第5話犬馬の散歩術
「アプリ坊ーーー主!!!」
珍海(めずらみ)あつし がそう叫ぶと辺りは一面、光に包まれた。そして、法衣ケースから法衣を取り出すと
いそいそと着替え始めた
ショルダー(肩)ロース(背中)TENGO(股間)
各部のパーツを手動で取り付けていく。
着替えが終わったところで、右ストレート、左ストレートと拳を突き出して、最後にそれらしきポーズを取って仁王立ちする
彼の役割は、パートナーである 犬馬(けんま)のり子 の能力を増幅する事である
彼女の能力は 「犬を散歩させる事」である
犬馬の愛犬である「まゆげ」もはちきれんばかりに尻尾を振っている
対戦相手の能力者である、翼子とやらは、犬馬の術中に嵌り、不利を悟って後方に飛びのいた
追加攻撃するなら今がチャンスだ。
「アプリ坊主タイー!」
続いては対戦相手の変身だ。ユニフォームを脱ぎ、全裸になる心技(しんぎ)タイ
彼の能力も、パートナーである 空(そら)翼子(つばさこ)の能力を高める事ができる。
基本的に「男性アプリ坊主」の役割はそこにある
彼女の能力は 「ボールと友達になる事」である
まず、先手を取ったのは、珍海&犬馬ペアである。先に着替え始めたのが、功を奏した
「まゆげ、行くよ」
犬馬は、愛犬である「まゆげ」を大会関係者から譲り受けると早々とリングを降りた。これは予想出来た事である。
なぜならば、犬を散歩させる能力は狭いリングの上では十分に発揮されないからである。
試合に勝つには、「犬を散歩させる」ということを、全世界にしらしめねばならない。
そして、全世界にこちらの能力が勝っているということが認められれば、その気迫により対戦相手になんらかのダメージが入り決着を迎える
2人はリングの下に控えていた大会の関係者から、それぞれの荷物を引き取ると、出口へ向かった
「犬馬、コースは決まっているの?」
珍海が不安そうな顔で犬馬に問いかけた。
「うん・・近くに公園があったからそこに行こうと思って」
若さ溢れるまゆげに、半分引きずられるようにして犬馬は答えた
資材搬入用のコンクリートむき出しの通路を早足で歩いていくと、通行止めの柵の向こうに外の明かりが見えた
「アプリ坊主の試合です、ここを通らせてもらいます」
警備員にそう告げると犬馬はまゆげを柵のスキマに誘導して会場を出た
珍海&犬馬ペアは近くの公園に無事に到着した。中学校のグラウンド4つ分ほどある比較的大きな公園だ。
日曜ということもあって、親子連れや、ジョギングしている人などもいる。外人の姿もあった。
二人はとりあえず試合の優勢がどちらに傾いているのか把握するべく端末に目を通した
「うむぅ、意外と優劣はついてないな・・」
珍海が詳しく分析する
「そうだね、相手も善戦してるのかも」
犬馬もまゆげに引きずられながら端末を覗き込む
2人が端末を覗き込むようにして見ているので、自然と距離が近い。すかさず、珍海が犬馬の匂いを嗅いだ。
犬馬がその行為に気づいて、「ふふっ・・」と顔を赤らめる
犬を散歩させる能力、ということは「ここに来るまでの間」も、道中、犬を連れてきたのだから能力に入っているはずだ
そして、間違いなくこちらにもポイントは入っている。
しかし、試合の優劣に差がないということは、相手も善戦してるということなのだ
すなわち、相手もポイントが入り、相殺されてしまったということである
「まだ自分の出番ではなさそうだな・・」
珍海は匂いを嗅ぎながらそう言った。彼の役割は、「能力者の能力を高める」事であるが、一旦能力を高めてしまうと
しばらくの間、再度使用できなくなってしまうので、まだ温存したいという意思である
