第11話流布良子の事前準備
犬馬&珍海ペア VS 空&心技ペア の試合があった翌日、流布良子(るふりょうこ)は国際競技場に来ていた。
2日目の、しかも試合前ということで人影はほとんど無かった。
「あ~、昨日、終わったんだぁ~」
なんだか昨日の試合は激戦だったらしく延長戦にもつれ込み、見ている観客も審判も途中で帰ってしまった。
試合の経過を伝えるスコアボードには、「場外戦」の文字がずらっと並び、最後に、「犬馬&珍海ペア勝利」とだけ書かれていた。
他の試合は、どうやら場所を移して行なわれていた模様である
「うんと・・どこだろう・・?」
流布は、自分の試合が今日執り行われるので、予定表を探していた
「あったあった」
「え~なになに・・?」
アプリ坊主の試合は2~3日かかってしまうことも珍しくなく、場合によっては自分の試合が1週間後になってしまうこともあった。
その為、選手達はスケジュールの管理が難しいのだ。
大会初日と違い、2日目以降はどの高校も通常の授業体勢に戻るので、「授業中に呼び出されてそのまま試合」になってしまうのが現状である。
ただし高校側もそれを分かっていて、大会開催中は、出場選手に自由行動を取らせている学校も多い。
「14:00か~」
「また随分中途半端な・・」
予定表には昼過ぎに自分らの試合が行なわれる事が書いてあった。もちろん自分らの担任や学校にも通達されるが、流布は「試合場の空気を感じておきたい」
と、顧問の先生から連絡が入る前に国際競技場に足を伸ばしたのだ
「ピピピッピピピッ♪」
目覚ましのアラームのような、そっけない着信音で、流布の携帯電話が鳴る。画面には「部活の顧問」と書かれていた
「あー、知ってます、来ました」
「14:00ね、はいはい」
携帯の通話ボタンを押すと顧問の先生が「今日の試合な・・」と、言いかけたが、流布は一方的に会話をしてそのまま電話を切った。
「(それ)にしても・・」
「いきなり強いとこと当たっちゃったな~・・」
大会側が設置してある予定表を見て、流布がつぶやく。しかも、なぜか大した実績もなく強豪でもない自分達の高校が、シード扱いになり、一回戦をやらせて貰って
無いのだ。流布が言っている「いきなり」とは、この事である
「しょうがないやこりゃ」
「準備でもしよっか・・」
流布はそう言うと、会場を後にした
流布(るふ)良子(りょうこ) 跳流田高校(はねるだこうこう) 2年。彼女の能力は「海賊王になれる能力」であった。
クラスメートからは「ルフィー」の愛称で親しまれる
「あったあった」
先ほどの携帯とは別の、アプリ坊主専用端末を覗き込みながら歩いていた流布は、目的地が見つかると短パンのポッケにそれをしまい、ホームセンターに入っていった。
彼女は、ホームセンターの敷地内の、屋外木材売り場で歩みを止め、ひとつひとつ木材をチェックして回った。
「海賊王になれる能力」ということは、最低でも自分の船は必要なはずである。そして、それを海に浮かべなくては何も始まらない。
彼女は試合前に事前に木材を用意して置くことで「船を作る作業を短縮化する」事を考え、ここに来たのだ。
「これと、これと」
「あと、これをください」
流布はホームセンターの店員に、てきぱきと自分の欲しい材料を伝えた。
「少々お待ちください」
店員はポケットから取り出したメモ帳に、流布に言われた木材の種類を書き留めると、一旦店の中に入っていき、レジまで運搬する為に必要な応援を呼んで戻ってきた。
「あ、ちょっと別のものをみてきます」
船を作るのには、木材だけでは足りない。最低でも、のこぎりや電動ドリルなどがなければいけないはずである。あとは、ネジ型の釘や、穴あけなどにつかうノミなど
である。流布は店員に一言断りをいれてから、これらの物を散策して、どっさりとレジに運んだ。
「3万6千6百円になります」
全部の商品を、レジで打ち終えた店員は値段を告げた。
「さ、さんまんんん~~~!?」
値段を聴かされた流布は驚きの声をあげた。とても払える金額ではなかったのだ。
「ちょっとちょっと・・」
「待ってください・・」
店員に断りをいれると、流布はポケットから携帯電話を取り出し、さきほど着信のあった顧問に連絡をとった
「ちょっと先生ー」
「お金全然足りないんですけどー」
不満たらたらに流布が吐き捨てる
「え?あれ?」
「・・・あ」
船を作る「材料費」として、自分で見積もって流布に現金を渡していた先生だったが、なにか心当たりがあるようだ
「おまえあれだろ?」
「工具とか持ってないの?」
顧問の先生が電話越しに流布に質問する
「持ってるわけないじゃんー」
すぐさま流布が返答する
「違う違う、家とか!」
「家とかに無いの?」
先生はどうやら、「木材の材料費」しか見積もっていなかったらしい
「ナイヨー」
「全然なーーい」
もしかしたら家に帰って探せばあるのかも知れないが、いちいち戻って探すのもめんどくさいと思い、流布は適当に答えた
「あとあれだ、輸送料とか考えてなかった」
「・・・ごめん」
「今から(そっちへ)行くからちょっと待ってて」
アプリ坊主顧問の先生は、自分の非を認めた
「すいません・・」
「今きますんで・・」
流布は、ホームセンターの店員に謝ると、店の屋外に設置されていたベンチに腰をおろした
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