mission 22

さて、運命の土曜日だ。

あれからのニュースは悪い方へ向かっている。

ほぼ最悪の状況だ。

どうやら、テロリスト達は俺が出てきた事を相当に腹を立てているようだった。

あらゆる罵詈雑言が書かれた犯行予告が日本官邸に届いたと言う。

本来なら会談は見直すべきであるが……

他のヨーロッパ側は見直す意見に対して、アメリカ側の『テロに屈するべきではない』との強い要望で強行開催も決まった。

開催国である日本が判断できないと言うのもおかしな話だが、力がある国が我が物顔でリーダーをするのも腑に落ちない。

そんな力のある国が好き勝手に平和だ、平等だ、なんて言うのだから少しはテロリストの気持ちも理解出来ると言うものだ。



しかし、犯行予告が届いたと言うことは、今日まさしく襲撃が行われる可能性が高いと言う事だ。

それがどう言う事か分かっていないであろうのが目の前に2人ほど。

楽しそうに会話を楽しんでいる。

襲撃があるかもしれないと言うのにのんきな事だと言えばそれまでだが、この世界を知らないなら知ってしまわない方がいいに決まっている。

あくまで巻き込まれた一般人でいられるのだ。

周囲から同情され、あるいは慰められ、アレは悪い夢だったと否定してくれるのだ。

そう、またいつもの日常へと戻れる。

だが、知っていたらどうか?

もし俺が敵なら、裏を知るような危険な人物は真っ先に消しにかかる。そんな世界だ。知るような事はない方がいい。

それでも巻き込まれて命を落としたら?

それはそれであまり考えない方がいいな。



ただ今日ここへ襲撃があるかもしれないと情報を流すべきかどうか……

混乱を招けば手のつけようが無くなる上に、テロリストの襲撃が重なれば、それこそ2人の命を落としかねない。

最悪、護衛対象を守り切ればこちらの勝ちではある。

その場合、もう1人を見捨てる事となるが。

それが正しい事なのかは俺には……いや、頭では分かっている。

正しくはない。

正しくは無くとも現実を見なければいけない。

俺は万人を救える力があると自惚れてはいないし、そもそも現実主義だからだ。

最大限の努力はする。でも切り捨てなければいけない場合が存在するのもまた事実。

火のついた相手に更に油を注ぐようなほど派手に暴れる訳にもいかない以上、求められるのは未然に防ぐこと。

まぁ、無理だな。

俺はどこかの国のエージェントでは無く、傭兵だからだ。

未然に防ぐではなく、起きた後の戦闘に重きを置いている。

予防と始末では全然違うものだ。



「どうしたの?楽しくない?」


「あ、ああ。休日に仕事とは泣きたいね」


「ゴメンね。わがまま言っちゃって」



どうやら皮肉は通じないらしい。

その小さな顔から覗かせる申し訳なさそうな表情は狙ったものなのかは分からない。

その程度で実際泣くわけもなく、可哀想な奴だと結論付けて後ろをついていく。

しかし何故だろう?