「うん・・でもどうしよう・・」
自分の能力が発揮できているのか不安になった犬馬は愛犬の、まゆげを見てつぶやいた
「いつもの犬馬らしくしていれば大丈夫だ・・!」
「なにも不安がることなんてないよ・・!」
珍海は、犬馬の背中とおしりの匂いを嗅ぎながら、すがすがしく言い放った
「うん・・そうだね・・ありがとう」
犬馬は目を閉じて、胸に手を当てて深呼吸すると、そう答えた
愛犬のまゆげも、そんな主人を気遣ってか、すり寄って尻尾を振っている
リラックスし終えた犬馬は、首輪と手綱を結ぶ金具を外して、犬をフリーの状態に持っていく。
次に、フリスビーをバッグの中から取り出し、空中に向けて、放り投げる
「わんっ!!」
すかさず、まゆげがキャッチし、珍海&犬馬ペアに高得点が入る
くわえたフリスビーを、まゆげが口にくわえたまま小走りになって持ってくる
犬馬はそのフリスビーを受け取り、まゆげの頭を撫でる。遠隔操作型の能力を活かした見事な連携。
まさに、怒涛の攻勢である
しかし、珍海はある異変を感じ取っていた
試合の趨勢が変わらないのである
手元の端末から現在の有利、不利などが確認できるのだが、相手にダメージが入った形跡は見られないのである
これは対戦相手の能力もうまく発現できているということを示す
「お・・お手だ・・お手をするんだ!」
あせった珍海は犬馬にお手の指示を出した。
「う、うん」
「まゆげ!お手!・・・・お手よ!」
犬馬はあせりの表情を浮かべてまゆげにお手を命令する
しかし、まゆげは、くぅ~ん・・と寂しげに鳴いたきり地面をみつめてしまった。
飼い主のあせりは、ペットに影響してしまったようだ。
そして、一旦動揺が広がると、流れは悪い方向へと波及してしまうもののようである。
「まゆげ!・・・お座り!!」
続けざまに命令する。しかし、動揺している「まゆげ」は微動だにしないで地面をみつめている。
それならば、と、今度は元々見ている地面を見るように指示してみようと犬馬は攻勢に出た
「まゆげ!・・地面をガン見!!」
そう命令したとたん、地面を見つめていたまゆげは激しく視界をあちこちに映し出し、急にキョロキョロしはじめる。
すかさず、犬馬が次の指示を飛ばす
「まゆげ!・・挙動不審!」
まゆげはそういわれるや否やお座りをして背筋を伸ばし、きりっとした表情で遠くを見つめた。ことごとくまゆげに
手玉に取られてしまい、どうみても噛み合っていない
両手をひざに当て、前かがみになってハァハァと呼吸を荒げる犬馬
「犬馬殿・・・」
心配そうに見つめる珍海。そして今まさに相手の攻撃により、犬馬にダメージがはいりつつあった
「・・・あああっ!」
顔を赤らめ、股間を押さえる犬馬。そして、そのままその場に座り込んでしまった
ダメージは深刻のようだ
「大丈夫か!?」
受けたダメージを確認すべく珍海が駆け寄る
「どこだ!?どこをどうやられたんだ!?」
「おにいさんに内緒で教えてみなさい!」
そして、至近距離まで近づいた珍海は、目をつぶって耐えている犬馬の、匂いを、くんかくんかと嗅いだ
「あっあっあっ・・・!!」
股間を押さえて苦悶の表情を浮かべていた犬馬であったが、ちらっとみると、珍海のTENGOが良い角度でそそりたっていた
苦しまぎれにそれに手を伸ばすと
「ドガッ!!」
思い切り強打した
「がっ・・・!ぐっ・・・!うわああああああ!!」
青いオーラを放ちながら悶絶する珍海
そしてその青いオーラは、犬馬に降り注がれ、吸収された。
すっく!とまるで何事も無かったかのように立ち上がる犬馬・・!
