先生と特訓しました(その1)

 

 とうとう週末がやって来た。待ちに待った白姫先生との特訓の日だ。藤堂さん事件のあった日は、ソフィアとの勉強会中も、ソフィアの好きな人のことが気になって全く勉強に身が入らなかった。


 もうひとつ気になるのは、談話室のなかの声が外から聞こえたことだ。

 実験したわけではないけれど、私のいた場所から二人の声が聞こえることはなさそうだった。事実、肝心な部分は聞こえなかった。


 「はい、これが特訓場所の地図。分かりにくいから、最寄りのコンビニで待ち合わせしましょ」


 朝、先生から受け取った地図を拡げてみる。学校からは歩いて5分くらいの場所だ。連絡用に先生の携帯の番号も教えてもらったし、早く放課後にならないかなー。

 

 特訓てどんなことやるんだろう? イメージが全然わかない。まずは基礎体力をつけましょうとか言って、走ったり、筋トレしたりするのだろうか? 滑舌をよくするため発声練習したりして。

 

 いろいろと妄想をたくましくしているうちに放課後になった。

 急いで待ち合わせ場所のコンビニに行く。

 駐車場にサングラス姿の白姫先生を見つけた。いつもの白衣ではなくブルーのシンプルなシャツにパンツ姿だ。

 うわっ、目立ってるよー。足ながーい。顔ちっちゃーい。

 

「せんせー!」


「川本さーん」


 笑顔で手を振る先生。特訓にいくというよりはデートの待ち合わせという感じだ。


「じゃ、ついて来てね」


 先生の後をついていくと、ちょっと古い感じのビルに到着。壁の一部が剥がれたり、窓ガラスが割れてたり、使われていそうにもない建物だ。


 うっ、ヤバそうな雰囲気。


 先生はバッグから鍵を取り出して、ガチャリと扉を開けた。一応、施錠してあるんだ。


「さあ、さあ、入って入って!」


 私が入るのに躊躇していると、先生は、はっと気付いたふうに言う。


「ああっ、ごめんなさい! もっと立派な場所だと思った? でも大丈夫、ちゃんとオーナーには許可もらってるし、こう見えて便利なのよ」


「そ、そうですか」


 おっかなびっくり中に入ってみると、先生の言う通り、ビルの中は比較的きれいだった。いくつか部屋があるが、どれもコンクリートむき出しの殺風景な部屋で家具らしきものは置いていない。


奥の広い部屋に先生は入っていく。壁を壊そうとしていたらしく、床に瓦礫が転がっている。


「足元に気を付けてね」


 歩くたびに小石でジャリジャリ音がする。よく見ると一ヶ所、石が取り除いてあり、金属製の取っ手が見える。


 先生は、取っ手をつかみ


「川本さん、手伝ってもらえる?」


と言った。


「いちにのさーん!」


一緒に取っ手を引っ張ると、扉が開き、地下への階段が現れた。


「先に降りるから、後から降りてきてね。足を滑らせないように気を付けてね!」


 階段は、明るい光で照らされている。電気の光じゃない不思議な光、妖精灯だ。影が出来ずとても見やすい。階段を降りるとかなり広い部屋だった。やはり、四方がコンクリートで扉や窓はない。


 壁際には金属製のパイプや石のブロックが積まれ、スコップなどの道具も置いてある。部屋の中央には……えっと、魔法陣?


「ああ、それ、先生の書いた魔法陣よ、クレヨンで書いたの」


 よく見るとちょっと歪んでいる。

 

「ふふ、ここに来るのは川本さんが初めて。まあ、先生の秘密基地ってとこね」


 初めてと聞いてちょっとうれしくなった。

 

「よし、じゃあ特訓を始めるわよ、準備はいい? 川本さん!」


「はい、お願いします! 先生」


「まずは、川本さんの本当の魔法力を測定するわ、魔法陣のなかに立ってみて」


「はい」


 少し歪んだ魔法陣の中央に立つ。どうやって測定するのだろう?

