先生、私は応援します

 白姫しろひめ先生との特訓は、今週末の放課後となった。

 

 待ち遠しいなあー。

 

 私の通っている「サイコ学園」は、私立の魔法少女育成施設だ。よく漫画やアニメでは悪魔とか妖精と契約して魔法少女になったりするのだけれど、現実にはプロのアスリートに近い存在だ。

 

 有名になればマスコミにも取り上げられて、まるでアイドルのような扱いになる。

 当然、競争も激しく試験に合格して公式な魔法少女になれるのは一握りの女の子だけ。それまでいろいろお金もかかる。

 私の家はごく普通のサラリーマン家庭なので、学費だけでも結構な負担になってるはずだ。

 それに引き換え、親友のソフィアは正真正銘のお嬢様だ。ソフィアのお父さんは、ヨーロッパの貴族で世界中に会社を持っているのだ。

 仕事で日本に来たときにソフィアのお母さんと出会って、恋に落ち、ソフィアが生まれたのだそうだ。

 

 うーん、とってもロマンチックな話よね。

 

 一年生のとき、私とソフィアは、たまたま同じクラスになった。引っ込み思案でなかなか友達のできなかった私にソフィアは声をかけてくれた。


 魔法の成績は、ソフィアが常にトップクラス。難しい魔法も難なくマスターしていくのを見て、すごいなーっていつも感心してばっかりの私。ドジな私を励まして支えてくれる大切な存在、それがソフィアだ。

 

 学校の中庭に芝生広場があり、私たちはそこで色々な話をした。

 

「ねー、かすみ、かすみは、どんな魔法少女になりたい?」

 

「んー、難しい質問だねー、あんまり考えたことないや」


「かすみはねー、スタンドバイミー魔法少女かな、ふふふ」


「なにそれー、変なの、あははは!」


 ソフィアは私の耳元でささやく。


スタンドバイミーそばにいてね、かすみ」


 楽しい時間はどんどん過ぎていく。二年生になり、ソフィアとはまた同じクラスになった。あいかわらず、ソフィアは優等生、私は落ちこぼれのままだったけれど。



 

「……すみ、ねえ! かすみってば」

 

 ソフィアが私を呼んでいる。教室の窓からぼーっと外を見ていたので気が付かなかった。

 

「あ、ごめんソフィア、どうしたの?」


「今日、私の家に来ない? 一緒に勉強しようよ」


「うん、いいね! いくいく」


 授業が終わり、片付けをしてから教室を出る。いつものように校舎のシューズボックスで靴を履き替えて、門に向かう。

 

「せんぱーい! ソフィア先輩!」


 後ろから誰かが追いかけてくる。振り返ると、ショートカットのすらりとした女子だ

 やや色黒で男の子っぽい雰囲気がある。

 

「どうした? 藤堂」


「先輩、ちょっと話したいことがあるんですけど」


 ソフィアは私に

 

「合唱部の後輩の藤堂さん」


 と紹介してくれる。


「部活で何かあった?」


「ここじゃ、ちょっと……」


 私の方を見ながら藤堂さんは言う。もしかしたらお邪魔なのかもしれない。

 

「ソフィア、聞いてあげたら? 私、中庭で待ってるから」


「でも……」


「いいから、いいから、部長なんでしょ!」


 迷っていた様子のソフィアだったが

 

「分かった。待ってて、かすみ。すぐ行くから」


 と言い残して、藤堂さんと一緒に行ってしまった。

 

 一人になった私は中庭をぶらぶら歩く。


 ソフィアとよく来る芝生広場にやって来た。何人かの生徒が思い思いにくつろいでいる

 

