第5話 『神父』
スマホのアラームが鳴り始めるちょっと前に目が覚めるのが、いつもの私だ。
だから今も目が覚めて少ししたらアラームが鳴ると思って待っていたのだが、一向に鳴り響く気配がない。
いや、そもそも私が今起きたこの部屋はなんだろう?いや、どこだろう?
見覚えのない白い天井。寝心地の良すぎるうらいのふかふかなベッド。隣には薄暗く仄かに灯るランプ。服装は着心地のいい薄手のパジャマ、とその下に巻かれた包帯。顔や腕にも包帯や絆創膏。そして、時刻は20時を少し過ぎた所。
え…?どういうこと…?半日以上寝てたの、私…?
そこでようやく、意識を失う直前の事を思い出して、すぐに左肩を確認する。
包帯を巻かれていて傷の具合はわからないが、少し痛みを感じる程度のようだ。
ほっ、と安堵するも、傷が残るのは嫌だなぁと思う。
それにしても誰が傷の手当やらをしてくれたんだろう?普通に考えれば、あの場にいたあの白髪の少年だよね。
そう思ってベッドから降りようとした所で部屋の扉が開かれて、誰かが入ってきた。
「おや?目がさめたようだね」
入ってきたのは白髪の少年ではなかった。教会にいる神父や牧師が着込んでいそうな足元まですっぽりと包まれた真っ黒の学生服のような服に身を包む初老のお爺さんと、黒いスーツに身を包んだ顔面中が傷だらけの大男だった。
2人のうち初老のお爺さんは、失礼するよ、とベットの側の椅子に腰掛ける。
「え…っと……?」
「目が覚めてよかったよ。まずは簡単だが、自己紹介でもさせてもらおうか」
戸惑いと警戒をする私に、初老のお爺さんはくしゃりと柔らかく皺を深くするように微笑んで話す。
「私はファーザー。この教会で神父を務めている者だよ。そして、隣にいる彼は大鷹。まぁ町の警備団みたいなものだよ」
「ウッス」
「はあ……どうも…」
本当に簡単な自己紹介だなぁ。あ、神父さんなんだ。
どう反応していいかわからず、私は曖昧な返事を返すと、神父さんは真面目な顔になってこう続けて言った。
「それと謝らせてほしい。君を巻き込んでしまって本当に申し訳ない」
神父さんは隣の大鷹さんと共に深く頭を下げる。
自己紹介の後にいきなり謝られて、私はさらに戸惑ってしまう。
「な、何がなんでしょうか…?私、謝られるような事、ありましたっけ……?」
「先日の出来事とその怪我ついてだ」
傷だらけで強面のような大鷹さんが、頭を下げながら言う。
「先日の…?でも、あれは大鷹さん達が何かした理由ではないのでは……?」
そうだ。昨夜の現実味のない化け物は彼らがどうとか関係ないだろう。確かに体中のあちこちが痛いし怪我もしているけど、それはあの白髪の少年が私を助けてくれた時の余波でこうなっただけだし。
「君を襲ったあの土蜘蛛の子供を追っていたのは、うちの若いもんだ。そして、」
若いもん。じゃあ、あの白髪の少年は街の警備団の1人なんだ。
大鷹さんの言葉に納得し、彼の続く言葉を聞いて首を傾げた。
「君に瀕死の重傷を負わせた挙句に、アイツは応急処置として君に数滴流したんだよ」
血を数滴流した。流された。
意味がわからなかった。
それが私が瀕死の重傷を負った(らしい)事と何か関係性があるのだろうか。
でも、重傷とか言っていたのに少し体が痛むけど、普通に起き上がれたんですよ…?
「すまない、私とした事が一つ言い忘れていたよ」
神父は何かを思い出したように手を叩くと、困惑しっぱなしの私に更にこう言った。
「私たちは
「は…?」
あまりに突拍子もなさすぎて、私の口から間抜けな声が出た。
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