 

「ディクミヒ ジェヌイン エゴ エリス」


 先生が呪文を唱える。

 

 しばらくすると、ゴゴゴゴゴゴゴと地響きのような音が聞こえてくる。魔方陣がキラキラと輝きだした。何か文字が浮かび上がった。


 54300


 ごまんよんせんさんびゃく?


 なんの数字だろう?


「川本さん、素晴らしいわ、あなたの魔法力は54300もあるのよ」


「は、はあ……ありがとうございます」


 それってすごいのか? そもそも平均はどれくらいなのかしら?


「普通はどれくらいなんですか?」


「……えっと、1000位かな」


 1000? たったの1000?


「まずは、10000ぐらいをコントロール出来るようにしましょうか?」


 先生は困惑する私にかまわず話を進めていく。


「10000だとそうねー、うん、これにしよう!」


 ぺらぺらとノートをめくる先生。


「アニマ、アニムス、メンス、コルプス」


 何の呪文?


「さあ、リピートアフターミー、ミス川本!」


「アニマ、アニムス、メンス、コルプス」






 何も起きない……、ん、んんん?


 目の前に、内気そうな女子高生が見える。よく見る顔だ。確か今朝も洗面台でみたような……!

 って、私? なんで? 私がいる!

 

 はっ、先生は……どこ? そういえば見える風景がいつもと違うような。視点がいつもより高い。


 えっ!


 胸が、私の胸が……! 盛り上がってるぅぅぅ!

 思わず触ってみる。おっきいい! デカイ。柔らかーい。はわわわわ、これは?


「どう? 川本さん、これが肉体を入れ替える魔法よ。驚いた?」


 目の前の女子高生が、嬉しそうに言う。


 そう、先生と私の体が入れ替わっている。


 メリハリボディの白姫先生が、ただ細いだけの私の体に入り、貧乳の私が巨乳の先生の体に入っているのだ。


 突然、魔方陣がキラッと光った。


 今度はなに? 文字が浮かび上がったように見える。


『たのしそうだな』


 そう書いてあったように見えた。


 次の瞬間、目の前の川本かすみは、ガクッと力が抜けたようになって、操り人形のような姿勢になった。頭もがくりとうなだれている。


「先生、大丈夫?」


 駆け寄ろうとした瞬間、ゆっくりと顔をあげる中身が先生の私。


「こっちへ来なさい」


「え! は、はい」


 強い調子で命令され、先生のすぐそばまで行く。


 次の瞬間、先生が私の胸に飛び込んでくる。私のくびれたウエストにしっかりと、手をまわす。


 ほおを柔らかい胸の膨らみに押し付けられて


「うっ」と声が出てしまった。


「あのときも、こうしてくれたよね、川本さん」


 保健室で私が先生の胸に飛び込んでしまったときのことを言ってるとわかった。目の前の少女に、いとおしい気持ちがわき上がってくる。サラサラの髪を撫でてあげる。


「私もそんな気持ちだったのよ」


人差し指で少女の顎をくっと持ち上げる。虚ろな表情で、くちびるは少し開いている。私、こんな顔してたんだ。これじゃ、まるで牝犬めすいぬだよ。

 キスもしたこと無いくせに……


 いいわ、あげる。あなたが一番欲しかったものをね。保健室で、どれだけあなたがいやらしい目でこのくちびるを見てたか知ってるもの。


 目の前の少女のくちびるに自分のくちびるをゆっくりと重ねる。すぐに強く吸ってくる。少女の息が荒くなっていくのがわかる。


 なにが、魔法少女よ。


 こんなことに夢中になって。


上側のくちびるを軽く吸ってあげた。少女の全身が硬直するのがわかった。なんてチョロいんだろう……


 腰に回されていた少女の腕が、首に絡み付く。

ちょっと、強いよ。苦しい。頭がぼーっとなって、ゆっくりと闇に堕ちていく。


 せんせい……


 それっきり、何も分からなくなった。

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