先生救出作戦!(その3)


 「ちょっと、常闇さん! なんで私があなたと戦わないといけないわけ?」


 ポータルは消え当面の危機は去った。私が常闇さんと戦う理由はないのだ。まあ、エキジビションマッチならやってみてもいいかな。常闇さんの凛々しい表情の裏にある本当の顔を見てみたい気もする。


 「白姫先生、勝負で私に勝つことができたら、大人しく川本さんを解放しますわ。さっきの勝負は、少し野蛮でしたわね。やっぱり暴力に訴えるのはよくありません。頭を使ったゲームで勝負といきませんか?」


 確かにここで、常闇さんに戦いを仕掛けるのは得策じゃあない。恐らく二人とも無傷ではいられないだろう。それにしても頭を使ったゲームって何だろう?


 「どうやら、ご興味があるようですわね」


 心を読んだかのように常闇さんは話を続ける。


 「トランプのポーカーはご存知ですか?」


 「ええ、知ってるわ」


 知らない人のために説明すると、ポーカーとはトランプを使った代表的な遊びで、五枚のカードを手札とし、カードの組み合わせで強さを競う。カードの組合せは「役」と呼ばれ、より難しい組み合わせの方が強い役となる。


 「では、話は早いですね。次はポーカー勝負といきましょう」


 まあいいわ、カードゲームなら怪我もしないし、いざとなったら心を読むスキルを使っちゃおう。


 「わかった、早く始めましょう!」


 「では、勝負にふさわしい場所を用意しますわね」


 常闇さんが、パチンと指をならすと一瞬で周りの景色が切り替わった。コロッセウムは消え失せ洋風の広間に私達は立っている。装飾が施された壁、赤い絨毯、輝くシャンデリアと、どこかで見たことがある風景だ。そう、藤堂さんを念写したときに写っていた部屋そのものだ。


 写真と違うのは、広間の中央に大きな円形のテーブル、玉座のあった場所に鉄製の檻が配置されている点だ。檻のなかにはスケスケの服を着た川本さんがいる。


 「川本さん! 大丈夫?」


 急いで檻に駆け寄ろうとするが、ブンと音がして魔法障壁が行くてを阻んだ。


 川本さんが鉄格子を掴んで何か言っているが声は聞こえてこない。音声も遮断されている。


 大丈夫よ、必ず助けるから……


 目で合図をおくる。


 川本さんもうんうんとうなずいた。きっと思いは伝わっているはずだ。常闇さんと私はテーブル越しに向かい合って座った。


 「カードはリリスドリームのスタッフが配ります。イカサマがないかどうか、カードを確認してくださいますか?」


 メイド姿の女の子から、カードを受け取って眺めてみるが見た目におかしな所はない。念のため魔法スキャンをかけてみるが、やはり異常はなかった。


 「さて、ポーカーは駆け引きが重要ですわ。駆け引きには代償がないと面白くないですわね。そこで、このゲームはお互いの魔法力を賭けてやることにしませんか?」


 「他に賭けるものもないし、それでいいわ」


 常闇さんは満足げにうなずいた。相当自信があるのかしら?


 「では、始めましょう!」


 メイドが、二人に五枚づつカードを配った。

 

 私のカードは……、ハートとクラブのエースが揃っている。エースのワンペアだ。常闇さんの表情は少しも変わらない。


 「では、最初なので魔法力3,000を賭けます」


 ここで自信がなければ勝負を降りてもよい。ただし降りると場所代として、魔法力500を払わなければならない。


 「オッケー、3,000で受けるわ」


 私が受けたことによって、もう一回好きな枚数カードを交換出来る。


 私は三枚、常闇さんも三枚カードを交換した。三枚カードを交換すると言うことは、普通なら交換しなかった二枚のカードが揃っている可能性が高い。つまり、二人とも同じ数字のカードが二枚揃ったワンペアであると言うことだ。同じワンペアではエースが一番強い。したがってエースのワンペアである、私が勝つ可能性が高い。

 

 交換したカードをめくってみる。やった! スペードのエースが来た。これで、エース三枚のスリーカードという役にランクアップした。常闇さんのカードは良くなったのだろうか?


