第3話開会式


グラウンドに集合との事であったが、もともとグラウンドで試合の打ち合わせをしていた珍海と犬馬は、自分達の高校のプラカ

ードを持った生徒の所に歩き始めていた


グラウンドの中央には白いリングが敷設されており、選手達はその付近でイメージトレーニングをしていたが、

さらに視線をその先まで延ばすと、○○高校 と書かれたプラカードを持った女子達が、高校の制服のままずらっと並んでいた


「県大会でこれは、大げさじゃない?」


犬馬がそう問いかけると、珍海は


「予算余ってんだろう、国技だしな」


と答えたが、適当に答えただけで、さしたる根拠は無かった。さらに続けて珍海は


「一応、(アプリ坊主の)発祥の地だからな~・・・・」


そう言って観客席のポップコーン売りのお姉さんの方に視線を逸らした

その視線の照準は紛れも無く、塩味のポップコーンに注がれていた。彼は塩味のポップコーンが大好きだったのだ。

すごく興奮していた。


首だけポップコーン屋のほうに向けて歩いていた為、視線がだんだんと斜め前から、横のほうにずれてゆく珍海

やがて、首の角度に無理をきたして、立ち止まった。


「いくよ~」


犬馬のり子から、そう咎められ、珍海は、はっと息をのんだ

そして、首を体の方向に戻すと、くやしさをこらえて自分の高校のプラカードのほうに向かって歩き始めた


他校の生徒たちも、ぞろぞろと集合し始めていた。プラカードの枚数から察するに、およそ2~30校といったところか


万南無高校(まんなむこうこう)


無事に自分達の高校の集合場所にたどり着いた2人は、きちんと整列し、開会式に備えた


プラカードを持ってくれている女の子はよそのクラスの子なので名前も知らない


「ねぇ、キミどこのクラス?」


珍海はプラカード女子の後ろに並んでからそっと耳元で囁いた


「しっ・・!」


犬馬が珍海の脇腹のあたりをつまんで捻った


「う”っ・・」


珍海はおとなしくなり、プラカードの女子は、「クスクス」と小さく笑っていた


ほどなくして、自分達の前方に、小さいお立ち台のようなものが設置され、そこに向かって老人がずかずかと歩いてくる

世界アプリ坊主連盟会長、珠須 雪次郎(たます ゆきじろう)であった


静まり返った会場。時計の針は午前10時を指していた


「みなさんおはよう。今日はとてもいい天気ですね」

「まだ少し肌寒いかと思いますが、持てる力のすべてを出し切って、正々堂々と試合に臨んでください」


お立ち台に立った会長は、そう軽く挨拶すると、持っていた法衣ケースを開けて、その場で変身して見せた。


「アプリぼぅ~~ず!!」


その掛け声とともに、着物を脱ぎ始め全裸になった。次に、法衣を着た。なんの変哲も無い、普通の法衣だ。

次に肩のパーツを装着した。


戦国時代の、武将などが身に着けていた鎧の「肩当て」に由来するのだが、今では布でできた形だけの物だ。

法衣に付属しているマジックテープ部分にくっつけるだけのタイプにしてある物が一般的だ


激しい運動で試合中に無くす人も多いが、最初から法衣に縫い付けたりしていると、変身っぽくないという理由で、アプリ坊主の

およそ7割が、あと乗せ方式のマジックテープなのであった


腰のパーツも同様である。すみやかに取り付けると、あとはいよいよ、股間のパーツを装着する


このパーツは、円筒形をしており、先端部分が丸い球体になっているTENGOと呼ばれるパーツで、アプリ坊主の要のパーツである

そして、円筒形の部分に空いている穴に自分の股間をフィットさせることで変身は完了した

後述するが、この擬似レバー部分が、戦局を大きく左右する物だと思っていただきたい


ひと通り変身し終わると、会長はマイクに向かって叫んだ


「これよりアプリ坊主県大会を始めます!!」


観客席の静まりが、一転、大歓声に変わった


会長は、お立ち台の上から降りると、あらかじめ設置されていた、来客用の日よけのテントの中の、パイプ椅子に腰掛けた。

縦長の折りたたみ式の、こげ茶色のテーブルに冷たい水が置かれた


「どうぞ」


従者はそういって会釈すると、1歩引いた


「ありがとう、君も座りたまえ」


会長はさわやかに笑顔を振りまくと、視線をグラウンドの中央に向けた。そこには、アプリ坊主同士が戦う、リングが設置されていた。

コーナーポストに、3段のロープが張られた、いわゆる「ボクシングなどで使う」平凡なタイプのものだ。











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