先生と話したいお兄ちゃん(その1)
大悪魔アスタロト様の右腕と言われた俺、メフィストフェレス。この間とうとう、アス様と再会してしまった。それにしても、アス様が、あんなに優しい川本さんのなかにいるなんて、ほんと似合わねー。
念のために説明しておくが、アス様は女性の悪魔だ。褐色の肌を竜のような
ある時、俺は任務でミスをおかしてしまいアス様に呼び出された。アス様は、豪勢な椅子に足を組んで座っている。
「メフィスト! そこに
「お許しください! アスタロト様」
ひれ伏す俺の頭を、足で踏みつける。
「どうだ、メフィスト? もっと欲しいか? ほれ、ほれ」
「ああっ、お止めください! このような辱しめ耐えられません」
歪んだ笑みを浮かべるアス様。息が荒くなっているのがわかる。
「お前、私をいつもいやらしい目でみているであろう? 白状せい」
「ううっ、それは……」
「ふははは、メフィスト、ばれてないとでも思ったか! 愚か者め! さあ、どこだ? どこを見ておったのだ?」
金色の瞳が
「アス様の……、その……、ちょうど良い大きさの胸のふくらみです」
アス様の体がぶるっぶるっと震えるのが分かった。
「ちょ、ちょ、ちょうど良いとはどういう意味なのだ?」
「私の手にすっぽりと収まり、揉むのにちょうど良いのです」
「はわわわ! お前の汚らしい手がぁ、わ、わ、私のものをすっぽりとぉー」
「はい、お望みであれば、可愛らしい先っぽをコロコロと転がして差し上げましょう」
椅子の上でのけ反るアス様。ドSで有名なアス様だが、俺と二人きりになると急にドMになってしまう。可愛いものだ。
「さ、さ、先っぽをぉぉ、コロォコロォォォ! うぐぐ」
組んでいた足はいつの間にかだらしなく開いて、ここからパンツが丸見えだ。
「ところで、アス様、これは何ですか?」
俺は、隠していた黒いパンツを目の前でひらひらさせる。
「なんじゃ、知らん! 知らんぞ、そんなもの」
「これは、だらしないアス様がお部屋に脱ぎ捨てられていたパンツです。仕方がないので持って参りました」
「知らんぞ、私は脱ぎ捨ててなどおらん」
あくまで、しらをきるアス様。仕方ない、あれをやるか。
「ほほう、違うとおっしゃるのですね。では、確かめてみましょうか?」
「確かめる?、どうやって確かめるのじゃ? ま、まさか……」
俺は、黒パンツを自分の鼻におしつけて、思いっきり息を吸い込む。
「ひいいい! やめろぉぉぉ! 汚らしいぃぃぃ」
「うわっ、メスくせー、盛りのついたメス豚の匂いがプンプンしやがる!」
「はああっ、ひいいいっ、あううう」
椅子から転げ落ちたアス様は、ぐったりとしている。おそらく満足したのだろう。
これが、アス様の右腕と言われた俺の仕事だ。
さて、話を戻そう。サイコ学園に教師として潜伏している俺は、昔の同僚で妹のような存在、エヴァトレーネ――学園では養護教諭「白姫蛇子」になっている――が気になっている。先日は、担任しているクラスの生徒、ソフィアが放ったグングニルの槍で危険にさらしてしまった。本当は、威力の弱い
俺は、何も出来なかった。
よし、こうなったら、なんとか二人っきりになるシチュエーションをつくろう。あいつは、よく芝生広場でもぐもぐ何かを食べている。人目を避けているようなので二人っきりになれるかもしれない。何度か、芝生広場を覗きにいってるとエヴァを見つけた。コンビニの袋をゴソゴソとやってるところだ。
よしっ、今だ。エヴァのところに行こうと踏み出した瞬間。
「せんせー!」
川本さんが、すごい勢いで駆けてくる。さっと隠れる俺。
「せんせー、また、コンビニチキン食べてるんですか? もー、偏った食事は体に良くないですよっ! これ、良かったら食べてください」
カバンから可愛らしいランチボックスを取り出す。
「わー、ありがとう。川本さん! 一緒に食べようか?」
隣同士で座り、お弁当を食べだした。うふふふ、美味しいー。とっても楽しそうな二人に入り込む余地はなさそうだ。これでは、出直すしかない。
そうだ、あいつは普段、保健室にいる。具合が悪くなったと言って保健室に行けばいいのだ。簡単じゃないか。職員室でわざとらしく、ゴホッゴホッと咳をしてみる。
「あー、風邪かなあ?」
と独り言をいいつつ、ちょっと保健室に行ってきまーすと職員室をでる。
保健室のドアにむかって歩いていると、誰かがドドドと俺を追い越していった。そいつはノックもせず、ドアを開けると保健室に入っていった。この間、俺が成り済ました藤堂一花だ。少し開いているドアから中の様子を伺ってみる。
「じゃこるん、相談があります!」
「藤堂さん、何度も言うけど入るときはノックをしてね」
「私、好きな人が出来ました!」
「ええっ、そうなの?」
じゃこるん? エヴァのことか? どちらにしろ、これでは入っていけない。またしても失敗してしまった。なかなかうまくいかない。次はどうするか? 悩む俺。悩んだ末に帰り道に後をつけることにした。あいつは、帰るときに校庭を通るはずだ。校庭の監視を続けていると、来た! あいつだ。急いで帰り支度をして後を追う。
校門を出て、道を歩いていくエヴァを少し離れて追いかける。よし、そろそろ声をかけるか。あの角をまがったら声をかけよう。スタスタスタ。だめだ、声をかけられない。いざ、声をかけようとすると緊張してしまう。そもそも、何て言って声をかければいい?
「久しぶりー、覚えてるー?」とか、「この間は悪かった、ゴメン!」とか
いやいや、なんかしっくりこない。冷たくされたらどうしよう? エヴァはいいやつだからそんなことはないと思うが、今は対立している勢力に属している立場だ。そんな事を考えていると大通りから裏道に入っていく。
焦って後を追うと、古いビルの前で立ち止まった。カバンからカギを取り出すとドアを開けて中に入っていく。ところどころ壁が剥がれていたり、ガラスが割れていたりと普段使われていないビルのようだ。
こんな所になんの用だ?
不審に思いながら続いてビルに入ろうとするが、カギが掛けられている。くそっ、どうする? 魔法で開けるか? あいつがわざわざカギを使ってドアを開けていたことを考えると、魔法感知型のトラップが仕掛けてある可能性がある。ここは、安易に踏み込むのは危険だ。ピッキングしてドアを開けるか? 誰かに見つかって通報されてしまう可能性があり得策ではない。
何かヒントはないか、ビルの周りをぐるっと回ってみることにした。
ニャー、ニャー。猫の鳴き声が聞こえる。ビルの裏側に回ってみると一匹の猫が誰かを呼ぶように鳴いている。俺が近づいていくと、一瞬じっと俺を見たかと思うと次の瞬間、素早く逃げ出した。トントンと壁の出っ張りを飛び上がり少し開いている窓からビルのなかに消えていった。
どうやら、その少し開いている窓から入れそうだ。
「カットゥース、フィーテ」
呪文を唱えて黒猫に変身する俺。もしかしたら罠かもしれないが、ここは行くしかない。トントンと駆け上り、慎重に窓から中に入る。
この先に待ち受けるものは何だろう? 勇気を出すため自分に言い聞かせる俺。
ゴー、メフィスト。頑張れメフィスト。待ってろよエヴァ!
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