第4話リング入り

「まもなく・・アプリ坊主千葉県大会の一回戦、万南無高校(まんなむこうこう)対 雲葛高校(うんかつこうこう)

の試合が始まります」


一回戦開始を告げる放送が、会場内に響き渡る


「参加者の方は所定の場所にお集まりください」


自分達が一回戦だということを認識していた珍海と犬馬はすでに、グラウンドの中央のリング前に移動していた


珍海がリングのロープを上に持ち上げると、そこをまたいで犬馬がリングの上にあがった

続いて、珍海がロープとロープの間を器用にすり抜けて壇上にあがる

二人は赤いコーナーポストのほうに陣取るとウォーミングアップ代わりに、ぴょんぴょんと、飛び跳ねて

軽く屈伸運動をした


「赤コーナー。万南無高校(まんなむこうこう)代表、珍海&犬馬~~~!」


ワァァァ!と一斉に歓声をあげる観客

審判からマイクを手渡されると、犬馬は自分の能力を観客に宣言した


「私の・・・・能力は・・・・!」


一瞬、言葉に間を置いて、呼吸をととのえて犬馬は次の言葉を発した


「犬を散歩させる能力です!!」


犬馬の「持ち能力」を聴き「ワァァァァ!」と再び盛り上がる会場

珍海と犬馬は手を振って声援に答えた。そして、コーナーに戻ると、からだの後ろに両手を回して、ロープをつかみ、

リラックスした姿勢で、自分の能力の源である、愛犬の「まゆげ」のほうを少し気にした

まゆげは、柴犬で、大会側が用意したセコンドにがっちりと、抱擁されている。尻尾を激しく振り飼い主を応援しているようだ。


「続きまして・・・!」


「青コーナー。雲葛高校(うんかつこうこう)代表、心技&空~~~!」


すでにリング上にあがっていた二人は手を振って声援にこたえた


対戦相手の雲葛高校側のアプリ坊主である、心技タイ(しんぎ たい)は立派な体格をしていた。角刈りがトレードマークだ。

彼の口癖は、話の語尾に~タイと付けることだが、あくまで口癖であり、方言とは違うので注意してもらいたい


そして、能力者のパートナーである 空(そら)翼子(つばさこ)。さわやかな笑顔が特徴のサッカー少女だ

口を大きく開けたまま鼻の下をこするのが彼女のクセであった。

雲葛高校の2人はサッカー用のユニフォームで試合に挑んだ


彼女は審判からもぎとるようにしてマイクを掴むと、自分の能力をさわやかに宣言した


「私の能力は」

「ボールと友達になることです!!」


ワァァ・・と盛り上がる観客だったが、翼子は左手で「止れ」のポーズを出して歓声を静止すると、そのまま目の前にいる

珍海&犬馬ペアを指差し、マイクに向かって叫んだ


「おまえ達が優勝候補の珍海&犬馬ペアか!!」

「かかってこい!コノヤロー!!!」


翼子は口を開けたまま挑発的な視線を犬馬に向けたが、もともと表情があまり変わらない系の顔立ちをしていた為か、犬馬達は

気づいていない様子だった。

翼子がマイクを審判に返すと、今度は、犬馬が審判からマイクをもぎとった


「あの・・・」

「なんだっけ・・」


犬馬は、大観衆の前に頭が真っ白になってしまったらしく、思いついた台詞を忘れてしまったようだ


「犬馬、飯、飯とわんこ(犬)・・」


犬馬とパートナーの珍海は、「なにか思いつく様に、」と、話題を提供した。


「おまえ、この・・」

「飯とウンコしてる時以外は、いつでも相手になってやる!!」


犬馬はすぐさまマイクに向かって叫んだ


観客席の歓声はピークに達し、会場はより一層の熱気に包まれた

翼子は審判にマイクを返却すると身構えた


「1R(ラウンド)」

そう書かれたプラカードを持ったスクール水着姿の少女がリング上で、今から第一ラウンドが始まることを観客席に向かって

示唆した


カーーン!!