 「魔法力を1,000上乗せして4,000にするわ」


 ちょっと強気になった私は、掛け金を引き上げた。ここで、掛け金を大幅にアップさせ、びびった相手を勝負から降ろさせるというのもポーカーの駆け引きのひとつだ。降りた相手は、直前の掛け金である3,000を支払らわなければならない。


 「4,000受けますわ」


 ふう、やっぱり1,000アップ程度じゃびびらないか。


 「では、カードオープン」


 お互いにカードを公開した。常闇さんの役は、クイーンのスリーカードだ。同じスリーカード同士ならクイーンよりエースの方が強い。私の勝ちだ。

 あぶなーい! スリーカードじゃなければ負けていた。ほんの僅かだか、常闇さんの眉がピクリと動いた。動揺があった証拠だ。


 テーブルサイドにモニターが設置してある。


 白姫 +4,000 

 常闇 -4,000


 と表示された。


 「第二回戦始めましょう」


 いったい、常闇さんの魔法力はどのくらいあるのだろう。そもそもなんのために、こんなことしてるのかしら? 聞きたいことは山ほどある。


 「ねえ、常闇さん、あなた何者なの?」


 「白姫先生、その台詞、そのままお返ししますわ。私はあなたを知ってますのよ。そう……、昔から」


 げげっ、昔の私を知っている? 私の黒歴史を知っているって言うの。それは何としても黙っておいてもらわなくては。よし、目の前の勝負に集中しよう。


 「いいわ、続けましょう」


 再び、五枚のカードが配られた。さてと、数字はバラバラだが、五枚中、四枚がダイヤのカードだ。後一枚ダイヤが揃えばフラッシュという役になる。


 「魔法力10,000を賭けるわ」 


 今度は私から掛け金を提示する番だ。


 「15,000にします」


 むむっ、常闇さんが引き上げてきた。いい役が揃っているのか? それともハッタリか?


 「15,000受けるわ」


 私は一枚、常闇さんも一枚交換した。交換したカードをめくると……、やったー! ダイヤの六だ。これで全てダイヤのマークになった。フラッシュ完成だ。


 「15,000のままでお願いします」


 ん、つり上げないの? あまり自信がないのね。恐らく最高でもスリーカードってとこか。


 「カードオープン!」


 常闇さんのカードは、八、九、十、ジャック、クイーンと数字が連続している。ただしマークは、ばらばらだ。


 ストレート。


 残念ながら、私のフラッシュの方が強い。常闇さんのくちびるが少し歪む。さすがに悔しいのね。


 モニターの表示が


 白姫 +19,000

 常闇 -19,000


 に変わった。


 「なかなかやりますわね、先生」


 「私、運はいい方なのよ」


 お互いにニッコリと微笑み合う。まだまだ余裕なのだろうか? それとも内心は焦ってるのかしら?


 「第三回戦です」


 配られたカードをめくる。うわっ、バラバラだ、一つも揃っていない。いわゆるブタというやつだ。どうしよう?


 「20,000でお願いしますわ」


 20,000かー、前回の倍だ。ちょっと揺さぶってみようかしら? 得意の心を読むスキルをちょっと使ってみよう。ただ、常闇さん本人に使うのは危険すぎるわね。そうだ! カードを配っているメイドの心を読んでみよう。

 

 メイドの心に意識を集中する。


 (……ちょっと、リリス様負けすぎー、ヤバイんじゃない?)


 おおっ! 心の声が聞こえる。


 (リリス様のカードここから見えないけど、そろってるのかなー? それにしても、この白姫とかいう女、運だけは強そうな顔してんなー)


 は? 運だけはってなによ! それにカード見えないんかい! 失敗だわ。


 「20,000で受けます」


 わわっ! ブタなのに受けてしまった。心を読むのに夢中になりすぎたわ。


 (先生、先生! 私です、川本です。こっちを見ちゃダメですよ)


 (えっ! 川本さん? 心が読めるの?)


 突然、救いのアイドルが登場した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る