第20話クラスメイト

万南無高校(まんなむこうこう)。今からおよそ20年ほど前に建てられた比較的新しい高校で、アプリ坊主の人材育成に最も熱心な高校だ。

雨風の影響を受けにくい中庭には白砂が撒かれ、植えられた竹と鹿威しが一風変わった和の雰囲気を出している。入学したての頃、授業中に

無駄に鳴り響く「カコーン」という音に悩まされる新入生も多いが、どうやらそのうち慣れていくものらしい。

校舎は基本的にコンクリート作りなのだが、その上から板やら土壁やらを切ったり貼ったりしていて内装しており、教室ですら畳に障子という

徹底ぶりだった。解りやすく例えると「純和風の料亭を廊下であちこち繋げて大規模にした感じ」といったところか。あまり高校には見えない。


「ふぁ~~・・」

「眠ぃ・・」


その畳作りの教室の一角に珍海が眠そうに授業を受けている。思わずあくびが出たようだ


「あー、珍海(めずらみ)君、キミもう、・・・」

「単位とか大丈夫だから休んでていいぞ」


社会科学の先生が黒板の手を止めて珍海に声をかけた


「いえ、大丈夫です・・」

「すみません、・・つい・・」


珍海と犬馬が海岸で2回戦に勝利してから2日後、特に3回戦の通知が来ないので授業に出ている感じだったが、本来なら選手は自由行動でも

問題は無かった


「じゃ、じゃあ、トイレに行ってきます・・」

「失礼、、失礼、、」


両隣に座っている男子に右手を拝む体勢にして次々と断りを入れると珍海は畳の教室を後にした。木貼りの床に「パタパタ」とスリッパの音が

響く。


「おー、チンカイ!!」


トイレの前でメガネ姿の男子生徒が珍海(めずらみ)に声をかけた


「ああ、御津飼(みつかい)か・・」

「おまえ、そのアダ名いいかげんやめろよ・・」


珍海(めずらみ)あつし は、ふっと笑うとそのままトイレの入り口にある厚底サンダルを履き、「カランカラン」と音を立てながら用を足しに行く


「ちょっ・・おまえ、スルーするなよ!」


御津飼(みつかい)と呼ばれていた男子生徒が慌てて後を追う



御津飼 政一(みつかい せいいち)


見たとおりクラスメイトのメガネ君なのだが、なぜだか半年ほど前から急に俺と犬馬になにかと絡むようになってきた。いや絡むといっても

別に「ケンカ売って来る」とか「いちゃもんつけて来る」とか、そういったのじゃない、う~ん、・・・ああ、そうだ・・「知り合い以上、友達未満?」

・・なんかうまく言い表せないけど、そんな感じなんだよね・・



「おい、何ぶつぶつ言ってんだ・・?」

「なんか変な電波でも受信してんのか?」


御津飼が笑いながら問いかける


「ああ、いや、ちょっとな・・」


隣で用を足していた珍海がさらっと答えるが、


「あー、やっぱりな」

「電波君だよなー、お前」


御津飼に誤解されてしまったらしい


「いや、そうじゃなくて・・」


先に用を終えた珍海はツッコミを入れつつ手をばしゃばしゃと洗うと


「それじゃ俺、社会(授業の科目)に戻っから」

「お前も早く戻れよ」


一足先に元居た学科のクラスに戻っていった。クラスは同じだが今現在受けている授業科目は別であった


「おう・・」

「・・・・・・」


御津飼は手を洗い終えると、先ほどまでとは違う「真剣な目つき」のままハンカチで拭った。鏡に向かうその視線の先には、半年前のある出来事が映っていた。































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