第21話御津飼 政一の回想1

あれは半年前の事だった。つまり僕や、チンカイや、「のり子さん」がまだ高校2年の時の事だ。



万南無高校(まんなむこうこう)で毎年10月に行なわれる文化祭は、夕方から夜に掛けて開催されるという変則的な行事ということもあるのだろうが、

金色にライトアップされた空間と、夜空に吸い込まれるようにして消えていく雑音と、浴衣姿で行き来する生徒達が重なって、どこか現実離れしてい

る「独特の世界」だった。校門から校舎までの道にはずらっと出店が並ぶが、この肌寒い時期に開催するということもあって、イメージ的には文化祭とい

うよりは正月の初詣に体感は近いのかもしれない。

期間中、校内は一般開放されているものの、大量の私服警察を動員している告知がところどころに見られるせいもあってか、ほとんどこれといった

トラブルなどもおきなかった。

生徒達の出し物は「クラスの出展、部活動の出展」大きく分けて2つあるのだが、(・・・勿論、何もしない人や、運営の人たちの仕事もあるが)

僕はと言えば所属しているアプリ坊主部の「アプリ坊主絵巻」という時代劇?のような物をやる事になっていた。今丁度、リハーサルが終わったところだ。


「うぃーっす、おつかれさん、じゃあ本番まで待機ね~!」

「みんな、台本をおさらいしておいて」

「あっ、先輩方は座ってて!」

「今、お茶出しますんで・・」


チンカイがてきぱきと指示を飛ばしている。


「手の空いてる一年(下級生)はポットに水補充しておいて~」

「具合悪いやつは休んでていいからね~!」

「おっ・・犬馬、どうした?」


絶賛しきり中のチンカイにのり子さんが詰め寄っている。頭から青い毛布でくるまって自身の体を包み込み、ちょこんとだした右手で毛布が

はだけないように押さえている。本当に可愛らしい・・・。


「よっこいせ・・・っと」


僕は部室の端っこの木の壁にもたれかかるように引きずりながら腰をおろすと、


「ぷぁっ!!」

「ふぃ~・・」


着ぐるみの頭の部分を「スポッ」と取り外し、右の畳の上にそっと置いた。通気孔が小さい為か少し息苦しかったが大分楽になった。

メガネを外し、左手の親指、中指の第一関節で目元を軽く押す。


「・・・」


ぼやけた視界で部室を見渡すとあちこちに緑やら黄色やらの毛布に部員達が包まっていた


「・・・・・」


まるで小鳥の夫婦のように寄り添い、一枚の毛布でお互いを暖めている


「・・・うらやましいことで・・」


思わず恨み節の様に口が滑ってしまった。幸いな事に誰にも聞かれてはいないようだ。


「・・・・!?」


その瞬間、なにか得体の知れない強烈な違和感を感じて呼吸が止まりそうになった。


「・・・・・」


解らない。


「・・・・・」


さっぱり解らないが、例えるなら・・・例えるならなんといったらいいのだろうこれは。


「・・・そう、」


そう、昔話などでよくあるアレだ。村の中で孤立していた寂しい独り身の男性が、美しい女性と出会って楽しくデートしてたはずなのに、

気がついたら墓地で独りで寝てた、みたいなそんな感じだ・・・・多分。・・・・多分。


「美しい女性・・・・」

「美しい・・」





・・・・僕にはとうとうパートナーの「女性アプリ坊主」は現れなかった。

いや、厳密には居るには居たが、相性が合わないだとかなんとかで2ヶ月やそこらでとっとと部を辞めて出て行ってしまった。

たくさんの楽しい思い出を作るつもりだった。オーラの波長を合わせる練習も毎日の修行もすべてが無駄となってしまった。


「どうして僕が・・」


どうして僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ・・。

そもそも、のり子さんがこの部活にするって言っていたから僕もここにしたのに・・・。どうして・・・どうして・・・。




「おい、御津飼(みつかい)!!」


ふと、気づくと珍海(めずらみ)・・・・・チンカイに呼ばれていた。


「大丈夫かお前、顔まっ青だぞ・・」


どうやら気を使ってくれているらしい。


「ああ、ごめん・・」

「まだ、(開演まで)時間あるよな?」

「少し休むわ・・」


僕はそう言うと、先ほど畳の上に置いた「着ぐるみ」の頭を再びスポッと被った。


「・・・それ、」

「息苦しくないか?」


チンカイが心配そうに声をかけてくる。


「これあれだわ・・」

「取っても・・・」


取っても取らなくても、どちらにせよ(余計な物が見えたりして)息苦しいわ。って言いかけてやめた。空気悪くなるだけだしね。


「とっても落ち着くわ」


言い換えた。


「そっか。」


チンカイはあっさり返事をすると、後ろに寄り添っていたのり子さんとどこかへ行ってしまった。






僕の配役は「お金を食べる妖怪」だった。毎日、村人の稼いだお金の中からちょっぴりだけ盗んで食べる。そのかわり村の繁栄が約束され、

山賊などから村人を守ってくれる、良いやつなんだか悪いやつなんだか解らない設定だ。でも、次第にだんだん食べる金額が多くなったり、

妖怪の個体数が増えすぎたせいで妖怪同士で縄張りを争ったりで、最終的には村人が困ってしまうんだけどね・・・ってやっぱり悪い妖怪だな。


妖怪っていうくらいだから「見た目だけでもそれっぽく」ということで、外装には発光する眼球やら部分的にぴくぴく動く筋肉モドキ

やらが装着されていて、うっかり横になるわけにもいかなかった。親父が政治屋なんてものをやってるから、ツテを期待してダメもとで頼ん

でみたけど、正直「いや・・こんなに本格的じゃなくて良かったんだけど・・」っていうくらい、作りこんでくれちゃって・・・まぁ・・。
































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