第44話 梵酢高校VS私立サバンナ学園

よく外国のお祭りやファッションショーなどで女性の乳首丸出しの姿を目にするが、それについて「なんて卑猥な。苦情を入れてやろう。」などと思う人は少ないだろう。

又、相撲の中継などを見て「裸同然の格好をテレビ放映するとはけしからん。通報してやろう」と思う人もいない。

なぜかというとそれは「元から存在する当たり前の事として認識されている」からだ。


オマケに建前として「文化」や「スポーツ」とかいう肩書きが加わればそれはもう一般の人からして観れば考える余地も無い事なのだ



何度も繰り返してしまうようだが、それはこの世界の「日本の国技」である「アプリ坊主」の高校生大会に於ても同じ事であった。




「あっ・・・・うっ・・・」

「くっ・・・!!」


サバンナ学園のホームグラウンド。この学校の代表選手である


「いっ・・・いやだぁぁぁ!!」


雨宮スコール(あまみやすこーる)が背後から女性に羽交い絞めにされている


「ズボン降ろしてズボン!!」


梵酢高校(ぼんずこうこう)の 茄子乃(なすの) 甘美(あまみ)が相方に指示を出す。


「おいこら、暴れるな」

「んしょっと・・」


葱沼(ねぎぬま) 俊介(しゅんすけ)がスコールの足に乗っかり動きを封じ、ズボンを下に降ろして行く


「ひぃいぃいぃl!!!」

「ゆるしてください!!そんな太いの無理ですううう!!」

「あっ・・・!!あっあっ!!」


茄子乃にTENGOをしごかれ、悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げるスコール。彼の「一騎打ちでどうにかする」作戦は不発に終わっていた



「あっ・・あわわわ・・」

「ど、どうしよ・・」

「このままじゃスコールのお尻が大変な事に・・」


スコールの相方である 大地めぐみ(だいちめぐみ) が木陰から隠れるようにして反撃の隙を伺う。幸いにも彼女は「女性」なので2人がかりで攻撃されることは

ほぼ無い。(男性アプリ坊主は対戦相手の女性アプリ坊主に対し直接攻撃できない)

但しこのままのこのこ救出しに行っても、茄子乃(対戦相手の女性)に捕まってしまうことは明白であった為、身動きが取れないのだ



今回の試合会場である「私立サバンナ学園」は、大地めぐみと雨宮スコールのホームグラウンドであり、地形を知り尽くしている彼らのほうが

有利に事が運ぶ筈であったが、いかんせん身体能力が違い過ぎたようだ。完全に梵酢高校に押されてしまっている。


「セブーン!!」


「エイート!!」


反則をカウントする声が審判から告げられる


「おっと・・。」

「ノー!ノー!」


葱沼は乗っかっていたスコールの足から飛びのき、両手をひらひらさせて「何もしてませんよ」というジェスチャーを審判に向けた。


「はぁっ・・はぁっ・・」

「ううっ!!!」

「出るっ・・!!!オーラ出るっ!!」


茄子乃に背後からしごかれ続けたスコールは早くも1回目のオーラを放出してしまった。完全にムダ弾だ


「んちゅっ・・」

「んっ・・」

「(今よ)」


スコールの口を吸っていた茄子乃が目配せし、


「ぬんっ!!」


すかさず葱沼が冷凍茄子を突きたてた。


「ありゃ・・ちょっとこれ」

「ほぐしかたが足りなかったんじゃないかなぁ・・」


少し出血したスコールを見ながら葱沼がつぶやく。話の本筋とは関係無いが、葱沼は自慢のモヒカンを根元は白、先端は緑に染め上げ「ネギっぽさ」を演出している。

この時点でも既に有利なのだが、上半身裸の肩から掛けられた収納ホルダーには、予備の茄子が銃弾のようにつめられており弾切れの心配も無い。


「ううっ・・出ない・・」


茄子のヘタを掴み、自分の体内から出そうとするスコールだったが


「ほらぁ・・そんな事いわないでっ♪」


背後から茄子乃に妨害され、再び体の奥へと押し戻される。


「うっ・・ふっ・・!!」


スコールのTENGOが再びムクムクと角度を付けた。


「ヘイ!YOU」

「オーラ出しちゃいなよYOU!」


右手に持った予備の茄子を左手で「パシッ!パシッ!」と受け止めながら葱沼が煽り立てる。スコールの2度目の放出は間近であった。



場面をそのままにテレビの外枠フレームにズームアウトする。これはテレビ中継の場面そのものだ。この世界では高校野球の放送さながらに高校アプリ坊主の試合がオンエアされている。


