第38話初体験

――21世紀も半ば、ある機関により「男女間における性の意識調査」が行なわれ、「男性の半数は29歳で童貞を喪失する」という結果が発表された。

女性のほうが圧倒的に低年齢で初体験を済ませる一方で、男性側は平均10歳以上も後れを取るという結果になった。分析により「草食系男子化が原因」とされたが根本的な問題はそこでは無かった。


ここまで読み進めてこられた方にはあらためて説明するまでも無い事と思うが、これは「女性の緩慢化」が原因である。政府やその広告塔であるテレビ局の推し進める「スタイリッシュな女性カッコイイ!キャンペーン」や「わがままな女性って素敵キャンペーン」

により日々「女性はこうあるべき」と洗脳や教育を徹底された女性達には、もはや自分が緩慢である「自覚」すら考える余地は残されていない。「自分が理想とする、出会いの場以外の出会いはありえない」という

無意識の結論は、男性側の視点から見れば「出会いの場」を劇的に狭めた。それでも街角で声を掛ける猛者は居るには居たが「警察署までの片道デート」になってしまうのが関の山だった。

「女性は自分の好みのタイミングで経験できる」事に対し「男性は女性と目を合わせただけで犯罪」になってしまう。おきあがりこぼしの片方だけ巨大に膨らんでいるようなバランスの悪さが当時の日本には形成されていたのだ。


「極力良い遺伝を残す」という動物の本能故なのか、妥協して「その次にかっこいい男子でいいや」などと考えずに一番人気の男子にバレンタインのチョコが集中してしまうような生態であれば

取り残される男性が多数を占めてしまうのも至極当然の結果だった。平等を謳うのは大いに結構だし文明社会として正しい姿勢だとは思うが、間違った価値観を植えつけられ、脳の中身が動物レベルのままで主張の声だけが正当化されてしまうようであれば

日本全体にとっての存続が危ぶまれる。




さて「男性は女性と比べて経験が大幅に遅れる」という、少し考えれば「水は上流から下流に向かって流れる」ぐらい誰にでも解る成り行き通りの結果が出たのだが、どういう訳かこの発表に一番驚き動揺したのは、これを推し進めてきたはずの当の政府だった。


「なぜこんなことになってしまったのか?」

「日本男児はアメリカと比べて遅すぎる!!」

「いやいや、コレで良いんだよ。うちの息子の彼女がそこらの一般人に寝取られては困る。」

「あんたの所の話はしてない!!」

「このままでは我が国は、欧米諸国に大きく遅れていると認識されてしまう!」

「こんなの全然スタイリッシュじゃない!!」


テレビ中継の前で討論するには危険な内容と判断し会議室で意見を交わす議員達。


「あ~、じゃあ、とりあえず数字だけ変えておけば?」


パイプ椅子に寄りかかり暇そうにしていた若手議員が明後日の方を見ながら言い放った。


「・・・!!」

「いいね!!」

「いいね!!」

「イイネ!」

「グッジョブ!」


周りの議員から次々に賛辞が飛ぶ。なんとなく決まった様だ。


「じゃあ(調査機関に)通達しておくように」

「なんか言われたら、「調査の仕方が間違ってた」とでも 言(い)っとけって伝えて。」

「何、ここの国民バカだから気づかれないって。」



こうして調査機関の発表は後日訂正され「男性の半数は29歳で童貞を喪失する」という項目は「男性の半数は20歳で童貞を喪失する」と書き換わった。


冒頭の「根本的な問題」とはまさにこの部分であり「政府の声一つ次第でいかな調査結果も意味を成さなくなり、事実を曲げられる」という事だが、

なにより問題だったのは「国のトップが国民をナメ切っていたこと」これに尽きるだろう。




「・・はぁ・・しょうもないな。」


件の会議室から出てきた髪型の整った中年男性が、スーツから携帯電話を取り出しメールを確認した。「件名:御津飼政一様の注文商品についての明細書」

と書かれている。


「・・あいつも言い出したら聞かんからな」


彼の名前は「御津飼(みつかい) 準造(じゅんぞう)」御津飼政一の父親であり、国会議員を務めている。普段は自分の事務所と仕事場を行き来きしている為、

滅多に実家には帰らなかったが、それなりに息子の事を気に掛けていた。


「今日はもう終わりで?」


廊下をしばらく歩いた所で、近くで待機していた準造の秘書が声を掛ける


「しばらく休憩するので、何かあったら代理でお願い」


準造はそう言うと、喫煙室に入って行った。


喫煙室は廊下の火災報知機が誤作動しないように2重の扉になっていて、室内も空気清浄機がフル稼働している為かさほど煙たくは無い。スーツ姿の議員達は

思い思いの位置で喫煙しながらスマホやら携帯やらを取り出してくつろいでいた。


「・・なにも」


なにも一人の女性に固執しなくても良かろう。いくらだって女性は居る。先生方から「是非、私の娘を」と頼まれた時、断るのにどれだけ神経を使う事か。


「・・全く」


全くしょうもない。


「はい?なにか言われました?」


隣で喫煙していた議員が自分の携帯から準造のほうに目を向けて質問する


「ああすまん、なんでもない」


準造は作り笑いで返答すると携帯を折りたたんで仕舞い、代わりにタバコを取り出した。


「犬馬のり子・・」

「あの珠須の所の秘蔵っ子か・・」


確かにモノにできれば大きいし、応援もしてあげたいが・・・・こちらとしてもあまり断り続ける訳にもいかんし、そろそろ腹を据えてもらわねば。




国会議事堂の喫煙室。準造はためいきと供にタバコの煙を吐き出した。


























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