第7話犬馬ずっと気絶

再び話は「珍海&犬馬」の行動へと戻る。珍海は犬馬のふとももの間に自分のTENGOを滑り込ませ、しごきつつオーラを溜めていった。

だが、その途中、急に意識が遠のいてしまう。珍海は夢とも現実ともつかない世界で、奇妙な光景を目にした。だが、疑問に思う暇

も無く再び珍海は現実へと引き戻されようとしていた。



―― 「珍海くん!珍海くん!!」


遠くで、誰かが自分を呼んでいる。


そう思った瞬間、夢のなかから現実へと引き戻された。


見ると、犬馬の太ももや腹のあたりに緑色のオーラを大量にぶちまけていた。犬馬はまだ気絶したままであった。


これも、あまり強い色ではない


そして、自分を現実に引き戻したのは、先ほどハッスルして木に登っていった宮崎法如であった


「もう~珍海くんたら!」

「遠くで見ていたら、急に気絶しちゃうんだもん」


なぜか「オネエ」口調の宮崎が続ける


「心配しちゃったんだからねッ!」


珍海はさきほどとは別の意識の飛び方になりそうだったが、気を取り直し


「・・いや、無理にキャラ立てなくていいから」


と、告げ、右手で、しっ!しっ!と宮崎を追っ払うそぶりを見せた


彼は少し、寂しそうな顔をして、犬馬達から5メートルほど距離をおいて、体育座りをしてしょぼくれた。まゆげもすぐ隣に座り、

まるで慰めているようだった


「・・・それにしても」


一体、今の映像はなんだったのか。


疑問には思ったが、今は試合の最中。


「(学校に)帰ったら先生にでも聞いてみよう・・」


そうつぶやいて、手元の端末で、試合の状況を調べた。画面には「劣勢」と表示されていた。


気絶しながら、犬を散歩させていた犬馬だが、相手はどうやらそれを上回っているらしい。


「どうにかせねばな・・」


珍海が考えていると、遠くのほうから「ぎゃあぎゃあ」「カァカァ」と、カラスの大群がやってきた


「お~~い!!ここじゃあ~~!」


近くに座っていた宮崎が立ち上がり、空中ではばたいているカラス達にに向けて大きく手を振った。

カラス達は宮崎に気づくと、町並みを背景にゆっくりと旋回し、こちらのほうに下降してきた。


カラスには、ブランコのようなものが紐でくくりつけられており、どうやら宮崎はそれに乗って帰宅するつもりらしい


「おいおい、おじいちゃん」

「まさか、それに乗って帰るっていうんじゃないだろうな?」


珍海は、「まぁ、そうするつもりだろうけど・・」と思いながらも、なんか社交辞令的に聞かねばいけないような気がしてきて

しぶしぶと尋ねた


「言わずもがな」


宮崎は、待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべて答えた。


「わしゃぁ~、副業でな」

「このカラス達と供に、宅急便のサービスをしておるんじゃよ」


カラスとブランコを結ぶロープを丁寧に一本一本手と目で確認しながら、宮崎は続けた。


「なに、大自然とツーカーなワシなら容易いことじゃて」


そう言うと宮崎はポケットから名刺を取り出し、珍海に差し出した


「うわぁ・・」

「じじぃ、コレ、名刺容れごと洗濯機にかけたろう」


名刺はかろうじて原型を留めていたがボロボロになって2枚重なってくっついていて、

「クーロ(空路)宅急便」と書かれたその表側には、黄色と黒主体の、ロゴマークがプリントされていた。


「代表取締役・・・」

「宮崎☆法如・・」


珍海はつぶやくようにして名刺を読み上げると、法衣のポケットにそのまま突っ込んだ


「では、そういう事での」

「犬馬殿にもよろしくな」


かたわらに汁まみれで倒れている犬馬のほうを、ちらりと見ながら宮崎はブランコのロープを右手で掴み、木の板に腰を降ろした


「ハイヨー!!」


ロープをびしっと揺らすと、


「ギャア、ギャア!」

「カァー!カァー!」


