「悪いことしてない!!」

「俺は悪くねえぞ!!!」


うろたえて必死なオタクだったが、もう「証拠」がいくつも積み重ねられてしまっていた


「許してください!!!」

「許してください!!」


両脇に各1人、後ろから1人、合計男性3名に警察署まで引きずられて行く。どさくさに紛れて背後から男性のリュックにそっと財布を戻す女子高生。

軍手着用で指紋も付かない。



21世紀初頭の痴漢冤罪。証拠があろうとなかろうと、手当たり次第男性が牢屋に閉じ込められた。ヘタをすれば、男性側に有利な証拠があっても

有罪となり、犯罪者扱いされ、処罰される。しかも、女性側の主張はあやふやであろうと全面的に認められるという始末だった。


「原因と結果」


ここではもう「財布を盗られたから」⇒「取り返そうとして」⇒「全身をまさぐった」


という過程は省かれる。つまり、


「うちは元々、女性に触る気なんか無かったのに、財布を盗られたから取り返そうとして触れただけですよ」


という男性側の主張は「全く無視」されるのだ




法律というのはたまに原因や自業自得という概念がすっぽり抜け落ちてしまっている場合がある


「全身をまさぐった」


もはや財布を盗られていようがいまいが関係ない。法律には優先順位があり、この場合においては「女性を襲った」ココの部分が第一に優先される。

このケースでは女性が財布を元に戻しただけまだ良心的だったのかも知れない。


「欧米諸国の真似をして、女性に優しい国。」

「いや、むしろ日本が一番やさしいだろ!!」

「俺の国、かっけぇぇ!!」


日本の政治家達の嬉し泣きはナナメ上方向に飛んでいった


「ダブルアーップ♪」


ほくそ笑む女子高生


この男性はこのまま警察署に行けば、間違いなく数十万の罰金刑と、職場の退職が決定する。女子高生はたった一日で、男性の一ヶ月分以上の

給料を稼ぎだした。原因と結果、結末を見ると


「女子高生が財布を盗んで、被害者男性が泣きながら大金を差し出し、それを国が認めた」


という無茶苦茶な物になってしまったが、この国の司法が下した判断なら仕方が無いのかも知れない


台風が過ぎ去った後でも決壊した堤防から被害が出るように、その余波は、一度傾いた形勢というものは、なかなか元には戻らない。

昔に、あれだけの惨事を起こしておきながら、この国は何も学んではいなかった。


「やさしさ」とは何をしても無条件で許したり、褒めたりする物ではない。ましてや、それが「人の人生を狂わせる程悪い事をしたのなら」尚更だ。

決して悪口の意味で書く訳では無いのだが、理屈で物事を考え、道理を説く男性と違い、女性の脳はそういうふうには構成されていない。

それに地位を与え、赤子のように甘やかし、あやふやのまま女性が勝ってしまうような法律を作るとどうなるか。


――そことは違うどこかの日本。あなたがもしここにやってくる事があるのなら是非ともよく覚えておいて欲しい











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