第3話 『私は私が嫌いだ』
夜のバイトは、7時から日付が変わる少し前まで夜の時間を1人で回すのがほとんどだ。
別に押し付けられてるからとかではなく、友達もいなくて部活にも参加していない私にはやる事がないので、そうしてきただけ。あと、お金貰えるし。
それが終業式が終わって、学生にとって縛り続けられていた登校する日々から解放されようとも、私には特に関係の無い出来事。
そう思いながら私は、今日もいつも通りの日常をこなす。
お客が空いてきた時間帯に洗い物なども終わって手持ち無沙汰になった私は、垂れ流したままになっているテレビを眺める事にした。
『えー……続いてのニュースです。昨夜未明に────』
「昨夜かぁ……そういえば…」
キャスターの男性が言った言葉に、昨夜の記憶を思い出せない事を思い出す。
未だに思い出そうとすると霞がかったような感覚で思考がぼやけてしまう。
何でなんだろうか…?
そうやって時間を潰していると、またお客の入店を知らせるベルが鳴るので、グラスに水を汲んでオーダーを取りにいく。
「そういやよ、最近よ。河川敷の近くでホームレスとか少なくなったよな」
「そうなのか?ま、いてもいなくてもどーでもいいだろ、あんなやつら」
ぎゃははは、と気色悪い笑い方をするお客だなぁ。
あまり関わらないように、さっさと食券を受け取って、手早く仕上げて配膳する。
作業を終えてまた手の空いた私は、昨夜の事を思い出そうと俯いて物思いにふける事にした。
昨夜の事、いつものノノさんのとこを出て夜はここでバイトをして。それから…………うぅん…思い出せない。この何とも言えないモヤモヤした感じ、何か嫌だなぁ。
「……さん………員…ん………店員さーん?」
「え…?……あ、はい…!」
そうやって考え込んでいると、いつの間にか呼ばれていたみたいで、急いで先程の嫌な2人組み客に返事をした。
「どったのさ、俯いちゃって?せっかくの顔が暗い雰囲気で台無しよ?」
「えっ……と、はい…ごめんなさい……」
急に変な事を言われて戸惑ってしまう。
咄嗟にかけていた眼鏡に触れて、顔を隠そうとする。
「おいおい口説いてんじゃねえっての。店員さん困ってるじゃねえか。やめろって、なぁ?」
「あぁ…えっと、その……」
こちらに振られても困る。というか私の顔をあまり見ないでほしい。
見られるのは嫌いだ。目立つのは嫌いだ。私は私が嫌いだ。そして、私を見てくる人達は皆嫌だ。だから早く出ていって。
別に人様に見せられないような傷物の顔だからって訳じゃない。ただ臆病なだけなんだ。自分から動き出す勇気もなく、誰かが私をどこかへ連れて行ってくれる事を期待している。でも、その誰かと関わることも怖い。そんなデタラメで出来た臆病なやつなのが私なんだ。
なんて1人で自己嫌悪し始めている私を知ってか知らずか、お客2人は退店していく。
ほっ、と胸を撫で下ろす。
あと少しで日付が変わる。その前には代わりの人と交代して、私は帰れる。
ああ、早く来ないかなぁ……。
その後、少しまたお客が入ったくらいで特に忙しくもなく交代の人に後を任せて、私は帰路についた。
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