先生と黒髪美少女(その2)
はっ! 寝ちゃった?
目を開けるとそこは、さっきまでいた居間ではありません。和風のお屋敷にいたはずですが、今いるのはどう見ても洋風の広い部屋です。
目の前の床は一段高くなっており、これまた美しく飾られた赤いビロード張りの椅子が置かれています。
テレビや雑誌で見たことのあるお城の広間のようです。目の前にある椅子は玉座なのでしょう。
えっ! 今気が付きましたが、自分は制服を着ていたはずなのに、今は黒いミニスカートのワンピースを着て白いエプロンを付けています。これは……、メイド服というやつでは。ちなみに白いハイソックスも着用しています。
「ようこそ! 藤堂さん、リリスドリームの世界へ」
いつの間にか、隣に常闇さんが立っていました。同じく制服ではなく、黒いレザー素材のぴったりした服を着ています。長い髪もアップにして妖艶な雰囲気に変わっています。
「常闇さん、ここはいったい?」
「はい、今申しました通り、リリスドリームのなかにいますわ」
「リリスドリーム?」
全く訳が分かりません。これは夢なんでしょうか?
「ごめんなさい。藤堂さん。説明させて頂きますわ。リリスドリームとは私が提供している
試しに床の絨毯を触ってみますが、ふわふわとした感覚はすこしも違和感がありません。ベタですがほっぺをつねってみてもちゃんと痛みを感じました。
常闇さんが近づいてきて、指で私の頬をふれました。少し暖かい指の感触と恥ずかしさを感じました。どうみても現実としか思えません。
「まだ、信じられないようですね、では……」
常闇さんは玉座の右手にある扉まで行くと、ゆっくりと開きました。
「姫さま、お入りください」
衣擦れの音がして、鮮やかなブルーのロングドレスを身にまとった女性が部屋に入ってきました。腕には同じ色の長い手袋をしています。
「うそっ、かすみ先輩!」
入ってきた姫と呼ばれた少女はどこからどうみても、かすみ先輩です。
「おおっ! 一花ではないか、何をしておるのじゃ?」
コスプレドッキリなのでしょうか?
「ちょっと、かすみ先輩、どうしたんですか? コスプレ大会ですか?」
「こすぷれたいかい、なんじゃそれは? それに、わらわはお前の主人じゃぞ、姫さまと呼ばんか」
ためだ、完全にお姫様になりきっています。この成りきりプレイに付き合うしかないのでしょうか。
つかつかと、常闇さんが近寄ってきて耳打ちします。
「いいですか、この世界を楽しむのも、楽しまないのも、あなた次第ですのよ。この世界はあなたの願望を元に創られてますの。きっと望みが叶いますわ」
私の望み? 私の望みはひとつしかありません。それが叶うと言うのですか?
再び、常闇さんが扉まで行くと
「さあ、あなたたち入りなさい」
と声を掛けました。
更に、二人の女性が部屋に入ってきました。二人ともメイド服姿です。
「じゃこるん! ソフィア先輩!」
そうです、入ってきたのは、じゃこるんとソフィア先輩でした。ソフィア先輩は完全にお人形状態ですが、じゃこるんはエロメイドって感じです。
二人は、かすみ姫の前に
「お呼びでしょうか? かすみ姫様」
「うむ、揃ったようじゃな。りりす説明せい」
「かしこまりました、姫様。これから今日一日姫様のお相手をするメイドを三人のなかから選びます。姫様の質問に一番良い答えが出来たものを適任とします。以上ですわ」
お相手とはいったいどんなことをするのでしょうか? メイド役なのでやっぱり身の回りの世話全般なのかもしれません。かすみ先輩と一日過ごせるのはとっても魅力的に思えました。こうなったらなんとしても選ばれてみせます。
「では、質問じゃ。私の魅力的と思える体の部分はどこじゃ?」
最初は、ソフィアメイドが答えます。
「美しい髪です。サラサラでいい匂いがするのです」
うんうん、納得ですね。思わず触りたくなるのですよ。
「うむ、この髪と申すか? お前の金色の髪もなかなかじゃぞ」
続いて、じゃこるんメイドの番です。
「くちびるです。柔らかくて
あー、やっぱりエロ目線でした。おっさんか! とつっこみたいです。
「うむ、くちびるとな? お前と違い口づけなどしたことないがの」
最後に私の番となりました。
「手です。触れられるだけで天にも上る心持ちです」
かすみ姫は、何も言いません。気に入らなかったのでしょうか? 姫が常闇さんを呼び何かを耳打ちしました。ふんふんとうなずく常闇さん。
「姫のお相手は、一花とする」
やったー! ちょーうれしいです! がっくりとうなだれるソフィアとじゃこるん。ごめんなさい。
「一花、ついてくるがよい」
かすみ姫と常闇さんの後についてお城の廊下を移動します。いくつもの角を曲がりやがて中庭のような場所にたどり着きました。綺麗に手入れされた庭園と芝生の緑が目に飛び込んできました。
「では、姫様、一花殿、ごゆっくり」
そう言い残すと常闇さんは姿を消し、二人っきりとなりました。あっ、そう言えば――ひらめいた私がポケットを探るとやはり白いハンカチが入っていました。急いで芝生の上に拡げます。
「さあ、姫様、お座りください」
「おお、すまぬの。お前も座るがよいぞ。いや、ちょっと待て」
そう言って姫様は、胸元から刺繍の入ったハンカチを取り出し、私のハンカチの隣に拡げました。
「そんな、姫様のハンカチが汚れてしまいます。もったいないですよ」
「よいよい、ハンカチは洗えばよいのじゃ、気にするな。さあ、せいのー」
姫様の掛け声に合わせて座ってしまいました。余りのうれしさに顔がにやけてしまいます。
「なんじゃ、ずいぶんとうれしそうじゃの」
「はい、姫様と二人きりになれるなんて夢のようです」
「そうか、夢のようか、ふふっ、実はの、最初から決めておったのじゃ……お前と一緒に過ごすとな」
「うれしい! 姫様」
思わず姫様に抱きついてしまいました。ほおとほおがふれあい、とても心地よいのです。戸惑っていた様子の姫様の手が私をしっかりと抱き寄せました。さーっと爽やかな風が中庭を吹き抜け、姫様の髪から甘い香りがしました。
姫様とのお食事、お茶の時間、お散歩と誰にも邪魔されることなく二人の時間を満喫しました。夕食を済ませると姫様は一旦おひとりで部屋へ戻られ、私は広間に一人残されました。一体この楽しい時間はいつまで続くのでしょうか? 永遠に続けばいいなあ、などと考えていると、扉が開き、常闇さんが入ってきました。
「さあ、姫様がお待ちですわ。こちらへいらして」
常闇さんに案内されたのは、姫様の寝室でした。
「では、私はこれで失礼致しますわ。良い夜を」
意味深な笑みを浮かべながら、立ち去る常闇さん。とうとう、姫様と……、かすみ先輩と一夜を共にする時がやってきました。ノックをする手が震えてしまいます。
私は、すっかり「リリスドリーム」の住人となっていたのでした。
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