空中でホバーリングしていたカラス達が羽ばたきを強め、ゆっくりと宮崎の体は空中にあがっていった


帰宅する宮崎を見守っていた珍海だったが、途中である異変が起きていることに気が付いた。それは、


「あれ・・?方向が・・」


というものだった。


今、カラス達が向かっている方角は海のほうで、宮崎のアジトが海の上にあるはずもない。

そう思い、今度は少し下の、ブランコにつかまっている宮崎を見ると、案の定、怒り心頭でカラス達にアレコレ指示を出していた。


「これ!!お前達!!」

「そっちじゃないっつーに!!」

「どうしたというのだ!?まったく!!」


その状況を見て取った珍海は、まゆげの散歩がてら、宮崎の後を追い、救助しようと試みた


「と、その前に・・」


汁まみれで気絶している犬馬をベンチに運ぶと、珍海は自分の荷物の中から、衣服を取り出し、犬馬にそっとかけた。

そして、公園に来ていた子供達と遊んでいたまゆげを呼び寄せると、さきほどわたされた名刺をポケットから取り出し、

まゆげに嗅がせて、匂いを覚えさせた。


「まゆげ、アレ、解るか?」

「わんっ!」


珍海は遠くで遭難している宮崎を指差し、一緒に追う様にまゆげに助力を申し出、また、まゆげもそれを快諾したようだった


手元の端末で、向かっている方角を正確に割り出し、最短ルートで宮崎を追う。

途中でコンビニに立ち寄り、スポーツドリンクを飲んで喉の渇きを潤した。


一方、宮崎のほうはカラスの制御に苦しんでいた


「なぜじゃ、なぜなんじゃあ!」

「・・・はっ!!まさか・・・!?」


なにか思い当たる節があるようだ


「下克上?」


そう言い、ちらっと上のカラス達をみたが、特にこれといったリアクションは無かった。どうやら、違うらしい。


「あれか?エサか?」

「エサが不満なのか?」


これも違うようだ。


そうこうしてうちに、宮崎を乗せたカラス達は、海に到達した。


「なにを!!」

「なにをしよる!!」


カラス達は、次第に高度を落とし、海面すれすれを飛び出し、宮崎を海の中へとひきずっていった


「がぼがぼがぼ!!」

「ごぼがぼっ!!!」


しばらくひきずられていた宮崎だったが、ロープを離すか、登るかすればこの状況を改善できることに気づき、よろよろと

ロープを登りだした。


「ごぼごぼっ!」

「げぇぇぇ~~!」


肺に入ってしまった海水を涙目になりながら吐き出す


そして、カラス達に肉薄すると、鼻水と海水とゲロでずぶぬれの顔でいきさつを問い詰めた。


「おまえこの大自然コノヤロウ」

「むしるぞ!、カラスが!!」


カラスは目の前に宮崎が来たことで、焦り、連続にくちばしで宮崎の目をえぐろうとした


「ふっ!!!」


しかし、宮崎は「巷に溢れている三流CGムービーのような残像付きのゆっくりの動き」でそれをかわすと、一羽を捕

まえ、改めて問いただした。


「こたびの謀反は誰の仕業ぞ」


捕まったカラスは、じたばたもがいていたが、そこに他のカラス達が一斉に救援に入った


「ガァーーー!」

「ギャーース!!!」

「パオーーン!!」


再びCGムービーのような動きでそれをかわそうとする宮崎だったが、カラス達の一匹のくちばしが宮崎の股間のTENGOを

捕らえた。

宮崎が残像付きの動きでかわしていたのに対し、カラスもまた、残像付きのゆっくりした動きで股間を突き、対抗したのである。


「ごっ・・・・!!」

「ほふっ・・・」


宮崎は白目をむき、股間を抑えながら、口から泡を出し、水中へと転落する。


「ガァー!ガァー!」

「ギャァ!ギャァァァス!」


カラス達は宮崎が水中へ文字通り突き落とされたのを確認すると、止めを刺すべく、空中から水中へとダイヴする


「ドボーン!」

「ダボーン!」


だが宮崎は落ちながら自らのTENGOを擦っていた。それはもう、激しく擦っていた。


