先生、アサシン襲撃です!
チーム会議が終わり家に帰ることにする。真っ直ぐに家には帰らず、自然とある方向へ足が向かってしまう。先生とよく待ち合わせしていたコンビニの前を通り、裏通りへ入る。やがて、あの廃ビルが見えてきた。落雷で燃えてしまったので、外壁は黒ずみ、ガラスも割れている。
危険と書かれた看板と共にバリケードが設置され、すぐ近くまでは行けない。秘密基地がなくなってしまったので、先生との特訓もしばらくお休みだ。白姫先生と、ソフィアが対決したあの日、ここで何があったのか? ここに来れば何か分かるかもしれないと思った。何か手がかりがあればいいのだが。あたりに人影はなく、ひっそりと静まり返っている。
ニャー、ニャー
ん? 猫の泣き声? 姿は見えないが声は聞こえる。近くにいるのだろうか?
「おー、お前、無事だったのか、あの時はありがとな」
続いて、男性の声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。辺りを見回すが誰もいない。一時期収まっていたが、これは例の地獄耳では? 以前、談話室の中にいるソフィアと一花の会話が遠くから聞こえてしまったことを思い出した。
声の主を探そうとビルの裏側に回ってみる。ちょうどビルの角から裏側を覗こうとしたその時。
「そこいるのは誰だ!」
思わず、体がビクッと反応してしまった。まだ声の主からは私は見えていないはず。
「ごめんなさい。驚かしちゃったかしら?」
男性の問いかけに女性の声が答える。とてもよく知っている声。ビルの角からそっと覗いてみると、そこにいたのは、山田先生と白姫先生だった。しゃがんで猫を撫でている山田先生に白姫先生が近づいていく。
「し、白姫先生。どうしてこんなところに?」
「ちょっと調べたいことがあって……、山田先生こそ、どうしてここに?」
別に隠れる必要はなかったのだが、覗いていた顔を引っ込めてビルの影に身を隠した。これではあの時と一緒ではないか! 談話室にいたソフィアと一花の会話を聞いてしまったあの時と。盗み聞きはいけないと分かっていても、なんだか出ていけない雰囲気があった。
「いや、その、この猫のことが気になって、様子を見に来ちゃったんですよ。ところで、白姫先生の調べたいことって何です?」
お互いに様子を探り合っているようだ。偶然会うには微妙な場所だからだろう。気まずい沈黙が続いた。
「……俺のことが分からないのか? エヴァ」
言葉を振り絞るように山田先生が言った。
「誰っ! どうして知ってるの?」
「俺だよ。メフィストだよ」
「えええっ! メフィストなの! 全然わからなかった」
「まじかよ。俺は最初から分かってたぞ、お前がエヴァだって。全くどんだけ天然なんだよ、変わってねえなあ」
一体何なの? 急になれなれしい感じになって。ドキドキと鼓動が早くなるのがわかる。二人はどういう関係なの? だいたい、メフィストとかエヴァって呼びあってるけど、どういう事だろう。
「体、大丈夫なのか? 魔法力を全部とられたんだろ? リリスにさ」
「ええ、常闇さんにやられちゃった。でももう大丈夫よ。あの子たちの魔法力ももらったしね」
「おいおい、常闇さんの正体にも気付いてないようだな。あいつはルシファーの妹だよ」
「うそっ、あのリリスちゃんなの? あの子が? そっちも全然わからなかった……」
そうか、そうか、常闇さんはルシファーの妹なのか――
――って、おい、今度はルシファー? あっ、そうか、二人は厨二病なんだ。厨二病だからお互いのことをエヴァとかメフィストとか、ルシファーって呼び合ってるんだ。
シーン。あれ、急に二人の会話が聞こえなくなった。また肝心なところで。壁の影からそっと覗いてみる。山田先生が白姫先生に近づいていくと、手のひらで頭をポンポンとした。うれしそうにしている白姫先生。
どういうこと? まさか二人は……。
