第3話 太刀風

木枯らしと共に歩くこと果てしなく、やっとのことで宿へとたどり着いた一行は、この日2回目の食事をしていた。暖かいスープが冷え切った体に染みた。

明日はいよいよ集会当日だ。期待と不安ですこし動機が高ぶる。

自分にとっては間違いなく何か変化もたらされる経験をすることだろう。

一族間の雰囲気はどんなのだろうか、集会の目的や話合いの内容はどんなものなんだろうか。そしてなにより、自分の父親はどのような人なのだろうか・・・。

そんなはやる気持ちを押さえ、側近たちとつかの間の食事を楽しんだ。


――――夜も更けみなが寝静まったころ、ふと寝室のベッドで目を覚ました。

自邸のベッドの上と一瞬勘違いするほどには気持ちよく寝ていたはずだったのだが、なぜか清々しいほどきっぱりと起きてしまった。

おもむろに窓の外に目をやると、カーテンがそよ風に揺られさらさらとゆれていた。

まわりはそうは思ってはいないみたいだが、自分はかなり臆病だ。

あのカーテンにさえ少し不気味さを覚えたほどだが、冷静でいようとする自分に救われてまだ平常心を保っていられる。


水を一口飲んでから再び眠ろう。

そう思い立ち上がろうとしたとき、初めて気がついた。


――――体が動かない。


正確には目だけが動くようになっていた。

まぶたいっぱいに瞳を動かしてあたりを伺うと、自分の足元に誰かが立っているのがわかった。その誰かはあきらかにこちらを凝視しているのが直接見なくてもわかった。それほどの存在感があった。動く気配が無いことをひとまず確認し、気づかれないように瞬きをしようとした。

その瞬間その誰かが耳元でささやいた。


気がした――――。


気がついたら不自然なほど寝相のいい体制で、ほとんど布団が乱れることなく朝を迎えていた。寝不足を感じることの無いぐらいには体の調子は良かった。


その後、側近たちと朝食を囲んでいるときも特に昨夜異変があったような雰囲気は無かった。

初めての集会を前に少し神経質になっていて、悪い夢でも見たんだろうと自分で納得をして、いよいよ迎える今日の大きな予定の確認を皆で行った。


出発の支度をして部屋を出るとき、忘れ物などがないかあまり確認をしないで部屋を出たいという気持ちが自分の臆病さを物語っていた。

そんな自分に少し呆れながらも、今日の集荷に期待を寄せながら宿を後にした。


澄んだ空気がわが身を引き締め、心身ともに心地よい緊張感を感じる、肌寒い朝だった。

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