これこそがアプリ坊主の役割である、「一緒にいる人の能力を高める力」なのである
股間に付属しているTENGOと呼ばれているレバーを叩くことによって、アプリ坊主に様々な色のオーラが発生し
能力者は、それを吸収することによってさまざまな恩恵を受けることができるのだ
本来ならば、犬馬の「犬を散歩させる事」という能力がパワーアップするところなのだが
今回は犬馬が相当弱っていたため、パワーアップせずに回復にとどまったという事だ
また、珍海の放出したオーラの色にも問題があった
「白<青<緑<赤<紫<虹色」
この段階でレバーを叩いたものに与えられる恩恵が強くなっていくのだが今、出た色は「青」
すなわち、かなり弱い色だったということになる
ちなみに、黄色いオーラが出たときは病気なので、医者にみてもらう必要がある
又、一度オーラを放出してしまったアプリ坊主は、しばらくはモノの役にはたたないので
この場合は、切り札を手放してしまうという、ほとんど手詰まりという最悪の事態になってしまったのだ
ともあれ、窮地をとりあえずはしのいだのも事実である
ぐったりして虚空を見つめている珍海のすぐ足元に仁王立ちしていた犬馬が
「・・・大丈夫?」
心配そうに覗き込む
「ありがとうございます!」
朝露に濡れた草の上を転がっていた為か、犬馬のパンツは濡れていた
清々しい表情で空を見る珍海。芝生のあおい匂いに包まれながら彼はしばしの余韻に浸った
しばらくの間は股間のTENGOも機能しない
アプリ坊主は、オーラを放出するまでは「ようし、今日は3回くらいがんばっちゃうぞ~!」とか思っていたりするもの
なのだが、いざ1回終えてみると案外「今日はもういいか・・」と覚めてしまうものなのだ。
これは、若いアプリ坊主に顕著に見られる。熟年したアプリ坊主は己の気力をわきまえているのだ。
「――もしもしお嬢ちゃんたち?」
ふいに背後から声をかけられた。見るとメガネをかけた白髪の老人が後ろに立っていた。
「あなたは・・?」
犬馬は思わず尋ね返した
「ワシは・・・」
老人は空を見上げて続けた
「ワシは・・そうじゃの・・自然を愛する者とだけ言っておこうかの・・」
顔を見合わせて訝しがる犬馬と珍海。その気配を察知した老人は慌てて言い直す
「あー・・ワシはジブリ坊主だ!!」
「ジブリ坊主の宮崎だ!!!」
その瞬間、2人は驚きを隠せない様子であったが無理も無い。ジブリ坊主の総帥である宮崎法如(みやざき ほうにょ)がいきなり目の
前に現れたのだから。
― 太古の昔、天をつかさどる法師が居た。その法師は電離層までのすべての大気を支配し、把握する事によって戦争を有利に進める連携を
国と取り、帝や君主から寄付金を貰い人々の願いを具現化していった。彼は、自らの思考の電気信号を、大気中に拡散し、人々に影響を
与える事ができた。
天振る星の坊主(あまふるほしのぼうず)通称アプリ坊主である。
一方、地をつかさどる法師は、大地の恵みを重視し、「科学の発展はいずれ人類に破滅をもたらす」とし、国とは一切連携を取らず
あくまで自然ゴリ押しで自らの能力を高めていった。彼は、自らの思考の電気信号を、地表を通して拡散し、人々に影響を与える事がで
きた。
地振りし星の坊主(ちふりしほしのぼうず)通称ジブリ坊主である
2つの派閥の関係は、宗教上の違いにより不仲であり、やがて現代になりスポーツ化した現在も変わらぬものであった。彼らの子孫は繁栄
し、次第に能力が薄れていったが、「能力を発言できるかできないかは別として」大勢の人類において「潜在的に能力を持つ」事となった。
アプリ坊主がドラフト会議で選手を獲得し、プロとして給料も出し、育成していく物なのに対し、ジブリ坊主は、あくまで非営利に徹し
、「社会人で気の合う人たちがやっている」いわば「慈善事業」としての道を歩んでいるのである。
ある程度給料は出るのだが、びっくりするような金額では無い。
アプリ坊主 = プロ = 国営 = 給料アリ