「がぼごぼぼっ!!」

「ずぼぶりぼががっ!!!(ジブリ坊ー主!!!)」


水中に落ちた宮崎からまばゆい光が発せられる。宮崎が自家発電によって、オーラを放出したのだ


「ガッ・・!!」

「ガボアッ!!?」


宮崎を追撃すべく、水中に突入したカラス達だったが、オーラを放出されてしまい、不利だと感じ、再び海面へと脱出する。


「ゲーッ!!」

「ゴボッ!ゴボッ!」

「うぇっ・・・!」


「ゲーッ!!」


海面へと姿を現した宮崎は、肺に入ってしまった海水と飲んでしまった海水を、喉の奥に指をつっこんで放出した。これ以上は

お互い消耗戦になってしまい、多大な犠牲を出してしまうことを悟ったカラス達は、どこかに飛び去っていってしまった。




東京湾に到着した珍海とまゆげだったが、かなり沖合のほうで遭難しているらしく、宮崎の姿は見えなかった。


「くーん・・」


不安そうに珍海を見つめるまゆげ


「大丈夫だ、まゆげ」


アプリ坊主は、厳しい修行の末、飛翔する術を体得できる場合がある。

珍海はその術を身に着けていたのだ。


「少し、じっとしててな。」


珍海は、先ほどコンビニで買っておいたペットボトルのジュースの中身をすべて捨てると、紐で結びつけ、まゆげのお腹あたりで浮き輪がわりに

なるように固定した。


「大した足しにならんかもしれんな・・」


次に、その場にあぐらをかき、目をつぶり瞑想しだした

そして、アプリ坊主のお経を唱えだす。



珍宝工 万宝工 毛万項万 穴荒開界 (ちんぽうこうまんぽうこうもうまんこうまんあなあれかいかい)


尿酸値 雲山地 若年壮年 是捨労流 (にょうさんちうんさんちじゃくねんそうねんこれすてろうる )


合力之 矢無宝 万無宝 天気予報   (ごうりきのやむぽうまむぽうてんきよほう)


拙者之 名前派 矢無宝 (せっしゃのなまえはやむぽう)


某之  名前派 万無宝 (それがしのなまえはまむぽう)


二人 合和世手 背供露素騨     (ふたりあわせてせくろすだ)


君人 僕人 出 背供露素騨 (きみとぼくとでせくろすだ)


大器名 穴空 小差名 穴間出 (おおきなあなからちいさなあなまで)


動加州 力打 亜振乃 猛出流     (うごかすちからだあぷりのもうでる)


※ 繰り返し



サビまで歌い終えると、股間のTENGOが激しく振動し、「ブーン!」という音と供に珍海の体が、地上70センチほど浮き出した


「おいで、まゆげ」


珍海はまゆげを抱きかかえると、沖合いへと飛翔した


「うぽっ・・・!」

「がはっ・・・!」


クロールで陸地を目指していた宮崎だったが、寄る年波には勝てず、そろそろ走馬灯が見え始めている頃であった。

だが、丁度そのとき、珍海がまゆげを連れて、遭難現場に到着した


「じいちゃん、つかまって・・!」


ペットボトルをくくりつけたまゆげを、海に着水させ、自身は空中を飛びながら、端末を操作し、陸地への最短距離を探した。


コンビニで買っておいたゴミ袋も浮き輪がわりにし、およそ40分後、2人と1匹は、最寄りの陸地へとたどり着くことができた

どうやら、そこまでは遠くに行っていなかったらしい


「ふぅ・・・珍海君には借りができてしまったな・・」


宮崎は珍海にお礼を述べると、何度もおじぎをして、帰っていった。


「おお!」


端末を覗き込んでいた珍海は、喜びの声をあげた。


人命救助が幸いしたのか、試合に勝利していたのだ。画面の隅に小さく、


「珍海君、おつかれさま by会長より」


と書かれていた。なんだか照れくさくなった珍海だったが


「あ・・・」


ふいに、置き去りにしていた犬馬の事を思い出し、とりあえず合流すべく珍海は公園へと向かった。

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