先生と特訓しました(その2)

 私、白姫蛇子しろひめじゃこは、コンビニの駐車場で人を待っている。 

 私が働いている魔法少女育成学校「サイコ学園」の生徒、川本さんと魔法の特訓をするのだ。

 川本さんが、保健室に来た時に誘ってみたところなんとかOKをもらった。特訓場所は、私の秘密基地である廃ビルにした。人目にもつかないし、邪魔も入らないだろう。まあ、あのエロ上司を除いての話だけど。

 一応、サングラスで変装してみた。

 ちょっと!おっさん!ジロジロ見ないでよ。サングラス外して石にしちゃうわよ。えっ? ああ、タバコ吸うのね。灰皿使いたかったの? ごめんなさい、邪魔だったわね。


 あ、来た来た! あの子だ、気付いた! 手を振ってる、かわいいな。


「せんせーい」


 駆け寄ってくる。 おーよしよし、よく来たね。


 目がキラキラしてる。若いっていいわね。私なんか八万六千三百二十三歳だし。

 川本さんには「特訓よっ!」て言ったけど、せっかく二人っきりなんだし楽しんじゃおうかなあ。いけない、いけない、任務を忘れていた。封印を解く方法を見つけるんだった。


「じゃ、ついて来てね」


 川本さんと歩いていると、姉妹に見えるかな? まさか、親子には見えないよね。この間サキュバスにも、「先輩お疲れですね」って言われたけど、老けてるってこと?

 

 さあ、着いたわ、案外早く着いたわね。あっ、あそこの窓割れてるじゃん。いたずらかしら? このへんあまり治安が良くないって言うし。さてと、カギを開けるぞっと。

 

 ん、川本さんが固まってる。どうした? はっ! 、やっぱりこのビル怪しすぎた?

 だからもうちょっと綺麗なところにしましょうって言ったのよ。ルシファー様は「贅沢いわないでー、節約節約ーっ」て聞いてくれなかったけど。

 

 「ああっ、ごめんなさい! もっと立派な場所だと思った? でも大丈夫、ちゃんとオーナーには許可もらってるし、こう見えて便利なのよ」

 

 うん、ウソはいってないわね。ビルオーナーの地主には記憶操作で私がビルを借りているという記憶を植え付けたし、学校から近くて便利なんだから。

 

 安心した? さあ入った、入った。入ってしまえばこっちのもの……って違うか。

 

 奥の部屋に地下室への扉があるからついて来てね。思ったほどボロくなかったでしょ。

 ああ、瓦礫がれきが散らばって歩きにくいって? ほんと、ごめん!片づけるの忘れてた。さてと、扉を持ち上げよう……と。しまった、この扉すげー重かったんだ。

 

「川本さん、手伝ってもらえる?」

 

「いちにのさーん」


 そうそう、二人の初めての共同作業でーす。なんて結婚式じゃないっつーの。

 

 さあ、開いたわ。地下室に続く階段があるのよ。覗いてみて! 明るいでしょ! フフーン、先生自慢の妖精灯よ。昨日夜遅くまで準備したんだから。

 ほら、影がないのよ、影が。なんで影がないっかって言うとね、簡単には説明できないんだけど、……えっ、もう降りるって? ああ、足元気を付けてね。うん私が先に降りるから。

 

 さあ、着いたわ、結構広いでしょ。ああ、それ、気付いちゃった? やっぱり気づいちゃいました? 魔法陣。どうどう、傑作でしょ。学校の備品クレヨンで書いたんだけどね。

 

 先生の秘密基地へようこそ、川本さん。エロ上司以外は誰も入れてないから、マジで

 

 さあ、そろそろ特訓はじめましょうか? 覚悟はいい? じゃない、準備はいい?

 

「はい、お願いします、先生」


 ふはー、「お願いしますっ、先生っ!」だって、キューンって来た、まじでキュン死するから。もう一回言って。もう一回。

 

 えっと、なんだっけ? ああそうそう、魔法力測定からにするわ。魔法陣の中央に立ってみて、うーん、もうちょっと右かな? どこが中央かわからないって? だいたいでいいのよ、だいたいで。

 

「ディクミヒ ジェヌイン エゴ エリス」


 54,300かー、うわっ高い! サンダーボルト雷撃ぐらい打てそうね。えっ、みんなはどれくらいかって、そんなの低い低い、たったの1,000ぐらい。

 

 サンダーボルト打っちゃうとビルがまるごと黒焦げになっちゃうから、最初は10,000ぐらいにしとこうか?

 

 えっと、10,000の呪文、10,000の呪文と……、迷うわねー、ちょっと待って! 魔法ノート見てみるから、なになに、「壁を通り抜ける呪文」か、これ通り抜けるとき服が破れるのよね、やめとこう、エロ上司はよく使わせているらしいけど。

 

 「自分を好きにさせる呪文」あーこれね。確かに一次的に好きにさせることが出来るんだけど、魔法が解けたら前より少しだけ嫌いになると言う副作用があるんだったわ、なんか微妙よね。

 

 他には……、あっ、いいのがあった。「お互いの肉体を入れ替える呪文」これ鉄板よ、てっぱん。

 

 説明するのめんどくさいから、いきなり唱えちゃおう。

 

「さあ、リピートアフターミー、ミス川本!」


「アニマ、アニムス、メンス、コルプス」


 えっ、もう入れ替わった? 久しぶりだから感触が掴めないわね。あー、いるいる、目の前に私がいる。ちょっと太った? コンビニチキンばっかり食べすぎたかしら。

 

 これ、川本さんの体? 肌すべすべじゃん! 足細っ! 普段何食べてるの?

 わー、制服だー。これ、女子高生ってやつ? てゆーかー女子高生だしー、先生マジうざいしー…… なんか空しいわね。

 

 ほらー、びっくりしたでしょー、川本さん。あ、こらこら先生の胸もんじゃだめ、気持ちよくなっちゃうよ。げ、笑ってる、胸がでかいだけの頭からっぽ女って思われた?

 

 「どう? 川本さん、これが肉体を入れ替える魔法よ。驚いた?」

 

 どうどう? ラブコメでよくあるシチュエーションでしょ、でしょでしょ?

 

 えっ、今、魔法陣光ったぽいけど…… まさか……!

 

「エヴァちゃ~ん、楽しそうだねー」


 げげ、今日は報告する日じゃないでしょ! ちょっと、やめて! はうっ。

 

「選手交代だねー、後はまかせて」


 だめだ、意識が…… ルシファー様に体を乗っ取られる……

 

 

 

 

 う、ううん……、はっ! うわーやられたよ、完全に意識を失ってたみたい。

 川本さんはどこ? いた! 私の膝の上に頭が乗った状態で横たわっている。どうやら眠っているようね。私はこの子になにしたんだろう? ルシファー様のことだ、あんな事やこんな事をやったに違いない。しかも私は覚えていないってずるくない?

 

 そういえば昔、私も母親に膝枕してもらったっけ、遠い遠い昔だけど。幸せそうな寝顔を見てると思い出してしまった。

 

「うう……せんせい?」


「目が覚めた? よかった」


「私、どうしちゃったんだろ、たしか……! うそっ」


 みるみるうちに顔が真っ赤になる川本さん、私のお腹に顔をうずめて足をバタバタさせている。あー、何となくわかる、やらかしたんだね私、記憶はないけど。

 

「ねえ、白姫先生」


「なあに? 川本さん」


「また来てもいい? 先生の秘密基地」


 まあ、いいか、今後のことはまた考えよう。

 

「一緒に特訓よ、秘密基地でね」 

 

 

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る