mission 29

「うーん、美味しぃ」



幸せそうな声と表情でスプーンを口に運ぶ、アイドルなのかよく分からないのが一名……



「あげないわよ」



それと、食い意地の張った奴が一名……

どうやら人の財布で食べるスイーツとやらは美味しいらしい。

あまりの警戒心の無さに、こちらは毒気を抜かれた気分だといえる。

980円ほどのフルーツがのったパフェで機嫌が取れるのなら安い。

そもそもの金銭感覚などまるで無い俺にとっては、このパフェの値段が高いのか、安いのかすら分かっていない。



「いらないよ……」



ここで断って置かなければ、俺自身も食い意地が張ってるように見られかねない。

それを聞いた護衛対象様は幸せそうにスプーンを口へと運ぶ。

人とは食べ物でよくここまで幸せな顔をできるものだ。

どうやらここは人気のスイーツ店らしく、店は混み合っており、雑多な音で、店内が喧騒となっている。

大学生に見える人から、制服を着る高校生……主に学生で賑わっている。

そんな中で俺は店内にいる男から大量の視線を受け止めている。

何故、一般人から敵意を向けられ無ければならないのか……

こんな中でストーカーを見つけるのが困難な以上は、大人しく高校生とやらを演じなければならない。



「なになに? 私の顔にクリーム付いてる?」



さて、この女はストーカーに追われているという自覚はあるのだろうか疑問だ。



「よくパフェ一つで騒げるなと思っただけだ」


「なによ、悪いかしら」



あんたの横にいる奴だ……

この二人に共通しているのは、護衛されているという自覚が皆無と言う点だ。

君達以外の要人はもう少し護衛されている事を自覚しているのだが……

それにしても周りの視線が痛い。

この視線は俺が高校生に見えないのだろうか?

腐っても制服を着た高校生に見えている筈で……、年齢的にも問題無い上に、ちゃんとそれっぽく振る舞っている……筈だ。たぶん。

正直学生生活など、これまで16年ちょっと生きてきた中で、数か月ほどの経験しかもっていない。

周りの視線にそろそろ耐えきれなくなった俺は、二人に聞くしかない。



「なあ、これは何の視線だ? 俺は高校生として振舞えてないのか?」


「はぁ? 貴方分かってないの?」



本気で呆れられた顔をされる。

亜美すら微妙な顔を向けてくる。



「だから聞いているんだが?」


「貴方、中身は本当残念よね……」


「えっとね、この視線は君が羨ましいって見てくるんだよ?」


「羨ましい? まさか俺の仕事がバレてるだと……」



嘘だ。

俺の仕事が何なのか分かってるなら誰もやろうとしない筈だ!

むしろ譲ってすら良いと思っている。

こんな、護衛されてる意識の欠片すら持ってないのを護衛するくらいなら、戦地で戦闘をこなす方が楽だ。



「そんな訳ないわよ。美少女2人も侍らせてるのよ、普通羨ましがるでしょう?」


「美少女? 鏡は必要か?」


「貴方の目は節穴かしら?」


「まぁまぁ2人とも……」



凄い目で睨まれるのを亜美が宥めている。

その目は正直怖い。

その怖い護衛対象を宥め終えた亜美は、俺に分かるように説明をしてくれる。



「要するにね、私達と楽しそうに会話する空君を羨ましがってるんだよ」


「なるほど。分からん」


「ええッ!?」



全く理解を示さない俺に亜美は酷く驚いている。

そんなのが分かるなら、今頃俺は一般人として生活してるのだろうな。

戦場に慣れすぎた結果とはいえ、俺は人の気持ちを理解できない。

敵意には人一倍敏感なのに、好意に対しては疎すぎると過去に小言を貰ったほどだ。

そうでもしなければ生き残れなかったとは言え、人としては欠陥品だと自覚はしている。

平和な世界になじめないのも、このためだろう。

だからか、護衛対象様は酷く呆れている。



「呆れた」


「まあ、当然の反応だな」


「自覚はあるのね……」


「無かったら、こんなことになってない」


「あっても似たような結果になってるんだけど」


「当然だな」


「誇らないの」



当然ながら叱られる。

周りの男達が羨ましがる、か。

分からないが、今後の為に頭の片隅には入れておこう。

俺に説教をする気も失せたのか、2人で会話を楽しんでいる。

これが美味しいとか、今度別のとこに行こうとか……

気の置く必要が無い友人とはこの事を指すのだろう。

心から友人と思っているのは間違い無い。


俺にとってそんな人は……いない。

所属する部隊の周りにいるのは、仲間であっても他人でしかない。

状況次第では敵にだってなる可能性がある。

普通仲間が裏切る事などありえないが、そんな状況は過去に一度だけ起こった。

双方に悲惨な結末をもたらし、なんとも後味の悪いものだ。

それ以降、俺は人を信じるのをやめた。



「どうしたの? 怖い顔してるよ?」



少し怯えた顔をしながらも心配をしてくる。

彼女は何故、俺にここまで構うのか。

優しさとは、時に残酷だ。

俺は過去の苦い思い出を頭から追い出す。



「いや、なんでもない。それよりもう食べたのか?」


「うん、美味しかった。ありがとう空君」


「機嫌を取るのも仕事だ」


「またそう言う事を言う……」



少し拗ねたように言う彼女。

ずけずけと踏みこもうとしてくる態度はやはり苦手だ。

気を紛らわせるために話題を変える。



「この後の予定は?」


「特にないわ」


「うん、私も後は帰るだけだよ。何か予定とかあるのかな?」


「ああ、今の内に片付けなけきゃいけない野暮用が一つある。



携帯を弄り俺以外の護衛を呼ぶ。

2人は何かを察したのかこれ以上の追求はして来ない。

大人しく会計を済ませ、車が到着し2人を見送ると、俺は後ろに振り返る。



「さて、お前は何のようだ」


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