先生のアイドルになりました
私、
学校帰りに立ち寄ったコンビニで、可愛らしい表紙につられて読んでみたところハマってしまい、結局買ってしまった。店員の若い女の子が、一瞬チラッと私の顔を見たような気がしたが、気のせいだろう。
『月刊百合っぷる』
という雑誌名と共に、制服姿の可愛い女の子がにこやかに微笑み合っているイラストが描かれている。女の子のひとりが、川本さんに似ていたので気になったのだ。私好みの美少女たちが織り成す、様々な恋愛模様を描いた漫画が沢山載っており、大満足だった。
あれっ? この子は、藤堂さんっぽいわね。カッコいい先輩に振られた不器用な女の子が、目立たないけど優しい先輩に次第に
負けじと私も、サイコ学園のアイドル三人を勝手に選んでみた。
まず、学園の突撃娘「藤堂
最期に、私のアイドル「川本かすみ」ほんわかおっとり癒し系、誰に対しても惜しみない愛を与える女神。どんどん私色に染まっていく魔性の一面も。
あー、幸せ。毎日、私のアイドル達を眺めているだけで満足してしまう私がいる。いけない、いけない、お仕事もちゃんとしなきゃね。私の仕事って何だっけ? なーんて、忘れてないわよ。ある魔法少女に封印されている世界を滅ぼす力を手に入れること。どうも川本さんに封印されてるっぽいんだけど、封印解いちゃうと人間界が滅んじゃうし、たぶん学園もなくなっちゃうだろうし、私のアイドル達はどうなっちゃうの? て考えるとなんか複雑よね。
そんな私のアイドル達が魅力を爆発させる出来事がついに起こった。藤堂さんが、突然、保健室を訪ねて来たのだ。
「じゃこるん、相談があります!」
ノックもせずにいきなり入ってきたのにもびっくりしたけど、挨拶もなしに相談がありますって困った子ね。だいたいじゃこるんって、初めて呼ばれたんだけど。
そんな、藤堂さんの相談とは、好きな先輩に告白して振られたっていうものだった。この子のことだから、好きな気持ちを一方的にぶつけちゃったんだろうね。その先輩にはすでに好きな人がいたらしいんだけど。
でもね、本当に好きな人にそこまでストレートに感情をぶつけられるものかなあ? ちょっと違和感を感じてしまったんだよね。挙句の果てに、人を好きにさせる魔法ありますか? って言い出す藤堂さん。速攻で、「ない」って答えちゃったけど本当はあるのよ。
どうしたらこの子のためになるかなあって考えてたら、いいタイミングで川本さんがやって来た。よし! これでいこう。私はある実験をしてみることにした。藤堂さんに本当に人を好きになった時の気持ちを疑似体験させつつ、川本さんの魔法力を引き出すきっかけにもできる、まさに一石二鳥のグッドアイデアだった……はずなんだけど。
間違っても私の趣味ではないから、勘違いしないでね。
藤堂さんの魔法力が足らないみたいだから、私の魔法力を供給しつつ、実験開始。お互いに手を繋ぎ合う私のアイドル。戸惑ってる様子が、たまらない。お互いに呪文を唱えあって、さあどうなる? 藤堂さんが私と繋いだ手をすぐ離す。うっ、ちょっと傷ついた。川本さんの手はなかなか離さない。ていうか、離すつもりないだろ。
いつの間にか、川本さんが藤堂さんに密着してるー! 穏やかな慈愛に満ちた表情を浮かべている。これは、テレビでみた観音様の表情そのものだ。悪魔である私でさえ、癒されてしまう。明らかに様子のおかしい藤堂さん、恥ずかしそうに真っ赤になっている。そんな表情もできるのか? 君は。
おおっ! 顔がだんだん近づいていく。まさか、いやいやだめでしょ。川本さんが鼻を擦り付けている。焦らしてる? いつそんなテクニック覚えたの?
いやん、見つめ合ってる。もうお互いしか見えてないって感じ。先生も混ぜて。
あーっ、あーっ、くちびるがっ! 触れちゃう。ストーップ! やめーっ!
危ない、危ない。一線を越えちゃうところだったわ。
川本さん、あんた、観音様の皮を被った悪魔だろ。あの突撃娘の藤堂さんも完全に恋する乙女になってたし。
この実験以来、藤堂さんはすっかり川本さんになついちゃったみたいで、めでたし、めでたし。
後日、再び私のアイドルが保健室に集う機会がやってきた。藤堂さんが川本さんを誘ってやってくるのだ。うー、楽しみー。さすがに実験は出来ないけど、三人でおしゃべり出来るだけで、とっても癒されちゃう。
保健室で待ってたら、急に職員室に呼び出されて約束の時間に遅れっちゃった。
ガチャ、「お待たせ―」勢いよくドアを開けて保健室に入ろうとした私。
うわっ! 油断した。とんでもない魔法力が展開されていることに気付いたけど遅かった。スローモーションのように銀色の尖った物体が迫ってくるのが見えた。
――かわせない。
あー、川本さん、藤堂さん、ソフィアさん、私のアイドルたちの姿が走馬灯のように通り過ぎていく。みんな仲良くするんだよ……。
私の目の前をさっと人影が塞いだ。川本さん? だめーっ! ぐにゃりと空間が歪む、暗闇を急速に落ちていくような浮遊感のあと、急ブレーキがかかる。おしりに冷たさを感じてコンクリートの上に座っていることに気付いた。
ここは――廃ビルの地下室。私に寄りかかってぐったりしているのは川本さんだ。制服の背中の部分が焦げて穴が開き、地肌が露出している。少し赤くなっているが、怪我はしていないように見える。
膝の上にそっと寝かせて、呼びかける。
「川本さん! 川本さん!」
ゆっくりと目を開ける川本さん。良かった、目を覚ました。恐らく川本さんは、私の盾になって飛んできた何かから守ってくれたに違いない。何ていい子なんだろう? 私なんかのために自らを犠牲にするなんて、あんた本当に観音様じゃないの?
「今度は私が先生を守りたかったんだ、いつも助けてもらってばっかりだから」
うはっー、またきゅーんってきたー! どんどん愛おしさが込み上げてきて川本さんのおでこにキスしてしまった。
断言しよう。やっぱり私のアイドルは最高だ。
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