勝負開始を告げるゴングが会場に鳴り響いた


アプリ坊主の試合はまず、相手の力量を探るところから始まる

各アプリ坊主は所定のコーナーに戻るとセコンドから衣装ケースを渡される。それを自分の横に置くと

正座をして両腕の手の平をふともものあたりに置き、背筋をまっすぐ伸ばす。


そして能力者同士は、リング上で相手の技の探りあいをするのである


じりじりと間合いを詰めた両者は、円の動きで時計周りに動き始めた


「この子・・・」

「強い・・・」


犬馬のり子は相手の出すオーラに圧倒された。しかし、ここで怖気づいてしまっては話にならない

きっ、と相手のほうを見て円の動きを続けた


「すこし探りをいれてみよう」


そう思った犬馬は、円の動きを続けながら、さりげなく相手のにおいを嗅ぎにいった。

釣られて、翼子も、犬馬の匂いを嗅ぎ返した。「くんくん・・」とお互いの匂いを嗅ぎあう両者。


「いっ・・!いかんタイーー!」

「奴から離れるんじゃああ!翼子ーー!」


ふいに、翼子のアプリ坊主である心技タイが叫んだ。彼は正座をしながら、手元の端末で試合の優劣を決めるポイントを観察

していた。アプリ坊主専用端末だ。

そして、そのポイントがわずかばかり、犬馬有利のほうに傾いたのだ


これはすなわち、「犬を散歩させる能力」が実行され、わずかばかりではあるが世界に認められたということである

そして、世界に認められればアプリ坊主の端末に受信され、ポイントが反映される


この場合は、”相手の匂いを嗅ぐ”という行動が、犬の散歩と関連付けられ、わずかにポイントがはいったのだ

ただし、犬が匂いを嗅ぐのではなくて、飼い主が匂いを嗅いだ為、致命傷にならずに済んだのだ。


とっさに飛びのいた翼子であったが、ハァハァと呼吸を荒げている


「―おかしい」


翼子はそうつぶやき、うしろで正座している心技タイのほうをちらり、と見た。無表情だがパートナーのタイにはあせりの色が見て取れる。


翼子は焦った。自分の能力である「ボールと友達になれる能力」が発動しないのだ


翼子は対戦相手の犬馬を挟んで、じりじりと円の動きをしていたはずである。そして、それはボールと関連付けられ、能力が発動

してもおかしくはない。しかし、ポイントに還元された節もない。

ふいに、心技タイが叫んだ


「翼子ー!」

「それは、ボール(玉)じゃなくて、サークル(円)じゃああ!!」


はっ、と息を飲む翼子。彼女は英語の成績が悪かった。


不利を悟った翼子は、アプリ坊主に支援を求めるべく、変身をうながした


「心技・・・!」

「変身だ・・・・!」


心技はすぐさまスーツケースを開けて衣装を取り出すと、叫んだ


「アプリ坊主タイーーーー!」


そして、最初のパーツである法衣を着るべく、履いていたズボンを脱ぎだした。アプリ坊主の変身には若干のタイムラグを要する。


(能力者もアプリ坊主だが話を解りやすくする為に、能力者、とだけ呼称される場合もある)

(正確には「女性アプリ坊主(能力者)」と男性アプリ坊主(能力増幅者)に分類される)


一方、珍海&犬馬ペアは、追加攻撃を加えるべく、すでに変身の準備段階にはいり始めていた

しかし珍海&犬馬ペアは学生服の為、ワイシャツのボタンを外す動作などが遅れ実質はそこまで変身時間をリードできている訳ではなかった


サッカーユニフォームを着てくるという、翼子&心技ペアの作戦勝ちといった所か。




さて、ここで簡潔ではあるが「アプリ坊主」のルール説明を行ないたい。試合中にもちょくちょく説明はされているが、まとめておいたほうが

分かりやすいと思い、後から追記した物である


1 「アプリ坊主の試合はポイント制であり、相手より多くのポイントを稼いだほうが勝ちになる」


2 「自分の持ち能力をより多く、多彩にアピールすると高得点」


3 「対戦相手のペアに直接攻撃をするとポイントが減算されてしまう」


4 「マイクパフォーマンスも得点に加味される」


5 「日本人の無意識下の価値観により、自動的にポイントは集計される」



(例)「色を的確に当てる能力」の場合


水面を指差して「あれは青いです」と答えたとする。正解がどうであれ、無意識下で「青い」と認識する人が少しでも居ればポイントがはいる

ただしこの場合、「あれは透明です」と答えたほうがより多くの支持を得られることになり、大量のポイントが入る

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る