この護衛対象と一緒にいるのに性格が似てすらない。むしろ真逆だろう。

ここの国では類は友を呼ぶ、なんてことわざがあるのだが……当てはまらない事が多いのだろうか?後で調べてみるとしよう。



「騙されちゃダメよ。この程度で動じていたら護衛なんて勤まらないもの」



まぁ、確かに言う通りだ。

休日に仕事だと憂鬱になる事は戦士には許されない。

何故なら命に直結するからだ。

気を抜いて死ぬなんて事は間抜けのする事だ。

泣きたいなんて表向き言っていても結局、何も感じてすらいないし思ってもいない。

これが俺を戦士たらしめるものなのだろう。

自分自身を客観視出来ている時点でかなり人間味は薄い。

だからこそ人を殺せるのかもしれない。



「お昼何か食べたいものとかあるかな?」


「そうだな……食べれるものならなんでも構わない。それに仕事中は控えている」


「うーん……君と同じ歳の子って、もっとがっついているんだけどなぁ」



こっちは水も食料も無しで戦わされることもある。

慣れてなければ既にあの世だ。

目の前の彼女達にとってはあり得ない世界なんだろうな。

誰と比べているのかは知らないが。



「ちゃんとお昼は食べる。オーケー?」


「あ、…ああ」



どうやら昼を食べることになってしまったらしい。

実感があまり湧かない。

アメリカでの後もヨーロッパで単独で行動し戦闘をしていたのが、いきなり一般人2人と昼食を取るのだ。

この国の外では考えられない事だ。

いや、そもそも護衛が守るべき人と昼食とは笑われるな。

この2人、どうやら少し強引なところは似ている。

さて、戦闘も避けられない中でどうしようか……





ショッピングモールについてからと言うもの、最大限の警戒をしながら2人の後ろをついて回っている。

この建物は3階建てであり、真ん中は吹き抜け。高所を取られた場合3階から1階へ照準が向ける事が可能な構造をしている。

所狭しと並んだテナントの店にある防弾に最適な物は無し。

もし捕虜を取った場合、詰め込まれるのはフードコートだろう。



勝機があるとするならば3階を確保した上での射撃。

この場合もたらされる死者数は捕虜とイコールだ。

普段、攻撃者としてアメリカ軍を容赦無く潰して回っている身として、攻められる方になってみて気付くこともある。

実に面倒臭いと言うことだ。

敵の数も分からなければ武装も分からない。

敵が取るであろう展開方法も見えない上に、敵の戦闘力も不明なのだ。

こちらが攻撃する場合、事前に敵の情報を調べ上げ、目撃者の出ない状況を作り出してから軍人だけを殺すと言うものだ。

そのおかげか、切り裂きジャックなんて二つ名は出回っているものの、未だ姿は特定されていない。

それが今回、吉と出るか凶と出るかはまだわからない。

上手くやれば先制は取れるだろう。条件が悪すぎて勝てるかは不明だが。



更に悪い状況なのが、そこまで火力のある装備は持って来ていない。

室内戦闘用に用意したP90が現状の装備で一番火力がある。

本当はM870を用意したかったが民間人への配慮という事で無しになった。

人が死ぬのは両方一緒なのだが理解はされなかった。

そのP90も2階フードコート付近のコインロッカー内だ。

今あるのはいつものベレッタとナイフのみ。

連絡用にインカムもあるが、小さいが為にバッテリーが4、5時間もてばいい方だ。

襲撃時か、昼以降に使わなければ途中で使えなくなってしまう。

この制限下で敵の襲撃を未然に防ぐ又は防衛しなければならないというのだから困る。

この目の前のお荷物を二つも抱えて、だ。



「ねぇねぇ、これなんてどう?君の感想は?」


「どうと言われても……そんなこと聞かれても困る」


「そんな事じゃないんだよ。大事なの」


「よく分からん」


「何それ。お爺ちゃんみたい」



笑っているみたいだが、どうやら貶されているらしい。

以前、仲間の1人が絵の女性に可愛いよミルたんなどと言いながら選択肢を選んでいるのを思い出す。

そんな風に選択肢が出れば何も分からない俺にも塾考ぐらい出来るというもの。

しかし無いものは無いと諦めなければいけない。

正直、あのゲームをプレイしている彼には引いた。



「もう少し気の効くような事言ったらどう?」



もう1人に半眼で睨まれた。どうやら間違えたらしい。

しかし、ヒラヒラしている服に何と言えと?



「期待しても困る。このような場所に来るのは初めてだ」


「君、他の子とかと来た事ないの?モテるとばっかり思ってたんだけど」


「…??? 戦いしか出来ない奴がこんな場所に来るわけないだろ」


「へー、そうなんだ」



どうやら、少し機嫌は良くなったようだ。

何がそうさせたのか全く分からない以上、反省のしようもないと言うものだ。

まったく気難しい。



「キャっ!」



目の前をぶつかる男。

体型からして普段から鍛えられている。

弾き飛ばされてしまうのは仕方ないだろう。

丁度こちらに飛ばされた為、受け止める。

しかし、男は小さな悲鳴を聞くまではぶつかったことすら気付いていないようだ。



「スミマセン。この国に慣れていないもので」


「いえ、大丈夫です!」



意味ありげに日本式の礼をしながら謝る二人組。

何事も無く事が済んだ彼等は通り過ぎていく。

通り過ぎる時にふと香る嗅ぎ慣れた匂い

間違いなくAKの弾だ。しかも歩幅も大きい。ビンゴだ。

こちらが目標だとは気付いてすらいないのか、それともワザと接触を図ったのか。

いや、日本知識が薄い点を見るに、ごく最近に来たと見るべきか。

どうであれ最悪このデカブツ達と戦闘をする事になる。



「大きかったぁ……凄かったね」


「2メートルぐらいかしら?けど亜美、貴女変装解けてるわよ」


「うわわ!ホントだ」



気付いた彼女は慌てた様子で元に戻そうとするが、一歩遅かったようだ。

周りには人だかりが出来ていた。



「おっ、スッゲー!あみあみじゃん!」


「え、マジかよ。こんなとこにいんの⁉︎」


「あみあみって最近有名なあのグループの?」


「ホントだ!あみあみだ!ねー、こっち見て!」


「あはは……」



まさかこんなところで足を引っ張ってくれるとは……

それだけ彼女が有名だと言うことは理解したが、抜け出すのに午前を使い切る事になるとは思いもしなかった。

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