先生救出作戦!(その4)
突然、川本さんの声が聞こえるようになった私。とうとう話さなくても心が通じ合うようになったのね。なんて感動してる場合じゃなかった。
(川本さん、いきなりで悪いけど、そこから常闇さんのカード見える?)
(えーっと、うーん……見えました!)
(えっ! ほんと? 教えて、教えて!)
(ワンペアです、五のワンペアです)
ワンペアか……、常闇さんは今連敗で弱気になっているばずだ。しかも、手持ちの役はワンペアと弱い。ここは、ハッタリを使ってみよう。
「一枚交換します」
なにも揃っていないブタだけど、あえて一枚しか交換しない。まるで四枚揃っているかのように。
「三枚交換します」
やはり常闇さんは三枚交換してきた。そろっているのは二枚だけなのだから仕方がない。交換した一枚をめくってみるが何も揃わなかった。完全なブタだ。
(川本さん、常闇さんのカードどうなった?)
(ワンペアのままですよ)
こっちはブタ、あっちはワンペアで負けてるけれど、掛け金を引き上げて勝負に出るのだ。
「25,000にしますわ」
常闇さんは5,000だけ引き上げてきた。それはそうだろう、ワンペアなのだから。よし、ここだ。
「10万でお願いします!」
一瞬、常闇さんの動きが止まった。瞬きの回数が増えている。お願い! 勝負から降りてー!
「……降りますわ」
やったあああ! ブタなのに勝ったー!
カードをオープンして、私がブタであることを知った常闇さんは天を仰いだ。
「そんな、ありえませんわ……」
白姫 +39,000
常闇 -39,000
に表示が変わった。この後、川本さんの助けを借りながら自然な感じで勝ったり負けたりして魔法力を稼いでいった。
通算成績は
白姫 +500,000
常闇 -500,000
となった。常闇さんの持っている魔法力が不明なのでどのくらい勝てばギブアップに追い込めるのかわからない。私の魔法力は元々500万で獲得した50万を加えて現在は550万だ。仮に常闇さんが悪魔や天使だったとしても500万を大きく越えるというのは考えにくい。なにしろあのルシファー様でも1,000万から1,500万ぐらいなのだから。
川本さんを通じてカードを読み取っていることに気付かれる前に、決着をつけなくちゃ。イカサマがばれたらその時点で負けとなってしまう。
「白姫先生、このゲームは相手の魔法力が分からないという点でかなり難易度が上がってますわ。なにしろ相手がどれくらい弱っているのか知る
うぐっ、恐ろしく魅力的な提案に感じちゃう。なにしろ相手の魔法力が分かれば、どのくらい魔法力を掛ければ相手を追い込むことが出来るのか一目瞭然なのだから。しかし、失う50万の魔法力が、勝負を決する鍵になることも考えられる。
負け越して追い詰められているはずの常闇さんから、こんな駆け引きを仕掛けられるなんて、思ってもみなかった。
「わかったわ、魔法力を支払うから教えて!」
結局、誘惑には勝てず教えてもらうことになった。心理的には負けている気がする。
「賢明な選択ですわ、先生。では魔法力スキャンを実行します、モニターを見てください」
常闇さんが、メイドに何か指示すると移動式の丸い台が用意された。常闇さんがゆっくりと台の上に乗ると体重計のようにモニターに数字が表示された。
5,000,000
今までのゲームで50万を失ってるのだから、元々は550万だったと言うことになる。二人とも魔法力500万で並びスタートに戻った状態だ。だが、相手の魔法力を知ってる分だけ私の方が有利だ。
「さあ、再開しましょう」
五枚のカードが手もとに配られた。カードをめくってみる。
ええっ!
四枚のキングがそこにいる。キングのフォーカード! こんなことってあるのかしら。
(川本さん、最高のカードが来たの! 一気に勝負を決めるわ。常闇さんのカードはどう?)
(はい、ワンペアです。 エースのワンペア)
ワンペア対フォーカード。これは千載一遇のチャンスだ。
「掛け金は――400万よ」
お願い勝負を受けて! 常闇さん。
「この勝負に負けると100万しか残らないということですね。どうしましょう?」
常闇さんは真剣に悩んでいる。手持ちの役はワンペアなのだ、降りてもおかしくない。
「いいでしょう。受けて立ちますわ」
受ける? 受けるって言ったの? 常闇さん、私はフォーカードなんだよー!。
「一枚交換するわ」
「私は全部交換しますわ」
全部ですって! 揃っているワンペアも捨てて交換するって言うの? いったい何考えてるのか分からない。
興奮している私とは関係なく淡々とカードが交換された。新しい一枚のカードを開く。
ジョーカー!
ついている。どこまでもつきまくっている! これで揃った四枚のカードに、何にでもなるカードのジョーカーが加わり同じカード五枚の組み合わせ、ファイブカードとなった。
これに勝てる役はひとつだけ、同じマークの十、ジャック、クイーン、キング、エースの組み合わせ、ロイヤルストレートフラッシュだけだ。
あれ? 常闇さんは配られたカードを開かない。
「カードは見ません。そして掛け金を500万にアップします」
な、な、なんですってー! そんなバカな! これを受けて負ければ私も終わりだ。すべての魔法力を失う。しかも自分のカードを見ないなんて。
(先生、先生、どうしたんですか? 常闇さんがカードを開きません!)
(自分のカードを見ないで勝負するって言ってるわ)
カードを全部交換したうえにカードを確認せずに勝負に出る。通常では考えられない無謀な行為だ。でも……、もし向こうもイカサマをしているとしたら。もし、イカサマでロイヤルストレートフラッシュを揃えているとしたら。勝負を降りれば、まだ100万魔法力が残る。どうする? 降りる?
(川本さん、常闇さんの動きに怪しいところは無かった?)
(ごめんなさい、先生。気が付きませんでした)
背中から冷たい汗が噴き出してくる。いや、ただのハッタリかもしれない。私が降りることを狙っての演技かも。どうする? どうすればいいの?
「どうしました先生、顔色がよろしくなくてよ」
くそっ、どうして涼しい顔してるの? イカサマ? ハッタリ? いったいどっちなのよ。圧倒的有利なはずなのに……、答えを知っているのは常闇さん本人だけだ。
そうだ! 奥の手があった、常闇さん本人の心を読むのだ。私の一番の得意技だ失敗するはずがない。
意識を集中して、落ち着け、落ち着け私。慎重に常闇さんの心にアクセスする。
やがて聞き覚えのある良く通る声が心に語り掛けて来た。
(待ってましたわ、先生。イカサマはよくありませんわね)
――ああ、やられた! 完全に読まれていたのだ。ごめんね川本さん。
常闇さんがカードを裏返す。そこには、同じマークの十、ジャック、クイーン、キング、エースが綺麗にならんでいた。
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