ジブリ坊主 =社会人= 非国営=給料アリ(但し、会社で支給されるごくわずか)
わかりやすく、図にまとめると以上のようになる
そのジブリ坊主の宮崎がなぜ犬馬と珍海前に現れたのか。彼は遠い目をしながら話を続けた。
「2人供、ジブリ坊主に来る気はないかの?」
宮崎は風に白髪を揺らしながら尋ねた
「いえ・・うちは・・」
珍海はそういって顔を背けるようにして犬馬のほうを見た。彼はマスコミも注目する高校アプリ坊主であり、本人もプロ入りを熱望して
いるのだ。今更、先行きの見えないジブリ坊主にはなりたくはなかった。
「わたしもちょっと・・」
犬馬はそう言うと、その場に腰を下ろした。まゆげもその場に座り込んだが、散歩中に人と立ち話するのは散歩の範疇に入っているので
ポイントは入り続けた。
「人々はな、自然を軽んじ過ぎておる・・」
「科学はいけないんじゃよ、科学はな、・・」
宮崎がさらに続ける
「そして、プロのアプリ坊主・・アレはいかん・・」
「アレは娼婦の匂いが・・」
そこまで言うと、宮崎ははっと我に返り、言葉を訂正した。
「い、いや、ちがうんじゃ、正麩(しょうふ)っていう・・」
「ほら、そばを茹でたときにでる、あのドロドロしたやつじゃ・」
「でんぷんなんだよ・・、でんぷんなんじゃよ!!」
「これ、豆知識な!!な?!!」
あたふたしながらもなんとかとりつくろった宮崎だが、犬馬と珍海は納得していない様子であった。補足しておくと正麩(しょうふ)とは、
でんぷんの事で、主にのりとして加工される成分である
「へぇ?それで、そのでんぷんがどうかしたの?」
珍海は宮崎の懐をえぐるような攻撃を繰り出した。
「ぐっ・・・!」
「こ・・この話はもうええじゃろ!!!」
宮崎は痛いところを突かれて、顔を真っ赤にしてブチキレた。
「とにかくじゃ・・」
「ワシは2人に、自然を大事にしてほしいのじゃ」
宮崎が取り直してそう語りかける。ふと、足元に朝露に濡れた草が見えた。
「ほほう・・」
宮崎はとても興奮してその草を引き抜いて食べた。
「自然っ・・・!こんなところにも素晴らしい自然がっ・・・!」
次々と草を引き抜いて食べてゆく。みるみるうちに宮崎の股間は膨張し、ジブリ坊主としての本領を発揮してゆく。
通常、アプリ坊主というのは、犬馬と珍海のように、「女性アプリ坊主」と「男性アプリ坊主」2人セットで真の能力を発揮する。つまり
は二人三脚のように、お互いを助け合うのだ。
だが、ジブリ坊主は一人で能力を発揮し、一人でサポートできる。そこがアプリ坊主とジブリ坊主の大きな違いである
「うっ・・・うっうっ・・・!」
宮崎は白目をむいて、痙攣したが、力を振り絞り自分のズボンに手を伸ばすと、パンツごとずりさげた。
「ジブリ坊ぅぅぅぅぅ主!!」
そして、股間にTENGOを装着すると咆哮し、辺りに緑色のオーラを撒き散らした。
「をを・・?」
「すごい・・」
見事な変身ぶりに犬馬と珍海も驚きを隠せないようだ。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
宮崎が吼える
変身を終えた宮崎は、俊敏になり、中学1年生男子の平均タイムくらいのスピードでダッシュした。とても老人とは思えない動きだ。
大自然の力をわがものとしている宮崎の攻勢はさらに続く。
「みておれ!!」
公園に自生していた木につかまると、えいさ、ほいさと登りつめて行く。そして幹が細くなり、これ以上登ると危険、というラインまで
行くとそこに体を休めた。
「わんっ!!わんっ!!!」
宮崎の素晴らしい走りをみて、釣られて走っていったまゆげが、木の下で無邪気にはしゃぐ
「お~、まゆげ速い~」
宮崎とまゆげを振り返りながら遠目に見ていた犬馬と珍海だったが、木を登っていってしまい、姿が見えなくなると体の体勢を元に戻して話し
始めた。
「犬馬はスカウトとか良く来る?」
珍海は足元の草をむしりながら質問した。
「・・え・・?あんまりこないかな~・・」
