第22話教室に戻った珍海

御津飼(みつかい)がトイレの鏡の前で睨めっこをしている頃、珍海(めずらみ)は教室の前まで戻って来ていた。


「珍海様。」


教室の障子を開けようかという時に、ふと背後から声が掛かる


「会長が」

「至急、来て欲しいとの事で」


黒服の従者だ。


「ああ、なんだ、タイミング悪いな」

「端末、机の上に出しっぱなしだったから」


珍海はそう言うと障子を開けて見せ、授業中の教室に黒服の姿をさらした。


(珍海)「・・・・・入る?」


「なんだろう?」と皆、一斉に黒服と珍海のほうに視線を集中する


「ああ、いえいえ」


黒服は手のひらを開いて顔を「ふるふる」と横に振り、皆の視線から身を隠すように2、3歩後ずさった。


「冗談です」


噴出しそうになるのを抑えながら自分の席に向かうと


「あ、先生、」

「そういう訳なんで、ちょっと行って来ます」

「みんな、おっ先ぃー♪」


端末やら荷物やらをまとめて珍海は教室を後にした



「それで?」

「どうしたのまた?」


曲がりくねった廊下を歩きながら珍海が尋ねる


「・・・」

「さあ・・私にはちょっと・・」


黒服は端末を覗き込みながら、答えをはぐらかした


「ああ、そこ、段差あるから気をつけてね」


珍海が目の前の2,3段の階段に注意するように呼びかけると


「おぅっ!!」


黒服がとっさに段差を飛び、不安定な姿勢で着地する


「直接聞いてみるか・・」


僕は端末を取り出すと会長にコールした。


「トゥルルルル・・・・トゥルルルル♪」

「・・ブツッ!!」


あれ?意外に(電話に出るのが)早いな。もう繋がったぞ。


「おお、珍海君か」

「ああっ、そこダメ、そこダメぇぇぇ!!」

「早く来てくれたま・・いでででで!!!」


会長はどうやら幼女2人に絡まれているようだ


「ぁ、げーむ(端末)ぅ~♪」

「わかこも!!わかこもそれやるのっ!!」


電話の向こう側に居るわか子ちゃんはやる気満々らしい


「わか子ちゃん、それ返しなさい・・」

「うん、エメリア、違うよ」

「おじいちゃんて、登る物と違うからねっ」

「痛っ!いだだだだ!!!!肩っ!・・肩肩肩っ!!」


わか子ちゃんが奪ったらしい?端末のすぐ近くから会長の声が聞こえる


「もしもーし、わか子ちゃん?」

「今どこにいるの?」


面白そうだから、とりあえずどこにいるのか聞いてみよう(まともな返事は期待してないが)


「えっ???」

「おにーちゃん!?」


素敵な大音量でわか子ちゃんの声が響いた。こりゃ、画面に相当近いな。


「うんうん、おにいちゃんだよ」

「それでね・・」


用件を伝えかけたが


「ブツッ!!」

「ツーッ・・ツーッ・・」


会話の最中に通信が途切れてしまった。変なところでも押したんだろう、多分。


「ぷっ・・!」


思わず噴き出してしまった。まったく、会長もお人よしなんだから・・・


「あれ?宮岸(みやぎし)さん達は?」


犬馬の家の家政婦2人は、わか子ちゃんのベビーシッターも兼ねている。ベビーというか、もうそんな年齢でもないが


「ええ、ちょっと視察のほうにいってまして・・」


靴を履き替えながら黒服が答える。つか、生徒用の昇降口から来たのかよ


「ふーん・・視察ねぇ・・」


なんでも、東京の南のほうの島をひとつ買い取って「プロアプリ坊主合宿用」の本拠地にする計画らしい。前にそんな話してた、うん。




「さあ、好きな席へどうぞ」


駐車場に着くと、黒服がワゴン車の前でそう言い出した。


「あれ?いつものうさんくさい車は?」


大体いつも、リムジン?っていうの?あの黒くて長いやつに乗っかってくるけど・・


「あれ、実は運転が大変なんですよ・・」

「まだちょっと慣れてなくて・・」


黒服は、照れ笑いのようなしぐさになった。多分。サングラスしててわからんけどね


「慣れてないってことは・・」

「専属ドライバーで(専門として)入った訳じゃないんだ?」


シートベルトのネジレをひっくり返して直しながら助手席で尋ねた。


「ええ、はい、私・・実は」

「・・・」


黒服がキーを回し、エンジンをかける


「去年まで「千葉モッチ マリアンヌ」に在籍してたんです」

「引退前に、会長から声がかかって、それで・・」


黒服がしみじみと話す。顔をちらっと見たけどサングラスしてるし、(プロアプリ坊主として)見たことある選手なのかようわからん


「う~ん・・」


なんと声を掛けた物か・・僕が迷っていると、


「あっ、いえ、いいんです・・」

「気を使わせてしまって、ごめんなさい・・」


黒服が、逆に気を使ってくれている・・。どうやら、目だった活躍のなかった選手らしい。






< プロアプリ坊主球団一覧表 >


「ガスバクザスハツ群馬」 イメージキャラ アフロ

「横浜ナベノ フターズ」 イメージキャラ ナベのフタ

「川崎ヤキニクノ ターレー」イメージキャラ 焼肉のたれの瓶

「長崎ファーレン・ソーラン」イメージキャラ ニシン(魚)

「モンモンモティティオ山形」イメージキャラ 猿

「千葉モッチ マリアンヌ」 イメージキャラ ハート+手

「福岡タイテー ポークス」 イメージキャラ 豚

「東北バクテン ゴールデンボールズ」イメージキャラ 黄金の球体


































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る