「川本さーん!」


 担任の山田先生だ。なんだか急いでる様子で小走りでかけてくる。


「どうしたんですか? 先生」


「ソフィアさんと一緒じゃなかった?」


「ちょっと前まで一緒だったんですけど、後輩に呼び出されていっちゃいました。でもすぐ戻って来ると思います」


「そっかー、困ったなー、実は合唱コンクールの参加申し込みに不備があってね、申込書をもう一度FAXで送らないといけないんだけど、ソフィアさんが持ってるんだよなー」


「代わりの書類で申し込みできないんですか?」


「理事長の印鑑が押してあってね、簡単にはもらえないんだよー、しかもすぐに送ってほしいって言われちゃって、まあ俺のミスなんだけど」


 山田先生は、合唱部の顧問なんだけどうっかり屋さんで有名だ。この間も、部員がいるのに部室のカギをしめてしまい、ソフィアにこっぴどく叱られていた。


「わかりました、私探してきます!」


 二人はどこに行ったのだろう? 周りの生徒に聞きまわったところ、どうやら談話室に行ったらしい。


 談話室は、誰でも使えるフリースペースで一応椅子と机が備え付けられている。校舎に入り廊下を進んでいくと、談話室の扉と窓が見える。




「納得できませんっ!」


 突然、女の子の興奮した声が聞こえる。あれ?

 周りを見回すが誰もいない。この声はどこから?


「ごめん」


 これは、ソフィアの声だ。まさか、談話室の中から聞こえているのか? だとしたらどんだけ大きい声で話してるの。


「先輩に好きな人がいるなんて!」


えっ? えーっっ! 今なんて言った?


 談話室のなかをこそっと覗いてみると、ソフィアと藤堂さんが向かい合って座っているのが見えた。


 大声で話している感じではない。部屋の中の声が聞こえているのだ。


 ソフィアの口がパクパクと動くが、今度は何も聞こえない。もう!肝心なところなのに。


 あー、どうしよう? どう見ても修羅場だよね。

 のこのこ入っていける雰囲気じゃあないし。


 談話室から見えないところまで後退し、廊下の壁に寄りかかって深呼吸してみる。


 先輩というのは、ソフィアのことだろうか? そうなら、ソフィアに好きな人がいるってこと?


 まさか、そんな……

 少しも気が付かなかった。他の学校の男子かしら?

 それとも、先生? まさか山田先生? いやいやそれはないし。


 ガラガラガラ、談話室の引き戸が勢いよく開いた。続いて、藤堂さんが泣きながら飛び出してくる。私に気づいた藤堂さんは、一瞬驚いた表情になった。


 次の瞬間、私を睨み付けてくる藤堂さん。ごめん、聞くつもりはなかったの、と心の中で謝ってもダメだよね。


 結局何も言わず藤堂さんは行ってしまった。恐る恐る、談話室を覗いてみる。ソフィアはまだそこにいた。窓から外をのぞいている。声をかけることが出来ずにいると、ソフィアはスマホを取り出して、なにやら操作している。

 

 写真を呼び出して見ているようだ。ここからはどんな写真かは見えない。

 

 のぞき見はよくない。そう思ってドアをコンコンとノックしてみる。

 ビクッとしたソフィアはこちらを振り返った。

 

「えっ、かすみ? どうしてここに?」


 スマホを後ろ手に隠している。

 

「あ、あのね! 山田先生がソフィアのこと探してて、それで、えっと、なんだっけ? あ、そうそう、談話室にいるって聞いたから……、来ちゃった」


 しどろもどろになる私。

 

「ふっ、なにそれ」


 あきれた様子のソフィア。

 

 私は、合唱コンクールの申込書について説明して、二人で山田先生のところへ届けに行った。ずいぶん寄り道してしまったが、改めてソフィアの家に向かって出発だ。

 

「藤堂さん、かわいい子だね」

 

「うん、そうだね」


 表情を変えずに答えるソフィア。

 

「藤堂さん、泣いてた」


「うん、泣かしちゃった」


 あー、もう何があったか聞きたいのに聞けない!

 

 

「告白……、されたんだ」


「そそ、、それで?」


「断った」


 好きな人がいるからだよねー、誰なのー?

 

 シーン……。

 

 ダメだ。聞けない。

 

 うん、いいよ。かすみは応援するよ。親友としてね。

 

 

 

 

 いや、スタンドバイミー魔法少女としてか 














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