犬馬は遠くのほうをみながら答えた。実は犬馬は、自分の「犬を散歩させる能力」にあまり自信がなかった。
「そっか・・そういうのはセット扱いじゃないんだな・・」
高校3年。
来年には別々の道を歩まねばならない。
1年の時からペアを組んできた珍海にとって、あと少しで犬馬と離れ離れになってしまうことは寂しかったようだ。
「実は会長が・・」
珍海はそこまで言いかけて、少し考えてから急に苦笑いを浮かべて言い直した
「あれ・・?なんだっけ・・?」
「いや、やっぱり、いいや」
言おうとしたことを忘れてしまったようである
普段、マスコミの取材には2人で対応してきたが、スカウトなどにはバラバラに対応していた。珍海のほうには海外からもスカウトが接触
する事がしばしばあったのに対し、犬馬のほうは、国内のせいぜい、2~3個のプロアプリ坊主のチームくらいが視察に来るくらいであった。
「結局さ~」
「ドラフトとかあるんだから、スカウトとかって意味ないじゃん・・」
犬馬も足元の草を「ブチブチ」と抜き出した。続けて、
「やっぱり、能力変えたほうがいいかな~・・」
遠い目をして、どこに当てるとも知れぬ独り言のような言葉を発した
能力の決定は、1枚のプリントから始まる。
高校に入り、アプリ坊主部に入ると、顧問の先生からプリントを手渡され、そこに自分の希望する能力を書き込む。第1志望から第3志望まで
を書き込み提出する。
後日、顧問の先生と能力者とその親の、三者面談により、能力が決定されるのだ。「うちの子はこの能力でいいでしょうか?」
「いえいえ、お宅のお子さんならもっと上を目指せますよ!」と、いったやりとりが行なわれるのである。
犬馬は数ある候補の中から何にしようか迷った末に、第1志望に自分の最も得意とする「犬の散歩」を記入した。
これは、自分の得意分野を伸ばそうとする選択であり、欠点を補う取得では無い。
犬馬は納豆が苦手であった
豊富に含まれるタンパク質はもちろん体にも良いし、慣れてしまえばあの独特の風味がとてもおいしく感じられる。だが、人間というものは時に
理屈よりも先入観の方を選択してしまうものである。いわゆる「食わず嫌い」というものだ。
「あの、ねばねばがなぁ~・・・」
犬馬は遠くを見ながら納豆をかき混ぜるそぶりを空中に手で描いた。
「うん・・・?」
珍海はとりあえず返事をしたものの、なんの事かさっぱりわからず言葉が続かなかった。
能力はなにも得意としている物を選択する必要は無い。自分の苦手としているものを克服する事も立派な能力なのである。この場合、プリントには
「納豆がおいしく食べられますように」などと七夕(たなばた)チックに願い事のように記載される。犬馬の第二志望の能力は「納豆の克服」だったのである
「うっ・・うっ・・・!」
犬馬はよだれを垂らし、身もだえ始めた。右手で空中をかき混ぜる。
「ぐるぐる・・ねばねば・・」
納豆をかきまぜるそぶりが加速して行く
「ねばねば・・ねばねば・・」
「ハァ~♪ネバネバ♪」
白目をむいた犬馬は、興奮し、空中のあちこちを箸でかき混ぜるそぶりをみせた
「け・・犬馬・・?」
「落ち着いて!!」
隣に座っていた珍海はあわてて犬馬を静止したが、興奮している犬馬は聴くそぶりを見せない
「納豆ねばねば・・・!」
「う”―っ!!う”ーっ!!!」
犬馬は倒れこみながらも、少しでも遠くをかき混ぜようと、手を伸ばし、虚空をひたすら泳いだ。足はM字開脚している。
「犬馬っ!!」
珍海はとりあえず事態を収拾すべく、犬馬の両手足を縛る事にした。着ている法衣を脱ぐと、両手足を縛った。
「ん”っ!!ん”っーー!」
M字開脚は治まったものの、全身を伸ばし、びったんびったんと、まるで地上に水揚げされた魚のように地面を跳ねる犬馬。
だが、そんな状態になりながらも、腕をぴんと伸ばし、納豆をかきまぜるそぶりは止む事は無かった。
「第二志望か・・」
