先生と黒髪美少女(その1)
こんにちは! 藤堂
皆さん、聞いてください。なんと、かすみ先輩、ソフィア先輩、私の三人がチームを結成することになりました。じゃこるんの単なる思い付きから始まった話なんですけどね。
チーム最初のミッションは、魔法が使えなくなった少女の謎を解くこと。
へへ、これ私のアイデアなんです。かすみ先輩にいいとこ見せたくて思わず張り切っちゃいました。とは言ったものの全くあてがありません。
今わかっていることは、被害者の生徒達が、魔法が使えなくなる直前に何かを見たということ。しかも何を見たのか覚えていないんですよね。困ったもんです。
まず、魔法が使えなくなった生徒を発見して話を聞かないといけません。そうです、こんな時こそじゃこるんの出番なのです。
「じゃこるん、魔法を使えなくなった生徒の心のケアをお願いします。職員会議で提案して下さい」
「心のケアってどんなことすればいいのかしら?」
「いつも、かすみ先輩にしてあげてるみたいに話を聞いてあげてください、話を聞きながら彼女たちが一体何を見たのか探るんです」
「ああ、お話を聞いてあげればいいのね、まかせて」
世話が焼けるじゃこるんです。しばらくして、被害者の生徒達が保健室にやって来ました。やっぱりプライバシーに関わる話なので、私は同席出来ません。心配ですが、じゃこるんに任せることにしました。
「どうですか? 何かわかりましたか?」
じゃこるんに結果を尋ねました。
「それがねー、みんなとってもいい子たちだったのよ。美術部の立花さんなんか泣き出しちゃってさー、私もうるってしちゃった」
「なんか、変なことしなかったでしょうね?」
また、おかしな魔法を使ってないか心配になった私は思わず尋ねました。
「してないわよ! 先生をなんだと思ってるの? 藤堂さん」
「変態です。正真正銘の変態教師です」
「うっ! ひどい……」
本気でへこんでそうなので、この辺でやめておきましょう。
「 それでね、藤堂さん、彼女たちが何を見たのか? なんだけど…… じゃーん! 念写しましたー」
「盗撮?」
「ちがーう! 盗撮じゃなくて、念写、ねんしゃよ。彼女たちの潜在意識内にある風景を写真に写したの!」
おおっ、やるではないですか、じゃこるん! 心のなかを写真にとるのは技術的にはそれほど難しいことではないのですが、お互いに心を開きあっていないと出来ないのです。
「ほう、女子高生の心を
褒めるつもりが思いっきりディスってしまいました。
「人聞きの悪いこと言わないでくれる、はい、これがその写真」
じゃこるんは、ノートパソコンをぐるっとこちらに向けて写真を見せてくれました。写真には、いくぶんぼやっとしていますが、大きなお屋敷が写っているようです。立派な門構えと瓦
他の写真も角度や大きさは違いますが、似たような屋敷が写っていました。
「誰かの家ですかね? 見覚えありますか?」
「ないわね。生徒たちも見覚えのない建物だって言ってたわ。もちろん記憶から消えているだけかもしれないけど」
この町にこんなお屋敷あったでしょうか?
「よし、川本さんと、ソフィアさんにもメールで送っとくわ。なにか分かるといいわね」
今日の活動はこれでおしまいとなりました。
友達と別れいつもの帰り道を歩いていきます。見慣れた交差点、見慣れた町並みが続きます。あの角を曲がるともうすぐ我が家です。
あれ? こんな道あったっけ?
突然現れた、見慣れない脇道。新しく道ができたのでしょうか? 緩やかに右にカーブして奥に続いている細い道がとっても気になります。
好奇心に負けて、探索してみることにしました。両わきは家の壁や生け垣が続いていて見渡しが悪い道です。少し行くと今度は左に曲がっています。人気がなく、物音もしません。それでも進んで行くと、正面に大きなお屋敷が現れました。
とても大きな和風のお屋敷で、立派な門へと道は続いています。瓦
――この屋敷は!
そう、写真に写っていたお屋敷そのものです。我が家のすぐそばにあったなんて、信じられません。
もっと近寄ってみると、「常闇」と書かれた表札が掛かっています。じょうやみ? つねやみ? なんと読むのでしょう?
うん? まてよ、確か川本先輩たちのクラスに超絶美人の転校生がやって来て、名前は「とこやみ」さんだったはずです。珍しい苗字なので、その人の家かもしれません。
よくみると、門が少し開いてます。まるで、入ってこいといってるようです。
「ごめんください……」
門の隙間から少し覗きこんで、声をかけましたが返事はありません。なかは屋敷の玄関に続くお庭になっているようです。いけないとは思いつつ中に入ってしまいました。砂利が敷き詰められているかなり広いお庭です。ちいさな松の木や庭石がいいバランスに配置されています。
「お庭、気に入って頂けたかしら?」
えっ! いつの間に? 突然、声を掛けられて思わずぎょっとしてしまいました。慌てて振り向くと、制服姿の少女が立っています。腰まである長い黒髪が風にさらさらと揺れて、鋭い光を放つ瞳が真っ直ぐに私をとらえていました。
「ごめんなさい! 勝手に入ってしまいました」
「ふふ、よくってよ。サイコ学園の生徒さんね、歓迎しますわ」
にっこりと微笑む黒髪美女。
「あの、もしかして川本先輩と同じクラスの
「あら、川本さんをご存知なの? 先輩ということは一年生ね。そのとおり、同じクラスの
「私は、藤堂
女神のような川本先輩とは違う、クールだがそれでいて
「藤堂さん、せっかくだから少し上がっていらっしゃったらどう? お話しましょう」
いろいろ聞きたいことはあります。少し悩みましたが、上がってお話することにしました。
玄関から長い渡り廊下を歩いていき、障子の引戸をあけると客間になっています。私と常闇さんは、木の机をはさんで座りました。しばらくすると、お手伝いの女性らしき人が、お茶とお菓子を運んできてくれました。
「あの、立派なお屋敷ですね。私、この近くに住んでるんですが、全然知らなくて」
「ありがとう、実は最近引っ越してきたんですの。なかなかいい町だって気に入ってますのよ」
常闇さんの物腰はとても柔らかくて、言葉や仕草から上品さが伝わってきます。多分、お嬢様なのでしょう。
「川本さん、とても素敵な方ですわね、この間、学校のなかを案内してくださって、ずいぶんと助かりましたわ」
そっかー、川本先輩らしいなー。先輩が誉められているのを聞くと、自分のことのように嬉しいのです。今回の調査も頑張って先輩にぎゅっと、抱き締めてもらいたいです。
「そうなんです! 川本先輩はとっても素敵なひとなんですよ! この間も――」
嬉しくなった私は、先輩のいいひとエピソードを語ってしまいました。常闇先輩は、ただただ、黙って聞いてくれました。
「――ったんですよ、……あれ? ごめんなさい、私ばっかりしゃべっちゃって」
すこし恥ずかしくなりました。
「ふふっ、かまいませんわ。さあ、喉が渇いたでしょう。お茶を召し上がったら?」
勧められるがまま、お茶を頂きました。とっても美味しいジャスミンティーです。香りでとても癒されました。なんだかとても眠くなってきました。目を開けてられません。
「藤堂さん、藤堂さん、どうされたの……」
私を呼ぶ、常闇さんの声がだんだんと遠くなっていき、やがて何も聞こえなくなりました。
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