第23話能力合わせ戦
黒服に連れられて千葉の街中を進む珍海。平日の昼前ということもあって、車通りも少なく、目的地にあっというまに到着した
「あら??」
「なんだありゃ??」
視界に入ってきたのはカレー屋の前の人の群れ。なにやら大盛況だ
「・・・」
黒服はウィンカーを右に出すと、そのままカレー屋の駐車場に車を運んだ。入り口の黒山の人だかりと変わってこちらのほうは、すこぶる空(す)いていた
「ささ、会長がお待ちです」
そのまま降りるように指示を出す
「あの・・・まだお腹減ってないんだけど・・」
ワゴン車のドアを閉めて駐車場に降り立った。急に外に出ると、いくらか肌寒い
「やあ、珍海君」
「待っていたよ」
向いていたカレー屋とは反対の方向から声がした。
「ああ、会長・・」
「・・・・似合いますね」
エメリアを肩車したイケメン会長に声を掛ける。
「ああ・・・どうも・・」
「(体に登るのが)日課らしくてな・・」
首筋やらほっぺやらに赤いキスマークが見て取れる。
「じーちゃん!!じーちゃん!!」
「おにいちゃんきた!!」
金髪の青い瞳の幼女が僕を指差して笑う。
「うんうん、おにいちゃん来たね。」
会長がにこやかに答えた
「それで・・・用事って、なんなんでしょう?」
って、言ってはみたものの、どうせ「子守り」とかなんだろうけど。・・まったく・・。
「ふふっ・・」
思わず笑みがこぼれてしまった。別に子供の世話は嫌いじゃない。毎日だと大変そうだけどね。
「ああ、違うんだ。」
「キミ・・・これ(エメリア)を頼む・・」
会長が中腰になると、すかさず背後にいた黒服が体を支える。両脇に2人、前後に1人づつ。
「ありがとう。」
エミリアを黒服に渡して体の軽くなった会長が「すっく」と立ち上がった。
「・・・・」
「お~!!」
「きゃっ!きゃっ!!」
きょとんとしていたエメリアが、黒服に渡されて再びはしゃぎだす。・・って誰でもいいのか、この子
「人見知りしないんですね・・」
「あれ?そういえば、わか子ちゃんは?」
僕は、「もう一人のエネルギーの塊」がいない事に気づいた。
「ああ、(収集つかないので)車の中で寝かせてあるよ」
会長がゆっくり答えた
「ああ、(遊び疲れて)寝ているんですか」
どうやら、わか子ちゃんは先にスタミナが尽きてしまったようだ。
「さあ、こっちだ」
会長は、カレー屋の中に行こうとしているらしい。いや、だから、お腹減ってないんですが・・・。
「ああ。なるほど」
入り口まで後を着いて行って納得した。「アプリ坊主の試合」が行なわれていたのだ。会長はコレを見せたかったらしい。
そのまま店の中に入る。
「会長、こちらです」
黒服4人が席を取っていてくれたらしく、入れ替わるようにして僕と会長に席を譲ってくれた
「おや?犬馬様は?」
黒服の一人が会長に声を掛けた
「いや、犬馬君は今日は欠席だ」
「そのまま(この場のボディーガードとして)居てくれたまえ」
会長は退席しようとしていた黒服を一人呼び戻すと、
「珍海君、少し詰めて、少し詰めて」
僕の横に座らせた
「それでね」
「今行なわれている試合は」
黄色いおしぼりで手を拭きながら会長が
「「能力合わせ戦」なんだ」
「珍海君は初めてだろう?」
話を切り出す
「ええ、一応・・・」
「ルールは知ってますけど・・」
カレーのメニューを置いてから僕は答えた
「能力合わせ戦」とはどちらかの能力に付き合って、同じ土俵で戦う試合だ。仮に、A組 VS B組 の試合が行なわれたとして
A組のペアが「歯を磨く能力」
B組のペアが「お菓子の包装をきれいに開ける能力」
だったとする。
A組は短期集中型の能力で、あまり長時間戦うわけにはいかない能力だ。試合中に何度も歯を磨いてると、そのうち歯茎から出血してしまうだろう。
かたや、B組は、相手が戦意喪失するのを待ちながら、延々とお菓子の袋を開けていればいいわけだ。
この誰がどう見ても、「戦う前から詰んでいる状態」を無くす目的で制定されているルールが「能力合わせ戦」というわけだ
手続きは主に、マイクパフォーマンスの段階で、「両者合意の元」で行なわれる。対戦相手に黙って変更したり、試合途中で勝手に変更はできない
A組のペアが、B組の能力に合わせて「お菓子の包装をきれいに開ける能力」のほうを実践した場合は相手とまったく同じ事をしていても、
より多くのポイントが入る。自分の得意分野で戦わない分のハンデという訳だ。B組がA組に合わせても同じ。要は「どちらかの能力と同じ事をして戦う」事を指す。
似たようなルールとして、お互いの能力をそっくり交換する「能力交換戦」もあるのだが、今行なわれている試合はどうやら「能力合わせ戦」のようだ
「それで、今戦ってるのは?」
会長に大雑把な質問を投げかけてみた
「うむ・・」
「この試合に勝ったほうが君達の次の対戦相手だ」
会長はコップの水を飲み干すと、茶色いポットを掴み、自分のコップに注いだ
「それで、能力は・・」
「カレーを食べる能力かなんかですか?」
誰のどんな能力か、わからんので適当に聞いてみよう。
「ああ、そうだった。」
「カウンター席を見てくれたまえ」
「あそこの一番左端・・・左・・・」
「ぬう。」
会長は目線でカウンター席のほうを指すが、テレビのクルーやら、人だかりやらで殆ど何も見えない。
「ううむ、失敗したな・・」
どうやら確保しておく席を見誤ったようだ。
「まぁ良い・・・」
「おお、これだこれだ」
会長が端末を操作し、ほんの数メートル先で行なわれているテレビ中継を画面に映した
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