先生、アサシン襲撃です!(その2)


 第二回チーム会議で肝心なセリフをソフィアさんに言われてしまい、私、白姫蛇子しろひめじゃこはトボトボと家路についていた。いつものコンビニの前に差し掛かる。『月刊百合っぷる』の発売日は、まだだったわね。そう言えば、私の秘密基地どうなってるかしら?

 

 なんだか気になった私は、裏通りに入ってあの廃ビルへ向かうことにした。ボロボロになったビルが見えてくる。周囲にはバリケードが作られていて中に入ることはできないようだ。このビルを破壊した暗黒の雷ユルルングルサンダーの威力は凄かった。そんな魔法を使える川本さんには、良くないものが取り付いているに違いない。おそらくそれを解き放ったら人間界はただではすまないだろう。

 

 何とかしなきゃ。でもどうしていいか分からない。そんなことを考えながらビルの周りをぐるっとまわってみると、ビルの壁の前でしゃがんでいる男の人を発見した。

 

 山田先生だ! 何をしているのかしら? そうだ、わっ、と声をかけて驚かしちゃおう。フフフッ、抜き足、差し足。

 

 「そこいるのは誰だ!」

 

 山田先生は振り向かずに私を察知した。おぬしなかなかやるな。

 

 「ごめんなさい。驚かしちゃったかしら?」

 

 「し、白姫先生。どうしてこんなところに?」

 

 振り向いた山田先生の目はまん丸になっている。

 

 「ちょっと調べたいことがあって……、山田先生こそ、どうしてここに?」

 

 まあ、気になって様子を見に来ただけなんだけどね。

 

 山田先生は、かわいい猫を撫でていて、この子の様子を見に来たのだと言った。ふーん優しいのね。動物に優しい人好きだよ、私は。

 

 「ところで、白姫先生の調べたいことって何です?」

 

 何にも考えていなかった私は、言葉に詰まってしまった。

 

 シーン。気まずい……

 

 しばらく沈黙が続いた後、突然、山田先生が言った。

 

 「……俺のことが分からないのか? エヴァ」

 

 エヴァ! エヴァって言った? 何で私の本当の名前知ってるの?

 

 「誰っ! どうして知ってるの?」

 

 「俺だよ。メフィストだよ」

 

 メフィストぉーっっ! うそぉー。魔界でとっても仲良かった先輩の登場に正直ビビってしまった。それにしても全然オーラないから分からなかったよ。

 メフィストと話していると、もう一つ驚きの事実が分かった。いなくなっちゃった転校生、常闇りりすさんが、ルシファー様の妹、リリスちゃんだと言うのだ。

 

 そっかー、それで私の過去を知ってるって言ったのね。納得、納得。昔、魔界にいたとき、いっつもルシファー様に呼び出されてたから、リリスちゃんとも顔なじみだったのに全然わからなかった。あの子頑張り屋さんだったもんね。

 

 「お前、あのリリス相手によく頑張ったな」

 

 メフィストが、私の髪の毛を手のひらでポンポンとした。ふふっ、そう言えば昔、一緒に天使と戦っているときもポンポンしてくれたっけ。なんか落ち着くんだよねー。

 

 「ねえ、メフィスト、なんであんたサイコ学園にいるの?」

 

 「は? 分かるだろ。お前と一緒の目的だよ」

 

 「えっ、そうなの? あんたも学園のアイドル目的だったの?」

 

 「なんだよ、学園のアイドルって?」

 

 「川本さん、ソフィアさん、藤堂さん、の三人よ。この間チームも作ったんだ」

 

 「知らねーよ! まあ、川本さん、ソフィアさん目的って言うのは間違いじゃないけどな。魔法少女の封印をといて自分の主人を世界の王にするのが目的なんだろ?」

 

 そうだった。私の目的はルシファー様を全世界の王にすることだった。学園のアイドルと楽しく活動することじゃなかった。

 

 「ここで、お前、ルシファーと会ってただろう? 俺見たんだよ。その……、なんだ、ああ言うのはいい加減やめろよ」

 

 「うそっ! 知ってたの? ああ言うのって?」

 

 「だから、ルシファーに……、エロいことされてただろ、ゴーレムで」

 

 見られてた! あれを見られてたの? 恥ずかしい、まじで。穴があったら入りたいわ。

そうだ、あのときルシファー様が賊の侵入に気付いて、捕まえようとしたんだけど逃げられちゃったんだ。


 「あの時の賊だったんだ。あんた。そう、ルシファー様って昔からああなのよね。苦労しちゃうわ。待って! あの時、ルシファー様が使った『流星の針』は強力な魔法よ。大丈夫だったの?」

