第16話珍海の作戦と二時之次
「私の能力は、犬を散歩させる事です!!」
犬馬が宣言し、審判にマイクを手渡すと流れのままに
「私の能力は、海賊王になれる能力です!!」
対戦相手の流布もマイクで宣言する
再戦の流れになってから数十秒後。それぞれの能力を宣言した犬馬と流布であったが、特に睨み合いをするでもなく、自軍のコーナーに戻ると
いそいそと身支度を始めた。
「やはりな」
珍海はリングを降りながら、犬馬につぶやいた
「やっぱりってどういう事?」
従者から「まゆげ」を譲り受けながら疑問を返す犬馬
「・・・」
「あっちに付いて行くぞ」
下に降りた珍海は2人分の荷物を担ぐと、相手側の方へと犬馬を誘導した
「あっ・・」
「ちょっとちょっと・・!」
まゆげがあらぬ方向へと行ってしまい、半分引きずられる犬馬。まゆげの爪が競技場のアスファルトに「ザッザッ!」と音を立てて食い込む
「まゆげ、ほらっ!」
「めっ!!」
「こっちっ!」
飼い主のリードにより、まゆげが半円を描いて方向転換する
「あっちって、対戦相手のほう?」
少し歩幅を合わせた犬馬が珍海に追いついた
「うん」
「うちに考えがある」
「実は・・」
アプリ坊主用の端末でポイントを確認しながら闘志を燃やす珍海。戦いはもう始まっているのだ。
―2分後
「あの、ちょっと、」
「なんかついてきてるんだけど」
国際競技場を出て、朝方準備した海岸に向かう流布と二時之次だったが、背後から対戦相手が犬を連れてついてきている事に
流布が気づいた。
「しらねぇよ・・・」
「早くしないとポイント減る一方だぞ・・・」
端末でポイントを確認しつつ歩いていた二時之次は冷静に答えたが、内心あせっていた
(犬を散歩させる能力か・・・確かに強烈な能力だな・・。今もやつらはポイントが入り続けている・・)
代表とはいえ、流布は能力に目覚めてからまだ日が浅い。「海賊王になれる能力」も、完全に使いこなせているとは到底言えない。
跳流田高校は部員が少ないが為に、流布を代表にせざるを得なかったのだ。
その代わりに、流布とコンビを組む二時之次は、「冷静で超強力なパートナー」として各方面からの評価が非常に高い。
高校生アプリ坊主は基本的に一度コンビを組むと、パートナー変更は出来ない。なぜかというと、能力者の能力に波長を合わせた
オーラを放出できるようになるまでに、「調整期間」である「修行」が必要なので、時間が足りないのだ。
中には例外もいるが、二時之次はこの「調整期間」が長いほうの部類に入ってしまうので替えが効かなかった。
「こっちだ・・」
「少し急ぐぞ・・・」
端末に地図を展開させて、海岸へと誘導する二時之次。地元では無いので土地勘は無いのだが、冷静に流布を導く。
「バスに乗ったほうが早くないか??」
流布が疑問を投げかける
「いや・・・海岸方面のバスはあまり出ていない・・・」
「それに・・」
二時之次は話の途中で、後を尾行して来ている2人と1匹をちらりと見て
「いざとなれば、うちが直接、珍海(めずらみ)を叩く・・」
最後のほうは自分に言い聞かせるようにつぶやいた
二時之次の言う「直接叩く」とは、男性アプリ坊主同士の「一騎打ち」の事を指す。
アプリ坊主の試合は基本的に直接攻撃は禁止されているのだが例外がいくつかあって、そのうちの一つが「TENGO同士で決着をつける」という物で、
その場合は不問となる。そればかりか、ちゃんと「一騎打ち」用のルールも存在する
まずは「つば競り合い」
これは、自分と対戦者のTENGO同士を交差させてお互いの隙を伺う行動だ。相手の体制を崩したりするのに用いる。ここから次の行動に派生する
「誇TEN(こて)」
相手のTENGOを自分のTENGOで上から下に向けて激しく叩く。端末にポイントが入るのは勿論の事なのだが、相手のTENGOをうまく体からはずす事ができれば
その時点で有無を言わさず、一気に「勝利」となる。
又、はずす事ができなくても、相手のオーラを無理やり放出させてしまうこともあり、体力を削る目的で行なう事も有効だ。
「MEN(めん)」
相手のTENGOを自分のTENGOで上から下に向けて激しく叩く。誇TEN(こて)と同じように見えるが、叩く部分が違う。こちらはTENGOの先端部分。
すなわち、球体のほうを叩く。
尚、それぞれの部位を叩くときには声に出して宣言しなければならない。「剣道」のようなものだと思ってもらえると解りやすい。
付け加えておくと、当然の事ながらこればかりは両陣営の男性アプリ坊主が「変身している状態」でないと成り立たないが。
つまりアプリ坊主戦は男女混合の「ペア戦」でありながらも、男性アプリ坊主同士の「一騎打ち」の要素も含まれている事になる
二時之次はこの「一騎打ち」が得意で、他校との個人戦では上級生相手にも無敗を誇っていた。顧問の先生は流布を気遣い黙っていたが、代表に選ばれた
のは実は二時之次のほうであり、流布が完全にオマケであることは部員達の誰もが解っていることであった。
「・・・・」
「まだか・・・」
海岸までの道中、対戦相手(珍海)が変身しよう物ならこちらも呼応して変身し、得意の個人戦で一気に試合を決めてしまおうかと思っていた二時之次だった
が、そううまくはいかなかった。
犬馬と珍海は、まゆげを散歩させながらのらりくらりと後をついてきている。流布&二時之次ペアのポイントは減るばかりだった。
やがて辺りに潮の香りが漂い出し、両高校の4人と柴犬1匹は海岸へと到着した。
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