やだやだやだ! 胸が締め付けられるように苦しくなって、その場から逃げ出した。そりゃあ、先生に私が知らない過去があっても仕方がない。それは分かっているつもりだ。でも……、なんなの? なれなれしく頭ポンポンなんて見たくない。先生も先生だ、うれしそうにしちゃって。こんなに子供っぽい人だと思わなかった。幻滅よ。
家に帰ると、ベッドに突っ伏す。髪の毛ポンポンと先生のうれしそうな顔が、頭の中をグルグルと回る。よく考えてみると、あれはただの挨拶みたいなものかもしれない。二人はどういう関係なんだろう? 一つだけ確かなのは、二人は昔からの知り合いで、山田先生は私の知らない白姫先生を知っているという事だ。
次の日、悶々とした気持ちのまま登校した。授業も全く頭に入ってこない。久しぶりに使い魔を操る授業があるということで、クラス全員が校庭に集合した。そう言えば、白姫先生と初めて話したのも使い魔の授業だった。私が強力なドラゴンを呼び出してしまい大騒ぎになったんだった。あの時、ドラゴンが吐き出した
そうだ、先生を信じなきゃ。昨日のこと後で先生に聞いてみよう。
クラスメートが順番に使い魔を召喚していき、私の番になった。今回は、この間リリスドリーム内で召喚したガルーダ鳥の「カルラ」を呼び出すことにする。
「美しき翼、神の鳥、炎のごとき赤い羽根、いまここに現れん」
ボンッ! と白い煙があがり現れたのは赤い羽根のガルーダ鳥ではなかった。全身黒づくめの衣装を身にまとい、同じく黒い頭巾で顔を覆った女性だった。片手に刀を持っている。次々に煙があがり、何人もの黒頭巾が登場する。
「アサシンだあっ!」
誰かが叫んだ。なんで? 私、今度はアサシンを呼び出しちゃったの? アサシンとは暗殺を得意とした極めて戦闘力の高い使い魔だ。今や数十名に膨れ上がった暗殺者は、音もなく私達に襲い掛かって来た。
キャーッ! 逃げ惑う生徒たち。
追いつかれた一人の生徒にアサシンが切り付けた。生徒からきらきら光るボールが飛び出し、アサシンが取り出した袋にすっぽりと収まった。生徒はふらふらとよろめいたと思うとバッタリと地面に倒れこんだ。
「あれは、魔法力を吸い取る妖刀だ。逃げるんだ、川本さん!」
山田先生が、私の側まできて声をかける。
「くそぉー、俺が相手だあっ、生徒に手を出すな!」
「出でよ、フェンリル!」
ソフィアも灰色狼を呼び出し、応戦する。使い魔でも屈指のスピードを誇るフェンリルの攻撃でさえ、するするとかわすアサシンたち。これは本当にマズい。すでに、何名かの生徒が妖刀で切り付けられ、倒れこんだ。
ピュー、アサシンの頭目と思われる一人が口笛を吹くと、全体の半分、二十名程度のアサシンが集まる。頭目が指で行先を指示すると一斉に走りだした。
いったい、どこへ? 集団の向かう先には――保健室のある校舎が!
胸騒ぎがした私は、アサシン達の後を追う。彼らはとても足が速くすぐに見えなくなったが、迷わず保健室へ向かって走った。途中、鉢合わせしたと思われる生徒が何人も倒れていた。先生は心配だったが、倒れた生徒がショックを起こさないように、少しづつ自分の魔法力を供給しておく。
ようやく保健室に到着すると、保健室のドアは大きく開け放たれている。なかはメチャクチャに荒らされており、二人のアサシンが倒れていた。
一体どこへいったの?
向こうの方で、爆発音がして、地面がぶるぶると震えた。急いで保健室から出ると、煙が上がっているのが見えた。ちょうど中庭の方角だ。
急いで中庭へ向かう、芝生広場の真ん中で大勢のアサシンが誰かを取り囲んでいる。広場横の校舎が燃えており炎が上がっているのが見えた。
「許さないわ、私を見ろ! アルテラッツィ」
アサシンが後退りして、隙間から白姫先生が見えた。
それは、蛇の髪を持つ怪物――メドゥーサだった。
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