 

 「ああ、なんとかね。でも少し手を怪我しちゃってさ。そしたらそこの猫が傷をなめてくれたんだ。だから、この間、暗黒の雷ユルルングルサンダーがここに落ちて燃えちゃったから、大丈夫かなって様子を見に来たわけ」

 

 「そっかー、ごめんねメフィスト。あんたってわからなかったから、ひどいことしちゃった。ありがとうね。猫ちゃん、よしよし」

 

 おりこうな猫ちゃんの頭を撫でてあげた。

 

 「あの雷が、暗黒の雷ユルルングルサンダーだってことも知ってるんだ。昔から何でもお見通しだったもんね。あんたは」

 

 「お前が天然すぎるだけだろ。まったく、俺がついてないと危ないな、おまえは。そこで俺に考えがあるんだが。聞いてくれ。俺はアスタロト様、おまえはルシファーのために働くエージェントで今は対立している。どちらも人間界を滅ぼして世界の王になることを目論んでいる。だが、俺は人間界が滅ぶことなんか望んでいない。おまえもそうだろ?、エヴァ」

 

 メフィストは、まわりの様子を気にしている。確かに聞かれるとマズい内容ね。

 

 「ええ、望んでないわ。人間界で暮らしてみて分かったけど、ここには悪魔界にない、良いことがいっぱいある。だから壊したくない」

 

 「ああ、そう言うと思ったよ。なら俺に協力してくれ、エヴァ。昔のように均衡がとれた世界に戻す。前の戦争で、大悪魔アスタロト様と大天使ミカエルが封印されちまったことで世界のバランスが崩れた。これが全ての元凶なんだ。アスタロト様がいたときは魔界は平和だった、みんな仲良くやってたよな。お互いがブレーキ役だったんだ。ミカエルがいれば、ルシファーも人間界を支配しようなんて思わなかったはずだ」

 

 「そうね、権力が集中しちゃうとロクなことがないって良く分かったわ」

 

 「アスタロト様とミカエルには復活してもらおう。どこまで出来るが分からないがやってみる価値はあると思う。協力してくれるか?」

 

 「もちろん! やりましょう」

 

 新しい目標が出来て、なんだかやる気がみなぎって来た。よーし、やるぞー。

 

 「ただ、気を付けろ。暗黒の雷ユルルングルサンダーの動画、ヒュドラの動画が投稿されたことで、サイコ学園は急速に注目を浴びつつあるんだ。リリスの登場もその一つだろう」

 

 メフィストとは定期的に情報交換することに決めてその日は別れた。

 

 翌日、保健室でこれからのことについて色々考えていると、なんだか外が騒がしい。わーとか、きゃーとか生徒の声が聞こえてくる。何事かしら? 様子を見ようと入り口のドアの方へ向かおうとすると、バーンと大きな音がして、荒々しく扉が開いた。

 

 素早い動きで、全身黒づくめの人間が入って来た。頭も黒い頭巾で覆って目だけ出している。肌の露出が多い衣装なので女性と分かった。

 

 ――アサシン!

 

 アサシンとは何度か対戦したことがあるが、とてもやっかいな相手だ。手には刀をもっていて無言で切りかかってくる。訳が分からないが応戦するしかない。

 

 「マジックシールド!」

 

 魔法の盾で刀を防ぎつつ、攻撃に転じる。

 

 「魔弾の雨!」

 

 魔法の弾丸が降り注ぎ、二人のアサシンが倒れた。単発の弾丸や矢でアサシンを倒すのは難しい。広い範囲に降り注ぐ、「魔弾の雨」やルシファー様の「流星の針」でないとね。アサシンがひるんだのを見て保健室から脱出した。とにかく、使い魔の大蛇「夜刀やと」が出せる広い場所に行かなきゃ。そう思った私は、芝生広場に向かって走った。アサシンは黒い集団となって私を追って来る。

 

 ようやく、芝生広場に到着して立ち止まると、アサシンが取り囲んで来た。頭目と思われるアサシンが右手を素早く上げる。

 

 「やれっ!」

 

 大きな轟音が鳴り響き、中庭を囲んでいる校舎の一角が真っ赤な炎に包まれた。壁が粉々に吹き飛び、破片が降り注ぐ。

 

 「なんてことを――」

 

 遠くで聞こえる悲鳴が胸に突き刺さった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る