「ううむ、こりゃあ、勝負あったかなぁ・・」

「あっちの子もこりゃあ、打つ手が無いな」


犬馬の自宅にて。ポップコーンをほおばりながら熱心に試合に見入る珍海。なんせこの試合に勝ったほうが次の対戦相手なのだ。熱の入りようも頷ける


「ピンポーン」

「ごめんくださぁい!」

「ピンポーン」


ふいに玄関のチャイムが鳴る


「珍しいな。」

「どうしたんだ突然」


珍海が玄関を開けるとそこには御津飼 政一が立っていた。普段は結界のようなモノが張られて人目に付かない犬馬宅だったが、今はその使い手がおらず、

少し調べれば一般人でも容易に場所を探し当てることができた。


「よう。珍海」

「のり子さんはいるか?」


少し複雑な表情をした御津飼が、持っていた携帯をポッケにしまう


「なんだおまえ、(試合が)いい所だったのに。」

「犬馬なら今日はどこかに出かけてるぞ」

「それとも少し待ってみるか?」


「・・まぁいいや、良かったらあがってけよ」


御津飼の返事を待たず、さっさとリビングに戻る珍海。試合が気になるらしい


「(居無いのか・・)」

「・・せっかくだし、お邪魔させて貰おうかな」


脱いだ靴をきちんと揃えてから珍海の後について行く


「おっ、みてみろよ御津飼」

「サバンナ学園の(女の)子、2本刺しされてる」


再びイスに腰掛け、画面に見入る珍海。玄関に行っている間に試合は梵酢高校大幅リードの状況に移行していた


「珍海、突然で悪いんだけど、のり子さんと連絡つかないかな?」

「・・・」


御津飼の視界にちらちらとテレビ画面が映る。まばたきする度に視線を泳がせ、落ち着かない様子だ


「なにおまえ?犬馬になんか用でもあんの?」


珍海は試合の事が気になっていて、先ほどの会話は右から左へと抜けていた


「・・いや、急用という程のものでもないが・・」

「うっ・・・」


途中まで言いかけて


「こっ・・こんなものを・・・」


股間を押さえる御津飼


「??こんなものって」

「ただの試合だが。」


きょとんとした表情の珍海。御津飼と画面を交互に見やり「何言ってんだこいつ」といった様子で首を傾げる


「いや、おかしいだろ。」


テレビ画面には大地めぐみのあられもない姿が映し出されている。どうやらそれを見て興奮したらしい


「おかしいって、どのあたりが???」

「・・御津飼おまえ、勉強のしすぎで頭がいかれたか?」

「たまには息抜きしたほうがいいぞ」


わけがわからないといった表情で諭す珍海


「テ、テレビ画面に女性の裸が映ってるんだぞ・・?」

「しかも未成年だ。」

「これが卑猥と言わずして何が卑猥なんだ」

「・・・絶対におかしい」


ズボンをぐいぐいと押し上げる「硬くなった自らの衝動」に耐えながら御津飼が反論する


「はあ??」

「いつも(昔から)そーじゃねえか」

「確かに女性の裸だけど、別に卑猥じゃないだろ、スポーツだし」

「それに日本の伝統行事でもあるし」

「年齢については「アプリ坊主は古来より成年、未成年を問わず」って習わなかったか??」


「あとな、裸がダメってんなら、大相撲協会にでも苦情言ってこいよ(笑)」


やれやれといった感じで珍海は画面に向き直った


「それはまぁ・・そうなんだが・・」

「公共の場で性器を露出するのは・・」

「おかしいと思わないか?」


尚も食い下がる御津飼


「日本の伝統文化でな・・」

「混浴というのがあって、そこでは男女共、性器を露出しまくりだぞ」

「同じ公共の場で、あっちは良くて、こちらのスポーツはダメなのか?」

「それって矛盾してないか?」


座っていたイスから立ち上がり、珍海が会話しながら台所に歩き出す


「う・・・く・・」

「そう言われてみれば・・・」

「・・・(確かにそういう気がしてきた)・・」


頭を抱え、考え込む御津飼


「だろ?」

「なんせ「国が認めている」んだ。」

「そこに疑問をはさむという事は」

「「国に向かって物申している」って事になるんだぞ」

「おまえ、議員の息子なんだから国に逆らっちゃダメじゃん(笑)」


珍海は冷蔵庫から栄養剤を持ってくると、そっと御津飼の手元に差し出した


「そうだ、そうだよな・・サンキュー」

「改めて、聴くが」

「・・・のり子さんはその・・」

「嫌々(このスポーツを)やってる訳じゃないんだな?」


御津飼はビンの底からまじまじと内部を覗き、しばらくすると手を切らないようにそっと栄養剤のフタを開けた


「・・随分と話が飛んだな。のり子か・・」

「どこの世界に、やりたくもない部活するヤツがいるんだよ(笑)」

「・・・」


心配そうに御津飼の顔を覗きこむ