珍海はカバンから端末を取り出して確認したが、この一連の動作は犬馬の第二志望の能力であったらしい。わずかばかりにポイントが
入っていた。
「・・・」
ちらり、と犬馬のほうを見たほぼ全裸の珍海は、犬馬の衣服を少しずらし、股間のレバーを犬馬の口にあてがった。ここで高速充電をし、
試合を有利に運ぶ為である。犬馬の肌を露出させたのは、オーラを少しでも犬馬に与える為である
「ねばねば・・・う”―っ!!」
「ぐむっ・・・!ん”―ん”むっっ!!」
口を閉じて抵抗した犬馬だったが、珍海は口の両端を指で圧迫し、開いた隙にTENGOを無理やりねじ込んだ
「がぼっ・・!!」
「ん”っ!!ん”っっつ!!」
犬馬の頭を手で固定し、一気に高速で腰を動かす珍海。
「んぼっ!!んぼっ!!」
犬馬のほほの中を前後に角度を変えながら荒々しく行き来するTENGO
「んぼっ!ぶはっっ!!」
のどの奥のほうまでTENGOでふさがれ、まともに呼吸ができない犬馬は、涙と鼻水を流し、かなり苦しいようだ。早めにオーラを溜めねば、本人が
持たない・・だが、
「うっ・・・」
「出すっ!!!オーラ出すっ!!」
珍海もプロからスカウトが来るほどの逸材である。すぐに放出準備が整う
「出すぞ!!!」
「犬馬っ!!中で出すぞっ!!」
打ち付けた腰を顔の前で止めて右手で頭を固定すると、犬馬の口の中にどばどばとオーラを放出した。
「アプリ坊ぅーーー主!!!」
珍海が咆哮と共に青色のオーラを発生させる。運の悪いことにまたしても、あまり強くないオーラの色だ
「んぶっ!!げほっ・・・!!」
むせて少し吐き出してしまった犬馬だったが、なんとか無事に吸収できたようだ
「ん”ん”っ・・!!」
顔を赤らめ、全身を痙攣させる犬馬。珍海は、かばんの中から変身前に履いていたブリーフを取り出し、犬馬の口を覆うようにあてがった
「む~~っ!む~~っ!!」
「む”っっ・・・・・!!」
ほどなくして犬馬は白目をむいて気絶した。これは犬馬が意識白濁の内に、舌を噛まないようにとの珍海の心遣いである。
衣服を乱し、気絶している犬馬だったが、愛犬はまだそこらを散歩している。
「さすがは犬馬」
珍海は、手元の端末で順調にポイントが入っているのを確認すると、さらに状況を改善すべく、次の行動に移る
まず、倒れている犬馬の足元に座り、そのまま足首を掴むと、両腕でふとももがぴったりと重なるようにひとつに抱え込み、そのスキマに
自分のTENGOをはさみこんだ。
「うっ・・・うっ!うっ!」
そのまま、犬馬のふとももの間のTENGOを腰と一緒に前後に動かし、オーラを溜めていく。
「いいぞっ・・・・!」
「はぁ・・・はぁ・・」
精神を昂ぶらせていく珍海
―― ふいに視界が遠のいてゆく。
まるで睡眠直前のように現実との境が無くなり、かわりにいつ、どこのものともつかない光景が珍海の目に、いや、脳に直接流れ込んでくる
最初は小学校の教室であった。
よくみると、男子は全員、頭にヘッドギアのようなものを装着している。配線が顔の皮膚に食い込みながらも、ただただ無表情で黒板を見つ
め、授業に集中していた。女子のほうは、「わいわい、キャッキャ」と、さながら学級崩壊のように飛び回っていたが、先生は女子に怯え、
注意するそぶりすら見せなかった。
「????」
珍海はその光景の意味がわからず、かといって、自分が何者であるかも知れず、ただただ疑問に思った。
次は駅のホームであった。
状況を見るに、男性が転落しただか飛び降りただかで、その周囲は半円状の黒山の人だかりになっていた。
その、人の群れの中心は、遠慮がちに少し空いており、そこにぽつん、と独り泣き崩れている若い男性がいた。
「あれ・・・?この人どこかで・・?」
珍海は、意識朦朧としながらも、この男性が見覚えのある顔だということに気が付いた。だが、誰だったかまでは思い出せない
「前に・・・・」
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