第2話 旅立ち

窓にうちつけられる雨の音で目を覚ました。

今日この一族に産まれて初めて、自分以外の親戚に会いに行く。

不思議と思ったよりも落ち着いていた。

一人で朝食を済ませ、必要な装備、持ち物を整え、腕の立つ側近4人とともに出発する。


特に何を話すこともなくひたすら舗装された道を歩いていく。

会場までの距離を考えるとおそらくどこかの宿に泊まらなければいけないだろう。

たまにはこうして他の土地の雰囲気を楽しむのも悪くないなと思った。


隣町に入り、一息つこうかと話していた時のことだった。

道中我々のことを認知しているらしい少し身なりの汚らしい老人が話しかけてきた。

どうやら金に困っていて食料を恵んではくれないかとのことだった。

困っている人がいたら見過ごせないほどにはお人よしなので一緒に休憩処へ同行してもらい、知らない土地の話の一つでも聞かせてもらおうかと思った。


―――落ち着いた雰囲気の店で我々は老人の話に夢中になっていた。

なんとこの町では元々その老人は貴族の立場にあり、町全体を商業で牛耳っていたという。それがある日、他所から来た凄腕の商人にすべて権利を奪われてしまったらしい。なんでも、取引をする当事者たちのことをよく知らないまま持っている権利だけをふるって良い暮らしをしていた老人は気づいたら取り返しのつかない状況まで追い込まれており、一番大きな取引先も最後に奪われてしまったそうだ。


現在はその商人自身はほかの土地をめぐりながらさらなる事業の拡大化を図っていて、この町は自身で雇った管理人に任せているのだという。


―――話を終えた老人は深いため息をつき、テーブルに出されていた飲み物を一口まずそうに飲んだ。

この老人、気の毒だとは思うが自業自得ではあるだろう。

仕事の管理を怠り、それをないがしろにしていてはうまくいくはずがない。

商業であればなおさらだろう。


側近の一人が食事のお代を全員分払い終えたところで老人に別れを告げて旅路へ戻ろうかと思ったとき、ふと気が付いた。

さっきと少しまわりの雰囲気が違うのではないか・・・?

初めてきた町ではあるが土地勘がすこぶる悪いわけではないので、店に入る前の雰囲気は覚えている。

町ゆく人々はさっきと変わらず、話していたり買い物をしていたりしている。

この違和感は何だろう・・・。

得体のしれない不安を覚えながら足早にこの町を出ることにした。


朝降っていた雨はあがり、

どんよりとした曇り空が我々に覆いかぶさってくるかの如く、

分厚い灰色を視界いっぱいに延ばしていた。

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