「いや・・・少し気になってな」

「ありがとう、いただくよ」


御津飼も頭を押さえながら飲み干した


「・・・落ち着いたか?」

「大丈夫だ、今日はもう勉強の事は忘れろ。あまりテンパり過ぎるのは体に良くないぞ」


「・・それで、犬馬に用事があるっていうのは?」

「今の事か?」


テレビの音量を少し下げる珍海



「ああ、いや、違うんだ・・これとは関係無い」

「最近、のり子さん・・電話に出てくれなくてね」

「嫌われてしまったのかなぁ、と」


栄養ドリンクの飲み口を人差し指でいじくり回す御津飼


「犬馬が?・・・まったく、何やってんだあいつ」

「・・・」


取り出した携帯をチラ見する珍海。どうやら彼も心当たりがあるらしい


「まぁ・・その・・なんだ」

「女性は何も、犬馬だけじゃないぞ?他にいくらでもいるだろ。お前なら」


もしかしたら慰めているつもりなのかも知れないが、歯切れの悪い感じに遠まわしに「諦めろ」と促す珍海


「まぁね・・」

「あ、試合終わった」

「ちょっとティッシュ借りるぞ」


テーブルの上に置いてあったティッシュでメガネの曇りを掃う


「!!」

「ああー!・・・いいところだったのに・・・」

「お前、コレ、次の対戦相手で・・・」

「・・・・うん、まぁ録画してあるからいいや。あとで観よう」


御津飼と話込んでいるうちに、どうやら試合は終わってしまったようだ。珍海はリモコンを操作し録画した動画を保存用の場所に移し終えると、携帯を操作し始めた。




「おおい、大丈夫かい?」


再び試合会場。仰向けになり足をVの字型に大きく広げて大地めぐみと雨宮スコールが仲良く失神している。大会運営委員が2人を介抱しに向かった。


「余裕っしょ!」



試合が終わり、本人達の希望により運営が用意したお立ち台に意気揚々と向かう茄子乃と葱沼。


「ネギー!ネギィー!!」


特に葱沼の方は興奮覚めやらぬ様子で虚空に向け茄子をぶんぶんと振り回している


「ワァァァァ!!!」

「コンコンコンコン!」


遠征して来た梵酢高校の応援団や家族、チームメイトは抱き合い、メガホンを叩いて2人を祝福した。


「・・・・」

「・・・うっ・・うっ」


一方、負けた側のサバンナ学園の応援者達は涙を拭ったり、やさしく肩を叩いて慰め合ったりしている。



「校長・・・すいません・・」

「今一歩、力が及びませんでした・・」


静かな足取りで2人の側に校長がやってきた。目を覚ましたスコールが上半身の衣服を整えつつ項垂れた


「校長・・・」

「校長っ・・」


試合に出られなかった部活の仲間や、顧問の先生も皆一同に集まる


「落ち込む事は無い。2人共、よく頑張った」

「我々は、サバンナ力(さばんなりょく)を充分に発揮したじゃないか」

「今回は、たまたま相手がそれを上回っていたと言うだけの話だ」


いつになく真剣な表情で語りだす校長


「!?」

「(校長!?)」

「(なにかいけないモノでも食べたのかな??)」


キャラに似合わない話をしだして驚きの顔を向ける一同。


「すりすり・・」

「(チラッ)」


マネージャーの女子が校長のお腹をさすり、顔色を窺う


「食べてないよ。」

「私は悪いモノ食べてないよ」


静かに諭す校長


「しっ・・・失礼しましたっ!!」

「・・・」

「あっ・・あの、これよかったらどうぞ」


なぜか顔を赤らめつつ粉末状の胃薬を差し出すマネージャー


「うむ・・ありがとう」


校長は渡された物をポッケにしまうと


「よし、全員で校舎(ただのでかい木)までダッシュだ!!」


今時の青春ドラマでは絶対やらないようなイベントを提案し、一目散に駆け出した。


「おー!」

「わぁぁぁぁ!!」

「校長っ!!」

「校長っ!」


周りの学生や応援者達は校長の様子を観つつ2~3歩共にダッシュし、あとは早歩きで周りに合わせ、やがて歩みを止めた。今時、熱血教師は流行らないのだ。


「校長ぉぉぉ!!」


ケツに茄子が刺さったままのスコールがひょっこり後を追う。彼ら2人の青春はとめどなく燃えていた。




こうして「春の高校アプリ坊主大会」にベスト4が出揃った。次はいよいよ準決勝である。選手達はこの3年間(2年で代表になったペアも居るが)努力し、精進し、

絶え間ない練習を積み重ねてきた猛者ばかりだ。試合への意気込みはこれ以上無い希望と情熱により最頂点に達していた。




―― 犬馬のり子。そう、唯一人彼女を除けば。


































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