第15話2回戦とマイクパフォーマンス

国際競技場。21世紀始めごろに珠須 雪次郎が買取り、改築、増築を施したものである。今は「春の高校選抜アプリ坊主県大会」中なので

高校生達に開放されている状態だが、普段は「プロアプリ坊主」達のチーム対抗戦が行なわれている場でもある。


青い空席のイスが目立つ。平日とあって、試合開始直前の状態でも観客はそれほど多くは無かった。



「まもなく・・アプリ坊主千葉県大会の二回戦、万南無高校(まんなむこうこう) 対 跳流田高校(はねるだこうこう)の試合が始まります」


二回戦開始を告げる放送が、


「参加者の方は所定の場所にお集まりください」


会場内に響き渡る



珍海はすでにリング上に登っていた。青コーナーである


「たぶん、またすぐに降りると思うんで・・」


犬馬は愛犬の「まゆげ」を従者に預けると、ロープ最下段から腹ばいになるようにリングに登った。




「む?」

「あっちのほうが黒服多くないか?」


黒服とは従者の見た目の事である。赤コーナーから様子を伺っていた流布が、二時之次に向かってつぶやく


「しらねぇよ・・」

「犬抑えてんだろ・・多分・・」


車酔いを引きずったままの二時之次がコーナーポストにめり込みながら投げやり気味に返答する。




「青コーナー。万南無高校(まんなむこうこう)代表、珍海&犬馬~~~!」


審判が興奮気味にアナウンスする。観客席からはパチパチという拍手やら声援やらが飛び交う。


「続きまして・・・」

「赤コーナー。跳流田高校(はねるだこうこう)代表、流布&二時之次~~!」


審判のアナウンスが会場に響く。すかさず犬馬が審判のマイクをひったくる


「あの・・」

「二時之次さん、具合悪そうですけど・・」

「大丈夫ですかぁー?」

「元気ですかぁーーー!?」


犬馬は元気よくマイクに向かって叫ぶと、そのまま二時之次にマイクを向けて、インタビューする様な体勢になった。


「・・・・」

「正直、しんどいです・・」


二時之次は正直に答えたが、これではマイクパフォーマンスとして成り立たない。観客も興醒めだ。スタンドが一気に静まり返る


「・・・・」

「しゃぁぁぁっ!!」


犬馬はかけ声と供に勢いよく二時之次の頬を平手打ちした。そして


「対戦相手の貴様がそんなんでどうする!!」

「かかってこいコノヤロー!!」


勢いよく叫ぶと、審判にマイクを戻した。


「いいぞー!犬馬ーーー!!」

「ワァァァァァァ!!!」

「ドゴゴゴゴゴ!!!」



静まり返っていた会場は、割れんばかりの地響きのような声援に包まれた。



犬馬の行動はもちろん、ルールに接触して反則ポイントが入る。それは、「アプリ坊主同士は直接殴りあったりするのは禁止」

というものだ。だがそれは、VIPルームで観戦していた会長から見れば「試合を盛り上げる為の演出」であり、犬馬が本気で殴って

いる様には到底見えなかった。観客席で応援している人達も、リング上や、周囲に居る審判も、皆同じ想いであった。


「ストップ!!」


審判がすかさず、両手を頭の上で×印に交差させ試合を中断させる。そしてリング外に配置された審判をかき集め、審議を始めた。

プロアプリ坊主の試合ならばリング外にずらっと座布団が配置され、審判が大勢座っているのだが、高校生大会ということもあり、

配置されていた数は少人数だった。


「今のはどうだ・・?」

「演出だろ・・・?」

「しかし、高校生大会で演出というのも・・」

「試合を想う気持ちに年齢は関係ない!」

「とは言ってもな・・」

「観客席の反応を見れば一目瞭然!」


審判達の間で激論が繰り広げられる


「ピッピッ!!」

「ピッピッ!!」


審判達の専用端末にメールで緊急通信が入る。会長からだ。その内容は


「私が直々に向かうので裁定を下さないように。」


というものだった。ただし、


「私が行くまでの間、無駄話などをして時間をつぶしておくように」


という、よくわからない一文も添えてあった。審判達は顔を見合わせると一時停止し、またすぐに一斉に無駄話を始めた。


「うちがやっているネトゲーでさぁ・・」

「最近、肩が凝ってきて・・」

「コントローラー買い替えないと・・」

「パンツ食い込んでる!ひぎぃぃいぃ!!」

「最近すっぱいものが恋しくて・・」

「ぱおーん!!」


しばらくどうでもいい話をしていると背後から


「待たせたね。」

「マイクを。」


会長が颯爽と現れた。


「はっ!こちらに!!」


審判はマイクを渡すと、深く頭を下げた。

他の審判たちも深々と頭を下げて、リングに上がる会長を見守った。


「ピフィー・・・!!ボッボッ!!」


リングに上がった会長は、マイクのスイッチを入れ、襟元を正すと、


「ただいまの行為について説明します」


会場全体に行き渡るように、説明を始めた。会場が静まる。


「・・・・(今だ!!)」


会長はすかさず、自分のポッケに忍ばせてある照明ボタンを押して「自分にスポットライトが当たるように」照明を付けたが、

昼間という事もあり、ほとんど照明効果は得られなかった。めげない会長が説明を始める。


「ただいまの、犬馬選手の張り手ですが」

「本来、高校アプリ坊主においては」

「行き過ぎた行為ではございますが」


慎重に言葉を選ぶ会長


「マイクパフォーマンスの一環として」

「また二時之次選手を励ます行為も含まれている物とし、」

「会場を盛り上げる為に必要なものと判断します」


会長が続ける


「よって、ただいまの行為は「犬馬選手の有効ポイント」とさせて頂きます」


そう宣言すると、方向を変えながら2度3度と、観客席にお辞儀をした。そして


「試合続行だ」

「頼むぞ」


審判にマイクを手渡すと、沸きあがる会場を背に、VIPルームへと帰っていった。


「あぶなー・・」

「ダメだったんだ、アレ」


成り行きのまま見守っていた犬馬が、引きつったような笑顔を珍海に向ける


「お、意外とポイント入ってる」


手元の端末を操作していた珍海が


「プロなら全然問題ないんだけどね・・・」


すかさずフォローを入れる。苦笑いをしていたが少し残念そうだった




「カーン!!」


しばらくして、再戦のゴングが会場に響き渡った

































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